トップメッセージ 2022年11月

2022年11月1日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

季節の移ろいとともに

秋深くなり、ヒヨドリの群れが、次から次へと南へ向かって飛んでいくのを見る季節になりました。屋久島に住んでいる友人のフェイスブックからは、連日、サシバたちが島のあちこちでタカ柱を作っている様子が伝えられてきます。鳥たちは人間世界のパンデミックも戦争も知らないで、遺伝子にプログラムされた渡りの本能に忠実に従って、北から南に渡っていきます。皆様方のところでは、今年の渡り鳥の状況はいかがでしょうか。

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それにしても今年の夏は暑かったですね。私の住んでいる鳩山町は、取り立ててニュースになるようなこともない埼玉の田舎町ですが、今年はテレビニュースに何回か登場したので、ご存知の方もおられるでしょう。最高気温が40.1°Cという日がありました。そのあと線状降水帯の停滞によって、6時間の雨量が360mmという、これまた観測史上、未曾有の大雨を経験しました。まあ、こんなふうに夏は暑い、冬は寒いという町ですが、それもメリハリがあっていいのではないかと思っております(ここに住めたらどこにでも住める!)。

とはいえ、暑い夏はなるべく涼しいところへと、今年の夏は孫たちと乗鞍岳へライチョウを見に行ったり、奥秩父の渓流でニジマス釣りをしたり、下旬には屋久島へヤマガラの調査でエゴノキとシキミの実を採集に行き、9月には研究室の卒業生と、志賀高原で地元ホテルの自然ツアーのモニタリングに協力、9月末には立山の奥大日岳へ少し早い紅葉を見に行って来ました。

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もうすぐ家の前の空き地にいつものジョウビタキがやってくる季節です。晴れた秋の一日、北から南へ移動している渡り鳥たちに思いをはせながら、のんびり過ごしています。そろそろ冬の探鳥会の準備ですね。


乗鞍岳畳平にて。ライチョウを見に行きました

長い年月を感じさせる、志賀高原のシナノキ

屋久島ではヤマガラの調査を

立山連峰・奥大日岳にて


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日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

稲刈りに想う

みんなで稲刈り! 収穫の喜びを体験

今年も稲刈りの季節になりました。
栃木県市貝町の里山に移住して農林業と自然学校の運営に携わるようになって8年。7回目の稲刈りです。赤とんぼが舞う秋空の下、子どもたちも参加してのイベント。鎌で稲を刈り、束ね、そして竹竿に干します。

6月上旬にみんなで田植えをして、4か月。無農薬で育てているので、田んぼの草取りや畦の草刈りなどの作業が大変でしたが、無事にこの時を迎えることができ、ほっとするとともに嬉しさがこみ上げてきます。


6月の田植え。一列になっての手植え

刈り取った稲を竹竿に干す

稲作を始めた頃は、台風で稲が倒れて水浸しになったり、害虫のカメムシが大発生したりして、良い米が収穫できませんでしたが、少しずつ工夫を重ねて何とか美味しい米が安定的に収穫できるようになりました。また、田植えから稲刈りまで年間4~5回の米作りを中心にした「農的暮らし講座」も軌道に乗り、多くの家族のみなさんが参加されるようになりました。

山間の小さな田んぼである谷津田は、多くの生きものが生息する生物多様性豊かな環境である一方、農業生産の場としては厳しい場所ですが、体験活動の場としても活用することによって、農業以外の収入が得られるようになり、何とか維持できる仕組みを作ることができました。

「ネイチャーポジティブ」の推進にむけて

今年12月の生物多様性条約締約国会議 COP15では、2030年に向けた生物多様性の目標などが採択される予定です。その目標の一つに、「ネイチャーポジティブ」があります。聞きなれない言葉ですが、ネイチャーポジティブとは、現在と比較して2030年や2050年までに生物多様性をより豊かにすることを意味します。今までは自然は開発され、生物多様性は失われる一方でしたが、その流れを反転させ、回復させようというものです。

日本において「ネイチャーポジティブ」を実現するためには、里地環境を形成する農村地域において生物多様性の劣化を食い止め、回復させることが大きなカギとなります。

市貝町の里山での取組みは、小さなものですが、日本のネイチャーポジティブの推進に少しでも寄与できればと思っています。


山間の小さな田んぼ「谷津田」


谷津田にやってきた赤トンボ(ナツアカネ)

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2022年9月2日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

秋の音に聞く

秋来ぬと 目にはさやかに見えねども 風の音にぞ 驚かれぬる

(藤原敏行 古今和歌集)

立秋が過ぎ、ツクツクボウシが鳴き始めると秋を感じます。けれど相変わらずの猛暑は続き、コロナもなかなか収束せずに新しい変異株が次々と出てきます。世界中の人々がどこにでも自由に行き来できる巨大な交通圏を確立してしまった今のこの世界は、感染症のウイルスにとっては、繁殖に絶好の巨大マーケットになってしまったように思います。今さら、過去の狩猟採集時代のように、山里や海岸で孤立した集落生活に戻ることはできませんが、コロナウイルスの蔓延は文明の発展と自然との共存の難しさを改めて感じさせる人類史的な出来事だと思っています。

柳生名誉会長と八ヶ岳への思い

7月30、31日に、この4月に亡くなられた柳生博名誉会長のお別れ会が八ヶ岳倶楽部で催されました。2日間で1000人以上の参列者がありました。私も日本野鳥の会の役員や職員と一緒に参列して、お別れの言葉を述べさせていただきました。

柳生さんは八ヶ岳倶楽部では家族やスタッフから「パパさん」と呼ばれ、とても慕われていました。この度、八ヶ岳倶楽部のテラスから見下ろす林のはずれに「パパの石」と名付けられた石碑が建てられました。石碑には柳生さんの遺した言葉が刻まれています。

八ヶ岳の麓には、八ヶ岳倶楽部以外にも野鳥の会にご縁のある施設があります。当会創設者である中西悟堂と親しい人たちが地続きの土地をそれぞれ買って八ヶ岳野鳥村と称している小さな森には、悟堂が森の散策を楽しんだ共同の山荘「悟堂山荘」が今も残されています。また近くには鳥類画家の藪内正幸さんの美術館もあります。

私の夢ですが、今後、こうした施設、団体、地元自治体と野鳥の会がコラボして、八ヶ岳のこの一帯を野鳥の聖地として盛り上げていくことができればいいなと考えています。ついでに野鳥の会の事務所も、東京にある必要はないと思うので、ここに移転すればいいのにとも思っています(当面は無理でしょうね)。


八ヶ岳倶楽部で行われた柳生名誉会長のお別れ会

「パパの石」と名付けられた石碑

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そろそろ各地のツバメたちのねぐらも大きくなりはじめ、南へと渡っていく季節になりました。渡り途中のオオルリやキビタキの若鳥の姿が公園の木立にも出現し、モズの高鳴きも始まります。渡りのノビタキたちが田んぼの稲穂やススキにポツンととまっていることもあります。ペガサスやアンドロメダなどの秋の星座がきらめく夜空に、アオアシシギやキアシシギの声がわたっていくのを聞けるのもこの季節です。

十勝岳にて
十勝岳にて

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日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

夜の里山はワンダーランド

夏のナイトハイク

今年の夏も、私が運営にかかわる「サシバの里自然学校」では、子どもたちを対象にしたキャンプを何度か行ないました。宿泊を伴うキャンプの楽しみは、普段の日帰りの活動に加えて、皆で火をおこして羽釜でご飯を炊いたり、古民家の大きな広間で一緒に寝たりすることですが、特に人気があるのが生きものを探して夜の里山を歩くナイトハイクです。

夜の7時半を過ぎて暗くなったころ、ヘッドライトや手持ちのライトを用意して、皆で自然学校内の山道を歩きだします。何度も歩いている場所なのですが、暗闇に包まれた林は昼間とはまったく違った世界。子どもたちにとっては、ドキドキ、ワクワクのワンダーランドです。そして、出会う生きものたちも、昼間とは違った姿を見せてくれます。

夜の里山(田んぼ)での生きもの探し

夜の里山(田んぼ)での生きもの探し

夜の生きものたちに大興奮!

昼間はほとんど見かけることがないカマドウマの仲間が、あちこちの地面や木の幹の上をエサを探して歩き回っています。まわりの草むらでは「スイーッチョ、スイーッチョ」とハヤシノウマオイが盛んに鳴いています。さらに林の中を歩いていくと、羽化したばかりのアブラゼミを発見。「わー、きれい」と、皆エメラルドグリーンの美しい姿にうっとり。

田んぼにでました。水の中に向けてライトを照らすと、「いる、いる」と子どもたちから歓声があがります。昼間には草の陰や落ち葉の下に隠れていてなかなか見つけることができなかったタイコウチがあちこちにいます。メダカも、こんなにたくさんいたのかと思うほど、多数の個体がゆっくりと水の中を泳いでいます。1時間のナイトハイクが終わって古民家に戻る頃には、皆大満足、大興奮です。

カマドウマの仲間
木の幹上を動き回るカマドウマの仲間
ハヤシノウマオイ
葉にとまって鳴くハヤシノウマオイ
アブラゼミ
羽化したばかりのアブラゼミ
タイコウチ
田んぼの水の中にいるタイコウチ

9月になり、今年の夏のキャンプも終わりました。ちょっと寂しいですが、夜の里山でのドキドキ、ワクワク体験を通じて、子どもたちの心の中に里山やそこにすむ生きものたちへの想いが芽生えてくれていたらうれしいな、と思うこの頃です。

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2022年7月4日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

サロベツ原野のシマアオジ

皆さま、お元気でお過ごしですか? コロナがなかなか収束しない上に、この暑さに熱中症の心配も加わって、いやはや大変な夏ですね。

私は病気もしないし、家族全員がインフルエンザにかかっても、一人だけかからない自然免疫の強い人間ですから、コロナウイルスが多少飛んでいる空間にいても、感染はしないという自信(?)があるので、戸外を歩くときにはマスクはしていません。

けれど免疫システムには、個人ごとに大きな変異があるので、なかなか「こうだ」とは、一般化できません。ウイルスに強い人もいるし弱い人もいます。あまりナメているとかかってしまうかもしれないので、今は4回目のワクチンを接種しようかどうか迷っているところです。

たった1羽で囀るオス

6月初め、北海道北部にあるサロベツ原野に行ってきました。朝の温度は4°C、風も強くて、やっぱり北海道は寒いなと思えるサロベツでしたが、現地でシマアオジ保護に取り組んでいるNPOのHさんの案内でシマアオジの生息地を案内してもらいました。

サロベツ原野にて
サロベツ原野にて

しかしこの日出会ったシマアオジはたった1羽のオスだけでした。今のところ、道内では他にシマアオジの生息地は知られていないので、もしかするとこの1羽が、現在の北海道にいる最後の1羽なのかもしれません。シマアオジのオスは湿原にはえたヤナギのブッシュの上で、1羽で囀っていました。メスの姿が見えなかったので、メスがきているのかどうか心配でした。もしメスが来なかったら、このオスが最後の1羽で、シマアオジは日本から絶滅してしまうのではないかという思いが湧き上がってきました。

1羽だけ確認できたシマアオジのオス サロベツにて2022年6月
1羽だけ確認できたシマアオジのオス サロベツにて2022年6月

世界的に絶滅が危惧される種

シマアオジは、昔は北海道全域の湿原に、ごく普通に見られる種類でした。苫小牧市のウトナイ湖周辺でも網走の原生花園でも、湿原に行けばたくさん囀っていたものでした。それがここ20年足らずの間にどんどん数を減らし、気がつけば、かつての生息地のどこに行っても見ることのできない鳥になってしまっていました。国際自然保護連合は本種を絶滅危惧ⅠA類に指定しました。

シマアオジの減少は北海道だけではなく、フィンランドなど、ユーラシア大陸の北部の繁殖地でも起こっています。その原因は繁殖地の環境悪化ではなく、渡り途中の中国における大量捕獲だと言われています。中国では、秋に大群で通過するシマアオジを捕獲して、食用にする習慣が長年続いていました。中国政府は研究者の指摘を受けて、シマアオジをパンダやトキと同じく国の国家重点保護第一級野生動物に指定し、国内での密猟の取り締まりを強化して、保護に乗り出しましたが、いったん壊滅的なまでに減少したシマアオジの個体群が復活できるかどうかは、到底、楽観できない現状です。

ハマナスの花の咲く北の原野のあちこちで、ノゴマやオオジュリンと一緒にシマアオジが歌っている光景が一刻も早く復活することを願っています。

ノゴマの囀りが響きわたるように、シマアオジの歌声が復活することを願う
ノゴマの囀りが響きわたるように、シマアオジの歌声が復活することを願う

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日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

水田でキンブナを育てる

身近だった魚が絶滅危惧種に

「兎(うさぎ)追いし かの山 小鮒(こぶな)釣りし かの川」。童謡「故郷(ふるさと)」の一節です。

フナは農村地域の川や農業用水路、ため池など身近な場所にすんでいることから、昔から人々に親しまれてきました。また食用にもなり、「鮒の甘露煮」を食べたことがある人も多いと思います。しかし最近では、めっきり見かけなくなってしまいました。

関東地方には、釣りの対象種として放流されたゲンゴロウブナ(通称ヘラブナ)を除くと、ギンブナとキンブナの2種類のフナが生息します。このうちキンブナは特に個体数が激減しており、国のレッドリストでは「絶滅危惧Ⅱ類」に指定されています。

フナは春になると親魚が水路などから水田に移動して産卵します。水田は水が温かくて稚魚の餌となるプランクトンが多く、水深も浅くて大型魚が生息しにくく、さらに稲がサギなどの捕食者からの隠れ場所になり、フナにとっては絶好の繁殖場所なのです。しかし、近年では、水田の整備などによって水路と水田の段差が大きくなって分断されてしまい、フナが行き来できなくなってしまったことが、減少の大きな原因と考えられています。

キンブナの親魚
キンブナの親魚

人工の藁に産み付けられた卵
人工の藁に産み付けられた卵

今年生まれの稚魚
今年生まれの稚魚

保全と利用を進める「キンブナプロジェクト」

このような中、私の住む栃木県市貝町の川にはキンブナが生息していることがわかりました。そこで、水田でお米を生産しながらキンブナを育て、保全と利用を進める「キンブナプロジェクト」が始まりました。

我が家の田んぼでもその取組に参加しており、ちょうど今は卵から生まれた稚魚が田んぼの中を泳ぎ回っているところです。先日の田植え体験の時にも観察できました。秋の稲刈りまで田んぼで育てたあと捕獲し、その後に水産資源や種の保護のために川へ放流したり、市貝町の豊かな里山や農業をPRするためにお弁当の総菜などに加工したりして、利用します。

4月に亡くなられた柳生博・当会名誉会長は、「確かな未来は懐かしい風景の中にある」という言葉をよく語っておられました。「私たちが進むべき未来は、人と自然が共存している里山などの在り方がヒントとなる」という意味です。そんな未来を「キンブナプロジェクト」を通じて市貝町に創っていけたらと思っています。

田植え体験でキンブナについて説明する
田植え体験でキンブナについて説明する

子どもたちと川に放流(3月)
子どもたちと川に放流(3月)


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2022年5月2日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

夏鳥の季節に

緑も濃くなり、鳥たちのさえずりが賑やかな季節ですが、コロナ禍は3年目に突入して、なかなか収束の気配を見せません。それでも人々の間に少しは安心感が出てきたのは、3回目のワクチンを接種した人も増え、私たちの側もウイルスを必要以上に恐れるのではなく、合理的な対処の仕方を身につけてきたのが効いているのだと思います。

さて夏鳥たちの状況はどうでしょう。日本野鳥の会がNPO法人のバードリサーチなどと協力して行なった「全国鳥類繁殖分布調査」の結果が出されています。コマドリやメボソムシクイなど減っている夏鳥もありますが、キビタキ、アカショウビン、サンコウチョウなど、その数が回復してきている種類もあります。鳥の個体数の増減には、さまざまな要因が絡んでいるのでしょうが、人間の影響で彼らを絶滅に追い込むようなことはあってはなりません。

カラ類の巣箱
東秩父の丸山にて。調査用に設置したカラ類の巣箱の様子を確認。

あるチェロ奏者のスピーチ

新緑の美しい日本の初夏の風景に、この国に生まれてよかったなと思います。しかし今この瞬間も、ウクライナでは砲弾が炸裂し、人々が殺されているかと思うと、心はとても休まるものではありません。

思えば今から約50年前、1971年の10月に、ニューヨークの国連本部において、国連平和賞の授賞式に臨んだ世界的なチェロ奏者のパブロ・カザルスが、彼の生まれ故郷であるスペイン・カタルーニャ地方の民謡「鳥の歌」を演奏したことを覚えています。

故国でのフランコ独裁に抗議してスペインを離れ、一貫して、反ナチ、反独裁を貫いた平和主義者カザルスの人前での演奏は、じつに40年ぶりでした。当時94歳だった彼は、演奏にあたって、声を振り絞ってこうスピーチしました。

「鳥たちはこう歌うのです。
 Peace、Peace、Peace!
 Peace、Peace、Peace! と!」

ウクライナの空に、銃声ではなく、鳥たちの歌が響く日が1日も早く戻りますように!

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日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

カエルがすむ生物多様性豊かな農村をいつまでも

カエルによって保たれる生物相

里山が新緑に覆われる頃、私は田植えに向けて田んぼに水を張ります。すると、待ってましたとばかりにたくさんのカエルたちが動き出します。私が耕作する山間の谷津田はカエルにとって絶好の生息場所なのです。

田んぼの中のあちらこちらで頬を膨らませて、「ウゲゲ、ウゲゲ……」と大きな声で鳴いているのはトウキョウダルマガエル。一方、「コロコロコロ……」と田んぼの隅の方でかわいい声で鳴いているのはシュレーゲルアオガエル。鳴き声も姿も地味ですが、田んぼの中に産み込まれた丸い卵塊が目立つニホンアカガエル。

オミナエシ
トウキョウダルマガエル
シュレーゲルアオガエル
シュレーゲルアオガエル
ニホンアカガエル<
ニホンアカガエル


カエルは、幼生のオタマジャクシの時も、成体のカエルになってからも、さまざまな肉食性の生きものの食物になります。タガメやタイコウチ、ヤゴ類(トンボ類の幼虫)など水生の昆虫はオタマジャクシに依存する率が高く、ヘビ類、サギ類やタカ類など陸生の動物もカエルをよく食べます。カエルがたくさんいるからこそ、豊かな生物相は保たれるのです。カエルは生態系の基盤を支える重要な生きものと言っても過言ではありません。

農業・農村によって作られた田んぼという浅くて温かな水辺は、カエルにとって絶好の生息場所であったに違いありません。しかし近年では、農地整備や乾田化、耕作放棄地の増加などに伴い、カエルがすみにくい田んぼが増えています。このことは即、日本の生物多様性の劣化につながります。

農業・農村が持つさまざまな機能の重要性

上で述べたカエルと田んぼの関係に留まらず、農業・農村は「食料等の生産」以外に多くの機能を持っています。例えば、国土保全、水源かん養、自然環境保全、景観形成等です。この多面的機能を発揮するために、全国の農業団体等の活動に支払われる交付金制度について、本年4月に日本野鳥の会を含む自然保護6団体は、環境保全等に関する問題点を指摘するとともに、生物多様性保全と持続的な農業の両立に向けた提案を行ないました。

日本野鳥の会は、日本の生物多様性を保全するために、農業・農村の政策・制度の改善についても取り組みます。

水を入れた田んぼの土をならす

水を入れた田んぼの土をならす

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2022年3月10日更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

季節は春

はかなき春の花々

ウグイスも鳴き出し、季節は確実に春に向かっています。皆さま、コロナに負けずに、お元気にお過ごしでしょうか。今年も日本野鳥の会への温かいご支援、本当にありがとうございます。

関東の3月はじめ、ロウバイやウメはもう盛りを過ぎて、これからはマンサクやコブシが里山を彩る季節です。一方、雑木林の地面に目をやると、地上にひっそりと咲いているスプリングエフェメラルと呼ばれる一群の花々があります。エフェメラルは直訳すると「はかないもの」といった意味なので、「はかなき春の花々」でしょうか。

スプリングエフェメラルの花々の中でも、フクジュソウやカタクリは有名ですが、セツブンソウはあまり知られていません。2月の節分の頃、林の中にひっそりと咲く白い花です。どこかに咲いているのでしょうが、私も野外ではまだ見たことがなかったので、先日、都内にある自然教育園(目黒区)に植えられているのを見に行ってきました。遊歩道のすぐ脇にある花に気づかず通り過ぎる人もたくさんいましたが、小さな白いセツブンソウの花たちは、元気に自己主張しながら咲いていました。

セツブンソウ
セツブンソウ

今年は特に北日本では記録的な積雪が記録されました。まだ雪に閉ざされた地域もあると思います。雪国に住んでおられる会員のご苦労を思いますが、雪の下ではスプリングエフェメラルたちが、じっと春の訪れを待っています。春の1日、小鳥たちの声を聞きながら、明るい林の中を、花たちを探して歩き回ってみるのも良いのではないでしょうか。

まだ雪の残る笠山山頂にて
まだ雪の残る笠山山頂にて

フクジュソウ
フクジュソウ

ウクライナのひばり

と、こう書いている時に、ウクライナにロシアが軍事侵攻したというニュースが飛び込んできました。戦争とは、人が不条理に死ぬことです。子供も、母親も、老人も、弱い立場の人たちから、命が次々と失われていくのが戦争です。何とか戦争を止める力になりたいとの思いは募りますが、何もできない自分の無力さを感じる日々です。

いま、戦火にさらされているウクライナの凍てついた大地にも、春になるとヒバリの声が響きます。ウクライナには春分の日に、ヒバリの形をしたパンを焼く習慣があるそうです。焼いたパンは家族や親しい人たちで分け合ったり、木の枝に吊るして、春の訪れを祝うのだそうです。ウクライナの子供たちが、家族揃ってひばりパンを食べられる日が、一日も早く訪れることを心から祈っています。

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日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

冬の森を整備

里山再生のために

私が運営にかかわるサシバの里自然学校は、約5ヘクタールの森林に囲まれています。自然学校を開校した2016年当初は、その大部分は高さが2mを超えるアズマネザサに覆われており、人が立ち入ることができないような状況でした。もともとは薪炭林として管理されていたものが、利用されなくなって放置された結果、このような状況になってしまったのです。それを、自然学校のスタッフやボランティアの皆さんと一緒に除伐や下草刈りを行い、今では林床が開けた明るい森林が多くなりました。その結果、チゴユリなどが増え、キンランなど希少な植物も花をつけるようになり、里山らしい生態系が戻ってきました。

しかし、周辺にはまだまだ放棄された森林が広がっています。そこでこの冬は、田んぼ脇のマダケやアズマネザサに覆われた森林を町、地権者、NPOで協定を結んで、整備を進めることにしました。

ため池や水路の水がまだ凍っている寒い朝、家族連れや大学生、社会人など、たくさんのボランティアの皆さんが集まってくれました。そして、ひたすらタケやササを伐り、運び出し、森林内外の所々に積み上げていきました。1時間も作業をすると体は温まり、汗さえ出てきます。こんな作業を1日数時間、1週間ほど行った結果、0.6ヘクタールのうっそうとした森林を明るい森林に変えることができました。


林床に光が届くよう、タケを伐って運び出す


ボランティアのみなさんと力を合わせて

夏鳥を迎える季節

もう1か月もするとサシバが戻ってきて、その後にはキビタキやサンコウチョウもやってきます。夏鳥たちが里山に帰って来る前に、何とか間に合いました。どうぞ夏鳥の皆さん、すみやすくなった森林においでください(ただ、整備後すぐに生態系が豊かになるわけではないので、これはちょっと誇大宣伝かな)。お待ちしています。

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2022年1月6日更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

新年のご挨拶
同じ地球に生きるものとして、野鳥の立場からの発言を

あけましておめでとうございます。

新型コロナウイルスの感染拡大はオミクロン株の発生で、まだまだ心配な状況が続いていますが、ウイルス自体が弱毒化しつつあることなど、少しは収束への道筋も見えてきたようです。しかしこれまでのほぼ2年にわたる制約された日常に、みなさま方も大変なご苦労をされたことと思います。そのような中での日本野鳥の会への温かいご支援、本当にありがとうございます。

当会では、タンチョウ、シマフクロウ、シマアオジなど絶滅のおそれのある野鳥を守る活動として、生息地一帯の土地を買い取り、独自の野鳥保護区を設置する活動を続けています。おかげさまで当会が所有する野鳥保護区は、北海道を中心に全国45か所、3,500ヘクタールを超えるまでになりました。民間のNGOが保有する自然保護区としては国内最大の面積になりました。

私たちは、近年注目されている海洋プラスチック問題やメガソーラー、巨大風力発電施設問題等、人間活動の営みが野鳥へおよぼす影響について、野鳥の立場からの発言、法制度への提案にも力を入れています。

メガソーラーは自然に優しいエネルギーというイメージとは裏腹に、大規模に山林を伐採して、土砂災害の危険を引き起こし、生態系に大規模な悪影響を与えるという点で、はっきり自然破壊であるとの烙印を押すべきでしょう。

風力発電も、事前のゾーニング(地域選定)を行なって、鳥の飛行経路に当たらない地点を選ぶなど、良心的な対応をしてくれている事業者もありますが、とにかく規模を拡大して、大面積にわたって風車群を配置すれば利益も大きいとだけ考えている事業者もあります。私たちは1つ1つの事業を厳しく監視していかねばならないとおもっています。

海洋プラスチック問題も深刻です。大量のプラスチック片を飲み込んで、死に至ったウミガメやコアホウドリのヒナの写真を見ると、私たちがどんなにこの地球生態系に申し訳ないことをしているのかという想いで胸がいっぱいになります。とくに海面を漂うマイクロプラスチックは、海面でプランクトンをついばんで採餌するウミツバメ類には、大きな脅威だと思っています。

化石燃料という言葉があります。石炭も石油も古代の生物の化石です。石炭、石油、天然ガス、そしてそれらを原料につくられるプラスチック。石炭も石油も天然ガスも3億年以上前の古生代に生きていた植物や動物の遺骸から形成されたものです。その頃はまだ木を分解する菌類が繁栄しておらず、木部の固いセルロースを分解することのできるシロアリやゴキブリもそんなにいなかった時代です。そのため地中や海底に堆積した木や有孔虫の遺骸が、何億年もの長い時間をかけて石炭や石油に変わっていったのです。だから石炭も石油も、地球上では二度と作られることはありません。地球が守り続けて来た資源を掘り出して、どんどん二酸化炭素に変えてしまう現代の人間の営みに、同じ地球に生きるものとして、もっと厳しい目が向けられるべきでしょう。

ウグイスもそろそろ鳴き出します。春に向かって活動の準備を整えましょう。


屋久島でヤマガラの調査中


涸沢ヒュッテ(北アルプス)にて

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日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

新年のご挨拶
地域の自然が地域の手で守られる社会へ

あけましておめでとうございます。

昨年はコロナに始まり、コロナに終わった1年でした。そんな落ち着かない日々にもかかわらず、会員や支援者の皆さまから多大なご支援を賜り、心よりお礼申し上げます。お陰さまで、シマフクロウの新たな野鳥保護区の設置、人工衛星発信機を用いたオオジシギの渡りルートの把握、ウトナイ湖サンクチュアリ開設40周年シンポジウム(オンライン)の開催など、様々な成果をあげることができました。

さて私は、コロナが少し落ち着いた昨年の秋から冬にかけて、渡り鳥に関係する2か所の地域を訪れる機会に恵まれました。


国際サシバサミットでの講演(宮古島市)

10月に訪れたのは沖縄県宮古島市です。宮古島は渡り鳥のタカであるサシバが、南の国に向かって日本を離れる前に最後に立ち寄る島です。この時期、多い年には数万羽のサシバが、通過していきます。それに合わせて「国際サシバサミット宮古島」が開催され、基調講演を行なうために参加しました。今回は残念ながらオンライン開催のため、海外や全国の関係者が一堂に会することはできませんでしたが、「宮古野鳥の会」顧問の久貝勝盛先生から「宮古のサシバ文化」と題して、この島特有のサシバとのかかわり、そして地道な保護活動の取組みのお話を聞くことができ、深く感銘を受けました。

そして12月に訪問したのが愛媛県西予(せいよ)市です。ツル類の渡来地としては、1万羽を超えるナベヅルやマナヅルが冬を過ごす鹿児島県出水(いずみ)市が有名ですが、西予市にもここ数年、数十羽のツル類が渡来します。時にはコウノトリも飛来するそうです。

訪問した時も50羽ほどのナベヅルとマナヅルの群れを見ることができました。地元の行政や農家の方が、山間の細長い田んぼに水を張ってねぐら環境を整備するなど、ツル類が落ち着いて暮らせる環境づくりを進めていました。また、当会の支部も調査や普及教育などの分野で積極的にかかわっていました。地域全体に「ツル愛」があふれており、感激しました。


ツル類の保護を呼びかける看板(西予市)


ツル類のねぐらのために水を張った水田(西予市)

日本野鳥の会では、2030年を目標年として、

  1. 絶滅危惧種の保護と野鳥の生息地保全
  2. 地域の自然が地域の手で守られる社会
  3. 生きものや自然に配慮したエネルギーシフトの実現
  4. 自然への理解者の増加
  5. 自然保護を担う次世代の育成

という5つのビジョンを設定しています。上にあげた2地域の事例は、まさにビジョン2の「地域の自然が地域の手で守られる社会」の姿であり、当会がめざすものです。

これからも、当会は地域の支部や野鳥保護団体、行政、住民の皆さんと手を携えながら、人と自然が共存する社会づくりに取組みます。今年も、変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。

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2021年10月1日更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

新しい局面を迎えたライチョウ保護

オリンピック・パラリンピックの閉幕にあたって

コロナはなかなか収束に向かいませんが、みなさま、いかがお過ごしですか。

前回、開催には反対だと意見表明しましたが、オリンピック、パラリンピックが無事に終わって、良かったと思っています。今でも本心はできれば中止すればよかったという意見に変わりはありません。ですが開催されてしまえば、頑張っているアスリートの姿に励まされることもいっぱいあり、感動的な大会であったと思っています。困難な状況の中、大会運営に携わった関係者のみなさんには人知れぬ多大なご苦労があったと思います。心からご苦労様でしたと申し上げます。

私はコロナに責任ある立場にはいませんが、今はとにかく重症化させない、重症化しても死なせない医療体制の確保が急務だと思っています。そして一生物学者の立場からですが、ワクチン接種とPCR検査をさらに拡大、加速して、クラスターを防ぎつつ、あらゆる場所でコロナウイルスを狭い範囲に封じ込めていくことが大切だと考えています。

北アルプスから中央アルプスへ、ライチョウを移入する試み

暑い夏でしたが、私は8月末に乗鞍岳にライチョウを見に行ってきました(家から車で行ったので、ほとんど人との接触はありませんでしたが、県境を越えてしまいました!)。この時期のライチョウはお天気がいいと出てきません。頂上の駐車場についた時は気温10.5°C、強風で白い霧が吹きつけてきます。そんな中でしたが、今日は出るぞと期待して、大黒岳へ登るとライチョウに会うことができました。夏羽から秋羽(ライチョウは年3回、換羽します)に変わったライチョウが、ハイマツの茂みから顔を覗かせていました。

ライチョウ霧の中、姿を現した秋羽のライチョウ。日本はライチョウの生息地としては世界南端。氷河期に大陸から渡ってきた集団が、氷河期終焉後に本州中部の高山帯に取り残され、2万年にわたり奇跡的に生き残ってきた。

ライチョウの保護は、今、新しい局面に入っています。それは乗鞍岳のライチョウを、すでにライチョウが滅びてしまった中央アルプスに移住・定着させる環境省のプロジェクトです。ライチョウが中央アルプスから滅んでしまったのは、これからも反省の材料として、わざわざ別のところから移住させる必要はないじゃないかとの意見もあります。私もかつて野生のトキが日本から絶滅した時、中国からトキをもらってくる必要はないじゃないかと言う立場でした。大切な鳥を日本列島から失った反省を多くの国民が持ち続けていくべきだと思ったからでした。

けれどトキが復活して、佐渡島の空を舞う情景を見ていると、やっぱり移入してよかったかなと思います。中国のトキと日本のトキには遺伝的な差異はありません。数千年前にはトキの集団は大陸から朝鮮半島、そして日本と、一つにつながっていたのです。

北アルプスと(滅びた)中央アルプスのライチョウも、遺伝的には差はないことがわかっています。滅多には起こらないでしょうが、何十年かに一度、北アルプスから中央アルプスへ、またその逆方向へと、冒険心に富んだ若いライチョウが、いくつものバリアを越えて移動していったのです。なんともロマンを感じる話ではありませんか。

中央アルプスのライチョウはライチョウ研究者の中村浩志さんはじめ、多くの関係者の努力で、順調に繁殖に成功しつつあります。数年後には千畳敷のカールでライチョウの親子連れに会うこともできるでしょう。その日を心待ちに、山を歩ける体力を残しておこうと思います。

北アルプスの最南端にある乗鞍岳にて。
北アルプスの最南端にある乗鞍岳にて。

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日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

秋の花咲くクヌギ植林地

ススキの穂が秋風に揺れ、モズの高鳴きが聞こえてきます。そんな里山の草原には、オミナエシやワレモコウ、ツリガネニンジンなどの可憐な花が咲いています。

この場所は私や仲間たちでクヌギを植えた植林地です。石油やガス、電気を当たり前に使っている今の生活からはちょっと想像できませんが、昭和初期までは炭が広く燃料として使われていました。そのため、里山には炭の原料としてコナラやクヌギが盛んに植えられ、数年から15年ほどの間隔で伐採と更新が繰り返されていました。したがって、里山には伐採直後の草原から収穫直前の林まで多様な環境が存在していました。しかし今では、利用されなくなって放置された林が多くなり、草原も減りました。

オミナエシ
オミナエシ

ワレモコウ
ワレモコウ

ツリガネニンジン
ツリガネニンジン


そんな里山の林を若返らせ、草原から林に至る多様な環境を復元したいと考え、3年前からクヌギを里山に植えて育てています。実は、私の住む栃木県市貝町では、昔からクヌギを原料に茶道で使うお茶炭づくりが盛んに行なわれていました。その炭は切り口が菊の花のように見えることから「菊炭(きくずみ)」と呼ばれ、高級なお茶炭としてブランドにもなっていました。そこで、地元の製炭業者さんと協働で、クヌギの育林と炭の生産を通して里山の林を再生し、生物多様性を守る「サシバの里・菊炭プロジェクト」を始めました。

まだまだ炭の原料になるほどまでにはクヌギは育っていませんが、植林地は秋の花が咲くのにちょうどよい草原になっています。管理のための草刈りは大変ですが、草原性の植物の生育地やサシバの狩場として、そしてクヌギがよい炭の原料に育ってくれることを期待して、日々がんばっています。

草刈り風景(2021年6月)草刈り風景(2021年6月)

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2021年8月3日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

屋久島の生物相と出会う

夏、真っ盛り。猛暑の中、皆さまいかがお過ごしですか?

コロナが一向におさまる気配のないまま、オリンピックが始まってしまいました。この日に向けて練習を積み重ねてきたアスリートの皆さん、聖火を手に走る日を夢見てきた聖火ランナーの皆さん、海外の人たちに日本らしいおもてなしをしようと待ち構えていた大会ボランティアの皆さん、ほとんどの競技が無観客になってしまった寂しい大会に、各人が各様の複雑な思いを抱えておられると思います。

私は多くの専門家が言うように、このようなパンデミックの中での開催には無理があったと思っています。オリンピックは平和の祭典であり、全世界の人にとっての祝祭です。しかし医療が逼迫し、大勢の人が亡くなっているまさにその時に、人々の心に”TOKYO2020”を祝う気持ちが生まれるでしょうか。早い時期に、この祝祭に責任を持つ人たちによる中止の決断が下されるべきであったと思っています。

***

7月はじめ、ヤマガラの調査をかねて屋久島に行ってきました。屋久島ではちょうど梅雨あけになりました。屋久島は標高1,936mの宮之浦岳を筆頭に、冬には数mの積雪がある山塊がつらなる山岳島です。屋久島にはいわゆる固有種はいませんが、本土とは異なる鳥相を持っています。

7月屋久島にて7月屋久島にて

たとえば屋久島には本土ではどこにでもいるシジュウカラがいません。そのかわり山の上の方にはヒガラがいます。コマドリやミソサザイも標高の高いところに生息しています。低地林では、夏にはリュウキュウキビタキ(本土のキビタキの亜種)やサンコウチョウ、アカショウビン、ヤブサメ、ホトトギスもやってきて繁殖します。隣の種子島にはヒバリが生息しているのに屋久島にはいないこと、またホオジロの繁殖分布の南限であることなど、生物地理学的にはとてもおもしろい島です。

屋久島の低地の常緑広葉樹の森はヤマガラたちの天国です。どこに行ってもキビタキの声に混じって、ヤマガラの巣立った若鳥たちの声が聞こえていました。ヤマガラが好きなエゴノキも本土のものより大きめの実をたくさんみのらせていました。

屋久島では樹齢1,000年以上のスギを屋久杉と呼びます。山の中には江戸時代に伐採された直径3mを超える大きな切り株も、あちこちに残っていました。縄文杉やウイルソン株もそうですが、これらの切り株の樹齢は3,000年を超えていたと思われます。悠久の時を生きてきた屋久杉たちは風格にあふれ、見るものを圧倒します。まだ若い千年杉たちも、苔むした森の中でさらにこれから数千年の時を生きていくのでしょう。

暑い夏とコロナの感染が早く終わって、涼しい秋風の吹く季節を待ち望んでいます。

風格ある屋久杉風格ある屋久杉

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日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

命はぐくむ里山

夏が来ました。
私の住む栃木の里山では、日中はアブラゼミやミンミンゼミが、朝夕はヒグラシが大合唱を聞かせてくれます。そして、田んぼのイネも青々と大きく育ちました。

私は、林に囲まれた山間の小さな田んぼで無農薬・無化学肥料で米づくりをしています。田んぼに入れる水は、上流にあるため池の水を山際を流れる土水路(小川)を利用して、田んぼに引き入れています。このような構造をした田んぼは管理や耕作は大変ですが、林と田んぼ、池、土水路、田んぼがつながっており、生きものにとって住みやすい環境になっています。

山間の田んぼ(田植えの頃)山間の田んぼ(田植えの頃)

夏の朝、田んぼ畦に佇み、田んぼの中をのぞくと、いろいろな生きものがいるのが見えます。水際でじっとしているのはトウキョウダルマガエル。よく見ると、オタマジャクシから成体になったばかりの子ガエルがたくさんいます。水の中に目を移すと、小さな魚が群れで泳いでいます。ミナミメダカです。まさにめだかの学校。そして、田んぼの底でじっとしているのはタイコウチ。近づいてくるメダカを狙っているのでしょう。さらに、土手の草むらからはカエルを狙ってアオダイショウがはい出し、空ではノスリがネズミやヘビを狙って旋回しています。食物連鎖の下位の生きものから上位の生きものまで、多様な生きものでにぎわう田んぼ。

ミナミメダカ
ミナミメダカ

トウキョウダルマガエル
トウキョウダルマガエル

そんな生きものを育む田んぼは子どもたちにとっても最高の遊び場になります。私が運営に携わる「サシバの里自然学校」では、夏休みに子ども対象のキャンプを開催しています。それに来る子どもたちの中には、生きものにさわったことがない子、泥に入ったことがない子もいます。しかし、最初は恐る恐る水辺に近づいた子が、田んぼに入れば、水や泥に足をとられながらも嬉々として、生きもの探しに夢中になります。

そんな時、自然とふれあえる田んぼを作って良かったとつくづく思います。自然豊かな田んぼや畑は、生きものだけでなく、子どもたちにとっても、心が解放される場、のびのびできる空間なのです。里山は、命を育む大切な場所です。

夏の田んぼと生きもの探しに夢中の子どもたち夏の田んぼと生きもの探しに夢中の子どもたち

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2021年6月8日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

夏鳥を探しに

コアジサイコアジサイ

明けても暮れてもコロナ、コロナ。緊急事態宣言も延長に次ぐ延長で、なかなか気分が晴れないという方も多いと思います。そんな人間の都合とは無関係に、季節は進んでいきます。関東の山も、樹々の緑がだんだん濃くなってきました。いよいよ夏の到来ですが、みなさま、いかがお過ごしですか?

先日、嬬恋村(群馬県)の友人を訪ねて、バードウオッチング をしてきました。朝、目覚めるとウグイスやメジロの声に混じって、アオジやゴジュウカラの声が響いてきます。ちょっと霧雨の中でしたが、すでに夏鳥たちが勢揃いして、キビタキ、オオルリ、サンコウチョウ、クロツグミ、カッコウなどがあちこちで囀(さえず)っていました。彼らはこれからつがいをつくり、子育てを始めます。

林の中でアカハラに出会いました。アカハラというと、かつては夏の歌い手として、この季節に信州の森に行くと、ごく普通に出会える鳥でしたが、近年、数を減らしています。軽井沢で録音機を仕掛けて森の鳥の声を録音している知人によると、軽井沢ではアカハラがほとんどいなくなったということです。他の鳥は減っていないのに、なぜアカハラだけが減少したのかはよくわかっていません。もしかすると、越冬地での森林火災や開発の問題があるのかもしれません。

一方、一年中、日本に住んでいるスズメやカラスやシジュウカラなどの留鳥たちは、すでに繁殖を終えて、あちこちで幼鳥を連れている姿を見かけます。今年はヤマガラ研究のために学術許可を取って、私の住んでいる埼玉のニュータウンに隣接する雑木林に、巣箱をたくさん架けました。4月から数日ごとに巣箱を回って、彼らの繁殖経過を調べていましたが、巣箱を利用してくれたヤマガラやシジュウカラたちは子育てが終わって、ヒナが巣立っていきました。今は遅れて繁殖に入った(多分、一回目を失敗した)鳥たちがいくつかの巣箱で抱卵中です。

梅雨の晴れ間を見つけて、野外に鳥を見に出かけましょう。家族や少人数で、マスクなどの感染対策をして、鳥を探しているだけでは、コロナに感染したり、他人にうつしたりする危険はほぼありません。ワクチン接種も始まっています。静かにコロナが過ぎるのを待ちましょう。

アカハラ
アカハラ

キビタキ
キビタキ

大高取山にて
大高取山にて

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日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

ワシ・タカ類を守ることは、生態系を守ること

那須野が原那須野が原

この時期、私は月に数日アカマツの森に入ります。かれこれ30年以上続けているオオタカの繁殖状況を調べるためです。調査地は栃木県北部、那須連山の麓に広がる那須野が原。

今から40年前の1980年代初頭、この地域では、オオタカのヒナが巣から持ち去られるという密猟が横行していました。この時、日本野鳥の会栃木県支部が始めた密猟監視活動に参加したのが、私とオオタカとの出会いでした。

その後、活動対象はオオタカからワシ・タカ類全般へ、活動内容も密猟防止から生息環境や生態系の保全へ拡大しました。現在では、活動組織は特定非営利活動法人「オオタカ保護基金」となり、栃木県を中心に、ワシ・タカ類をシンボルに、生物多様性の保全、人と自然が共生する持続可能な地域づくりなど、幅広い活動を行っています。私は、その代表も務めています。

日本野鳥の会では、現在シマフクロウ、チュウヒ、サシバなどのフクロウ類やワシ・タカ類の保護に力を注いでいます。これらは絶滅危惧種であるとともに、自然界の食物連鎖の中で最上位に位置することから、彼らが生息する生態系の指標種でもあります。

当会では、シマフクロウ、チュウヒ、サシバの保護を通じて、日本の豊かな森林、湿地・草原、里山を守ります。ご支援を、どうぞよろしくお願いします。

オオタカの成鳥
オオタカの成鳥

調査風景
調査風景

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2021年4月1日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

春の野鳥を見る楽しみ

サクラ前線がどんどん北へ向かっていくこの季節、みなさまのところには、もうツバメはやって来ましたか。私の住む埼玉のニュータウンにはまだやって来ていませんが、もうあと少しで彼らが川面を飛ぶ姿を見れるだろうと楽しみにしています。

さてこの4月で、大学を退職して5年が経ちます。研究室は持っていませんが、自宅にいても鳥の研究は続けており、現在はヤマガラの生態を調べています。みなさんはヤマガラをご存知ですか? 私の世代の方々は子どもの頃、神社の祭礼の時、参道に並んだ出し物の屋台の一つに、ヤマガラの「おみくじ引き」があったことを覚えておられるかと思います。

私も中学生の頃、京都の八坂神社で、ヤマガラのおみくじ引きをみた覚えがあります。お客がヤマガラに10円玉を与えると、ヤマガラはそれをくわえて、ミニチュアのお宮に詣で、賽銭箱に10 円玉を入れて、鈴を鳴らして、おみくじをくわえて戻ってきて、それを渡してくれるという、小鳥がこんなことをするのかと驚くような、とても細やかで、愛らしい芸でした。このヤマガラの芸に象徴されるように、かつては小鳥を飼って、声や姿を楽しむという文化が日本には根づいていたのです。

ヤマガラの「おみくじ引き」は個人的にはとても懐かしいのですが、私たち日本野鳥の会は野生の鳥を捕まえて、飼って楽しむ文化ではなく、創立者の中西悟堂が唱えた「野の鳥は野に」を合言葉に、自然の中で鳥の声と姿を楽しむという文化を、日本の社会に根づかせてきました。私たちの活動は、鳥を守ることを通して、未来の世代に日本の豊かな自然を残すための活動です。

春、鳥たちの活動がもっとも活発になる季節です。ヒバリやホオジロがさえずり、もうすぐ森にはオオルリやキビタキなどの夏鳥もやって来ます。たまには野や山に出かけて、春の風の中で鳥の声を楽しみましょう。しっかりと予防対策をして野外で鳥を見ているだけなら、コロナ感染のリスクはそう高くはありません。心身の健康のためにも、ぜひ野鳥の姿にふれてみてください。
そしてこれからも、みなさま方の変わらぬご支援をお願いします。

研究のため、ヤマガラの巣箱を制作

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日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

春、サシバが渡来する里山

私の住む栃木県市貝町の里山では、3月になるとウメが咲き、コブシ、カタクリと続いて、4月に入るとサクラが満開になります。今の季節はまさに春爛漫。ちょうどその頃、南の国から子育てのために里山に渡ってくるタカが、サシバです。

サシバは、田んぼや畑のまわりでカエルやトカゲ、昆虫などさまざまな小動物を食べて暮らしています。そのため「里山の豊かな生態系を指標する種」と言われています。そんなサシバが、わが市貝町には密度高く生息しており、町ではサシバが舞う里山を基盤に、人と自然が共生する「サシバの里づくり」を進めています。私も、町の行政計画や条例づくりにかかわったり、谷津田で生きもの育む米づくり・湿地づくりを行なったりして、それに協力しています。

また、日本野鳥の会では、愛知県の豊田市自然観察の森の周辺にある里山で、サシバを保全目標種とした里山保全事業「サシバのすめる森づくり」を、2005年から行なっています。現地ではサシバの餌となるカエルなどを増やすため、休耕田を整備して水を張ることでカエルの産卵場所を確保しています。昨年6月には、その管理地内で16年ぶりにサシバが巣をつくり、2羽の雛を育てました。一旦繁殖が途絶えた後に、環境改善によって繁殖が復活したのは、全国的にも珍しい例です。

日本の原風景であり、生物多様性の宝庫である里山。それを未来に伝えていくことも日本野鳥の会の大切な使命と考えます。

田んぼの脇の枝にとまって、獲物を探すサシバ田んぼの脇の枝にとまって、獲物を探すサシバ

谷津田でニホンアカガエルの卵塊を調べる谷津田でニホンアカガエルの卵塊を調べる

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