渡り鳥の回廊 イスラエルレポート

文=安藤康弘 会員室室長
野鳥写真提供= Jonathan Meyrav(SPNI)協力=イスラエル政府観光省

渡り鳥の回廊 イスラエルレポート
①オオフラミンゴ
南ヨーロッパ・アジア南部に分布し、一部は渡りをする。ヨーロッパフラミンゴともいう。

2017年3月、イスラエル訪問の機会を得た。この時期、イスラエルは猛禽類を中心に渡り鳥が多数通過することで知られ、これに合わせて、南部の町エイラットにて「エイラット・バードフェスティバル」(今年は3月19 日~ 26 日)が開催された。その模様を取材した。

多様な環境に540種の野鳥が生息

地中海を挟み、ヨーロッパ・ユーラシア大陸とアフリカ大陸の間には、三つの主要な鳥の渡りルートが知られており、そのうちの一つのルート上に、イスラエルは位置する(上図参照)。イスラエルでは約540種の野鳥が記録されているが、そのうちの約280種、半数以上が渡り鳥である。また環境は、海岸、河川、湿地、湖沼、砂漠、森林と多様であり、それ故に観察される野鳥も、海鳥から山野の鳥まで多種多様である。

バードフェスティバルで募金活動

エイラット・バードフェスティバルは、多くの人々に野鳥や自然に親しんでもらうことのほかに、違法な狩猟の問題に対する保護活動のための資金調達をすることも、目的の一つである。目玉イベントである「チャンピオンズ・オブ・フライウェイ」は、世界中から集まった野鳥観察のエキスパートたちによってチームが編成され、24 時間の内に何種類の野鳥が見られるかを競うとともに、各チームはスポンサーを募って募金を集める。今回は18 チームが参加し、募金はトルコの野鳥保護団体を対象に、同国での違法狩猟を抑制するための教育啓蒙活動支援として集められた。

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②エイラット山麓
エジプト国境の近く、ネゲブ砂漠の一部である荒涼とした山岳砂漠地帯。ソウゲンワシ、ヨーロッパノスリ、ヒメクマタカの群れが、稜線の向こうエジプト側から上昇気流に乗って、途絶えることなく鷹柱になって現れる。群れの中には、エジプトハゲワシ、カラフトワシ、ヨーロッパチュウヒなども混在し、多様な猛禽類が一度に見られる様子は圧巻。 Photo: Dafna Tal
③エジプトハゲワシ
西アフリカから南アジアに分布し、イスラエルは越冬期に南方に渡る際の中継地となっている。
④ソウゲンワシ
エイラットでは渡りの時期に、多数を見ることができるが、他の地域では少ない。
⑤カラフトワシ
イスラエルには冬鳥として渡来するほか、渡りの時期に観察することができるが、数は少ない

地中海周辺諸国が抱える違法狩猟問題

種の絶滅が危ぶまれる、生物多様性喪失の危機は、世界的に深刻な問題である。日本では、開発などによる野生生物の生息環境の消失、後継者不足等による里山環境の衰退、外来種の移入などが主な危機要因である。一方、ヨーロッパ、アフリカ大陸では、違法な狩猟が最も大きな危機要因となっている。国際環境NGO・バードライフ・インターナショナルの調べでは、地中海周辺諸国でわかっているだけで毎年2千500万羽の野鳥が違法に狩猟されているとし、このままでは種の絶滅が加速すると警鐘を鳴らしている。国別で見ると、エジプト、イタリア、シリア、レバノン、キプロスなどでその数は多く、狩猟の目的は、食べるため、スポーツハンティング、ペットにするためなどである。
この背景には、シリアをはじめ戦争や紛争状態にある国で、人が十分な食物にありつけない状況もある。

国境を越え、野鳥保護でつながる人々

イスラエルの国土は、紀元前、旧約聖書の時代からの歴史ある土地である。広大なネゲブ砂漠に立てば、悠久なる時間と自然現象の千変万化が、筆舌に尽くしがたいスケールで迫ってくる。そんな多様な野鳥が暮らす広大かつ豊かな環境を有しながらも、ヨーロッパ、アフリカ大陸における違法な狩猟の問題は深刻である。
バードフェスティバルで印象的だったことがある。それは「チャンピオンズ・オブ・フライウェイ」参加チームの一つに、パレスチナ自治区の自然保護団体のメンバーと地元イスラエル自然保護協会(SPNI) のメンバーで構成されるチームが、目的を一つにして参加していたことであった。彼らの国は互いに外交関係はないが、野鳥保護の目的のもと情報交換をしつつ活動を進めている、とのことだ。
渡り鳥に国境はない。渡り鳥を守るためには、国や人種の対立を超えて、国や地域が連携して活動を進めていくことが必要である。
野鳥は、また平和のシンボルでもある。今回のイスラエル訪問で、野鳥保護を通じて「平和」を体現する姿を見ることもできた。

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イスラエルは、大陸間を行き来する渡り鳥たちの重要な中継地

エイラット
紅海に面するリゾート地で、猛禽類の渡りで世界的に有名なバードウォッチングサイト。春と秋の年2 回の渡りの時期には、ヨーロッパハチクマ、ヨーロッパノスリ、ソウゲンワシ、レバントハイタカなど100万羽以上が渡る。塩田ではオオフラミンゴの群れも見ることができる。