【サギ特集:後編】サギが教えてくれる人と自然のつながり
(写真:Pixta)川や池のほとり、水田など、身近な水辺で見かけるサギのなかま。実は、サギと私たちの暮らしは、深いつながりがあることを知っていますか?
サギがすむ水辺に注目しながら、人と自然のつながりについて考えてみましょう。
サギと人の暮らしが近くなったきっかけ
弥生時代に大陸から稲作が伝わると、川や池の近くに水田や水路が作られ、人々の暮らしの周辺に水のある環境が広がっていきました。水田や水路には魚やカエルなどが集まり、サギたちの新たな採食場所になったとみられています。
(本特集のイラスト:富士鷹なすび)
近代以降のサギがすむ環境の変化
稲作の広がりにより、人の暮らしとの距離が近づいたサギたちは、近代の人間社会の発展とともに、さまざまな環境の変化に直面しました。
その一例を見ていきましょう。
サギへのマイナスの影響
①農薬の使用や工場排水などによる水質汚染

第二次世界大戦後の食料増産を目的にした農薬の使用や、高度経済成長期の工場排水などによる水質汚染で、水辺の生態系は深刻な影響を受けました。これにより魚やカエルをはじめとする水辺の生きものの減少が問題となり、1970年代には、それらをエサとする大型のサギたちも数を減らしていきました。
②農業の近代化

農業の近代化により、水田の区画を整理し水路を整えて生産性向上をめざす圃場(ほじょう)整備が進みました。その結果、水路と水田との間に段差ができて、ドジョウやフナなどの魚やカエルなどが水路から水田へ移動しにくくなりました。また、水路のコンクリート化や乾田化により、水田や水路にすむ生きものが減り、サギたちにとっても水田でエサが採りにくくなっていきました。
③宅地開発

宅地開発などによって湿地が埋め立てられたり、水田が減ったりしたことで、魚やカエル、水生昆虫などの生きものがすみにくくなり、サギたちの採食場所も減っていきました。
また、サギの巣作りに適した社寺林や広葉樹林、河畔林なども開発により失われ、多くの地域で繁殖地が減少しました。
④外来魚

人為的に持ち込まれた外来魚のブラックバス(オオクチバス)などが増加すると、小魚やカエルなどが捕食されて減少しました。これらはコサギやゴイサギなどの小型のサギにとって重要なエサであり、近年の小型のサギの減少につながったと考えられています。
サギへのプラスの影響
①農薬の規制や水質改善

日本では1963年と1971年の農薬取締法の改正により、毒性や残留性の強い農薬が規制されました。また、1970年に制定された水質汚濁防止法によって工場や事業所からの排水が規制され、水質の改善が進みました。こうした取り組みにより、サギたちのエサとなる水生生物への被害も減っていきました。
②都市部の新しい水辺環境

都市公園の池のような都市部の水辺環境に、魚やカエル、水生昆虫などがすむようになると、アオサギなどの大型のサギたちは、新たな採食場所として利用するようになりました。
サギの分布の変化
こうした環境の変化は、サギたちの分布や個体数にも表れています。全国鳥類繁殖分布調査(植田・植村 2021)からは、同じサギのなかまでも、種によって異なる変化が起きていることがわかります。
アオサギは1970年代と比べて分布が大きく拡大しました。これはダイサギなど、大型の魚食性の鳥類にも共通して見られる傾向です。
一方で、コサギは減少傾向にあります。2010年代には記録された調査メッシュ(区画)数が減少し、1990年代と2010年代にほぼ同じコースを調査できた全国1,947地点のうち、コサギが確認された地点は239地点から93地点へと大きく減少しました。
アオサギのように分布を広げた種がいる一方で、コサギやゴイサギなど減少している種もいます。サギのなかまをひとくくりにして捉えるのではなく、それぞれの種がどのような環境でくらし、どのような変化に直面しているのかを見ていくことが大切です。
引用文献:植田睦之・植村慎吾. 2021. 全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年. 鳥類繁殖分布調査会, 府中市.(PDFファイル 90.1MB)
今まで身近に出会えたサギが絶滅危惧種に!
全国鳥類繁殖分布調査からは、アオサギのように分布を広げた種がいる一方で、コサギなど小型のサギ類では減少していることが分かりました。
2026年3月に公表された環境省レッドリストでは、新たにコサギ、ゴイサギ、ササゴイ、アマサギの4種のサギが絶滅危惧種に追加されました。これにより、日本で観察記録のあるサギのなかま19種のうち1種が絶滅種、7種が絶滅危惧種となりました。
2026年に新たに絶滅危惧種に追加されたサギのなかま

コサギ(絶滅危惧Ⅱ類)(写真:熊久保 峻)

ゴイサギ(絶滅危惧Ⅱ類)(写真:井上 瑞穂)

ササゴイ(絶滅危惧Ⅱ類)(写真:熊久保 峻)

アマサギ(絶滅危惧ⅠB類)(写真:瀬古 智貫)
環境省レッドリストとは
日本に生息又は生育する野生生物を対象に、専門家で構成される検討会において生物学的観点から種の絶滅の危険度を客観的に評価してリストにまとめたもので、おおむね5年ごとに見直しをしています。
(参考)レッドリスト・レッドデータブック | 自然環境・生物多様性 | 環境省

自然と共生するために必要なこと
サギと人の暮らしの歴史を見ていくと、自然と人が共生する未来へのヒントが見えてきます。人が新たに作り、整えた水辺に生きものがすむようになると、そこは野鳥たちの新たな採食場所にもなりました。
私たちの暮らしの影響により数を減らしてしまったアオサギは、農薬の規制や水質改善の努力を続けたことで、また身近で見られるようになりました。
まずは、身近な自然に目を向け、そこに生きる命の営みに気づき、人の暮らしとのつながりを知ることが大切です。
※バードメイト寄付について
バードメイトは、自然を守る活動に楽しく参加していただく寄付のしくみです。毎年、「今年の野鳥」を選んでピンバッジを作り、プレゼントしています。シールもあり、2026年度の野鳥は「アオサギ」です。
皆さまのご寄付は、身近な野鳥たちの調査研究、野鳥と自然の大切さを伝える普及啓発活動、タンチョウやシマフクロウなど絶滅のおそれのある野鳥の保護活動など、自然を守るさまざまな活動の資金になります。
(写真:掛下 尚一郎)『2026年度バードメイト「アオサギ」特別特集』
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