第 II 章 日本野鳥の会の目的と性格

1.日本野鳥の会の目的

 理念と自然保護の考え方に基づいた日本野鳥の会の基本的な目的は、人間と自然との一体的な共存を図ることである。
一体的共存へ向けて日本野鳥の会の具体的な目的は、次のものである。
(1) 野鳥を通して自然の素晴らしさに接し、自然のしくみや人間活動との関わりに興味関心を覚え、自然を守っていこうとする人を増やす。
(2) 自然に親しみ保護する支援者の組織的な力を基に、野鳥や他の野生生物の生息する多様な生態系を守り、また、地域の自然の復元に積極的に関わり、自然と人間とのよりよい共存を実現する。
(3) 野鳥の生態、野鳥と環境とのかかわり、野鳥と人間との関わり等を明らかにして自然保護、環境保全のための自然科学的また人文・社会・文化的資料を蓄積、活用し、また、その成果を人間と野鳥と自然とのよりよい関係を築き上げる思想形成に資する。

2.日本野鳥の会の性格と役割

 日本野鳥の会の活動は、野鳥に親しみ、野鳥や他の多くの生きものたちの住む自然を保護することに重点を置いている。それは「野鳥にとって良い環境を守ることが、人間にとっても必要な暮しよい環境をつくることにつながる」との考えに立つからである。「あなたの自然との新たなつきあいが、自然環境を守ります」という呼びかけによって、大方の支援と広い視点をもって多様な自然環境を守り、最終的には自然と人間との共存をめざす団体である。
 日本野鳥の会は、会員や社会の幅広い層に支持されて活動する全国組織の民間自然保護団体である。会の名称だけからみると、野鳥好きの趣味の会、珍鳥を探し求める会など野鳥だけに目をむける集団あるいは野鳥研究学術団体というイメージが一般に強い。しかし、会は、野鳥にまず接し、野鳥に親しみ、野鳥から他の野生の生きものたちへと視野をひろげ、それらの生活する舞台である自然の素晴らしさを発見し、自然の美しさや神秘さに感動したい、そういう人たちの団体を目指している。自然にやさしい気持ちで「美しい自然・すばらしい野鳥たちの世界」に接し、その自然を大切にしようとする人たちの会なのである。従って、会員は野鳥そのものに強い関心を持っている人たちだけではなく、会の理念に賛同する人は誰でも参加・入会できる団体である。
 「野鳥・自然・地球」、「親しむ・知る・守る」をキイワードとして同じ目的に向かって活動する際に、年齢、性別、職業などにこだわり無く、会員だれもが自由に参加できる団体である。会員に一つ共通していることは、会員同士が、野鳥や自然への想い、心で結ばれている点である。日本野鳥の会の理念を根底としたバードウォッチングという知的で健全な活動に参加する人の情緒的な心の絆をも大切に考えている団体である。
 「あなたが会員でいることが、自然を守る力となっています」という表現で示されるように、バードウォッチングに出かけなくとも会の活動に参加しなくとも、「会員を続けることだけでも自然を保護する力となって会の活動を支えている」という考えの会員も増えており、こうした会員をも含めて多くの人の力によって保護活動を進めるため、特定な思想や過激な行動に偏ることなく、世論の支持を得るなかで野鳥とそれを取り巻く自然を守っていくのである。
 日本野鳥の会の活動には、やりがいを感知した会員誰もがその意志と力量に応じて、責任あるボランティアとして参画できる。力になる人を捜す会員、汗を流す会員、知恵を出す会員、資金を工面する会員などがおり、各地域の支部の諸活動やその運営に携わるのも会員である。一方、フルタイムで保護を進める本部事務局があって、支部の役員幹事やリーダーが中心となって地道に進める地域の幅広い活動を、全国的に支援している。
 各地域の活動は主に全国の会員や支部の力を中心に展開され、全国的あるいは国際的な活動は本部事務局を核として進展するのである。日本野鳥の会は、地域・全国・国際的な保護問題を会員、支部、本部の連携ネットワークによって取り組み、自然を守る活動を推進する財団法人である。従って、その活動は、支部、本部ともに社会一般にも強く働きかけていくものである。
 上記の性格を持つ日本野鳥の会は、次に述べる役割を担うものでる。
(1) 基本的役割
1) 日本野鳥の会は、人間に自らの意志を伝える術を持たない、人間社会からとかく無視されがちな野鳥や他の生きものたちを代弁し、人間による環境破壊から彼らの生息地を守る役割を担っている。
2) 自然環境の保全に対し、より理解ある社会へと社会自体を変えていく役割が、日本野鳥の会に課せられている。
3) 日本野鳥の会は、会員、支部、一般の人々などの支援、協力のもとに、財団法人として自然を守る公益的な事業を全国的国際的に展開する。
(2) 社会的役割
1) 日本野鳥の会は、直接の活動対象は野鳥であり自然であるが、その活動は人間との関連を抜きにして語ることは出来ない。自然環境の保全と人間諸活動とが調和の取れるよう、野鳥や自然と人間社会との橋渡し役としての、社会的役割と責任に応えていく。
2) 自然を守る活動は、公益性の高いものであり、政治、経済、文化など社会の諸活動と遊離しては効果が上がらない。日本野鳥の会は、野鳥と自然に親しみ、守るために関連する政治、経済、文化的な諸分野へ積極的に働きかけ、野鳥への愛と自然保護への関心を社会に浸透させ、その活動の成果を社会に還元する。
3) 日本野鳥の会が自然と人間との共存に向かって活動を続けるなかで、その活動が究極的に目指す意義を、常に社会に問いかけていかねばならない。それは、探鳥会などを通した会員個人個人の自然体験の域を越え、野鳥や自然を通しての社会を改革する運動の一環として社会に浸透させ、発展させていくことである。
4) 日本野鳥の会の活動には、自然との絆を肌で感じさせることによって、現代社会の人々がとかく忘れがちな人間も自然に強く依存した生きものであるという実感を呼び覚ます願いが、根底に流れている。物質的、金銭的な価値を追う人の多い昨今、自然から受ける、とかく薄れがちな人間の精神的、情緒的な価値を、自然と接する機会を通して培い高める大切な役割を担っているのである。日本野鳥の会は、野鳥や自然を通してより豊かな文化的、精神的な人間啓発の機会を増やすことによって、社会に貢献するのである。
5) 活動に参加する場が自然の中であっても室内であっても、会員同士はもちろん更に一般参加者との交流の場となり、日々の社会生活に潤滑油のような目に見えない大切な役割を担っている。
6) 人間社会の国境問題をよそに、渡り鳥は自由に行き来する。その野鳥たちを共通の活動対象とするとき、それに携わる人々の間に、国境や国家の主義主張の違いを越えて、協調協力の精神がみなぎる。この精神に基づき、日本野鳥の会の活動は、日本国内のみならず国際協力の分野でも積極的に展開され、その先駆的役割を果たしていくことになる。