野鳥保護区の設置で、日本最大のナショナルトラスト団体に

文=保全プロジェクト推進室

タンチョウ保護区とタンチョウ

①タンチョウのための野鳥保護区第1号である「持田野鳥保護区東梅(とうばい)」
②「持田野鳥保護区東梅」内を歩くタンチョウの親子
③タンチョウ(写真:宮本昌幸)
日本のツル類で最大。国の特別天然記念物。主に北海道東部の釧路湿原などで繁殖し、近辺の湿原、湖沼畔、牧草地などに生息する。絶滅危惧種Ⅱ類(環境省レッドリスト)

約4千haの野鳥保護区を設置

日本野鳥の会は、野鳥の生息地の保全を目的として、1986年から土地の買取りや所有者との協定による「野鳥保護区」の設置に取り組んでいます。
その面積は、北海道におけるタンチョウとシマフクロウのための保護区を中心に、全国で42か所、合計3千994ha。この面積は東京ディズニーランド78個分の広さに相当します(表参照)。これは民間の自然保護区としては国内最大規模であり、当会は日本で最大のナショナルトラスト(※)団体です。各野鳥保護区は、自然環境の改変や立ち入りを厳しく制限し、設置後も環境の維持に取り組むなど、高い保護レベルを保っており、我が国の自然保護において大きな役割を担っています。

日本野鳥の会 野鳥保護区の概要

絶滅危惧種と生態系を保全

当会の「野鳥保護区」の最大の目的は、タンチョウ・シマフクロウなどの絶滅危惧種に指定されている鳥類を守ることです。これらの種が数を減らしている一因としては、エサの減少など生息環境の悪化から、営巣地が見つからない、生まれたヒナが育たないなど繁殖が困難になることがあげられます。そこで、対象となる鳥類が生息している森林や湿地を調査し、保全の必要性が高い場合、購入あるいは所有者と協定を結ぶことで「野鳥保護区」とし、今ある自然環境と生態系をまるごと保全するのです。
タンチョウやシマフクロウなど大型鳥類は生態系の頂点に立つ生物であり、こうした種が生息できるということは、その土地が豊かな自然環境であるという証でもあります。生息地保全は、その環境に生息する動植物すべての保全につながるのです。

シマフクロウのための野鳥保護区とシマフクロウ

④北海道に生息するシマフクロウのための野鳥保護区。シマフクロウの推定つがい数70のうち、12つがいが当会の野鳥保護区を利用している
⑤シマフクロウ
世界最大級のフクロウ。国の天然記念物。魚類の豊富な河川のある森林に生息。かつては北海道全域に生息していたが、森林の減少などによって著しく減少。絶滅危惧種IA類(環境省レッドリスト)

民間だからできる柔軟な対応

日本各地にある国や行政が定めた自然公園や鳥獣保護区などでは、動植物の狩猟や採取、無許可での環境の改変などが制限され、自然環境と動植物を保護しています。しかし、すべての希少鳥類の生息地がそうした法の力で守られているわけではありません。当会が保護区としているのは、このような公的な保護指定の網がかけられていない、開発の危険がある民間所有の生息地です。
タンチョウの最初の保護区設置は1987年。当時383羽しか確認できなかったタンチョウが営巣している北海道根室市の湿原が競売にかけられたため、約7haのこの土地を当会会員の方のご寄付を資金に購入したのが始まりです。このように緊急性の高い事案にも、素早く対応できるのが民間の強みであり、国や行政の基準ではもれてしまうような、面積は小さいけれど重要な生息地も併せて保護を進めることで、広い面積の生息地を守ることができています。

絶滅から脱しつつあるタンチョウ。そしてこれから

積極的な野鳥保護区設置のきっかけになったタンチョウは、現在は約1千800羽まで生息数を増やしました。
タンチョウに続いて、2004年から野鳥保護区設置に取り組んできた絶滅危惧種のシマフクロウは、北海道にしか生息しない世界最大級のフクロウです。1970~80年代に100羽以下までに減少しましたが、関係者の熱心な保護活動と当会の野鳥保護区など保全活動により、2019年現在で約160羽まで生息数が回復しました。しかし、絶滅の危機から脱したとは言えず、今後もシマフクロウのための野鳥保護区の設置を進めていく計画です。
土地購入という、一見、自然保護とは無縁のような活動ですが、野鳥の生息地を守ることは、日本の自然を守ることに直結しています。これまでの土地の購入や環境管理にかかる資金は、当会の活動にご理解をいただき、自然保護への思いを託してくださる多くの方々に支えられてきました。今後の野鳥保護区の拡大のためにも、引き続きみなさまからのご支援をいただけるよう、絶滅危惧種をはじめとする鳥類の保護に努めてまいります。

※ナショナルトラスト 自然環境や歴史環境を保護するために、市民がその土地を買い取ることにより保存していく制度、運動のこと。