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2026年3月6日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

台湾は3000m峰が269座もある山の国
台湾は3000m峰が269座もある山の国

台湾探鳥旅行

2月初めに台湾へバードウォッチングに行ってきた。台湾はこれまでに何回か訪れたことはあるのだが、いずれも研究がらみでのんびりバードウォッチングというわけにはいかなかったので、今回は夫婦でのんびり台湾固有種を見ようと、関東のA市の「野鳥を守る会」(当会の支部ではない)の企画に参加させていただいた。きっかけはこの会のメンバーと妻が数年前のJBFで知り合いになったこと。その方との個人的なつながりで、台湾の鳥を見るなら、ということで今回の鳥見が実現した。会のメンバーと懇意にしている台湾の林(リン)先生に現地を案内してもらうというツアーである。

待ち合わせ

実は私は2日目まで仕事があったので、3日目から途中参加ということにして、阿里山の麓の埔里(プーリー)にある台湾紹興酒のワイナリーで落ち合うことになった。

東埔(ドンプー)温泉の朝市
東埔(ドンプー)温泉の朝市では野菜を売っていた

2日遅れで台北へ飛び、台北のホテルで一泊。台北のバスターミナルから埔里までは長距離バスが出ているので、それに乗って来いという。埔里には台湾紹興酒のワイナリーがあって、そこで合流できると言われた。若干、不安はあったが、まあなんとかなるだろうと思っていた。これが大きな間違いで、台北のターミナルのバス会社の窓口で切符を買おうとしたら、その時間のバスはないという。第一のピンチである。時間に遅れたら合流できず、台湾の地方都市で迷子になってしまう。だが幸運にも、たまたま早めにターミナルに行っていたので、約束の1時間半前に出発するバスにギリギリ乗ることができた。

次のピンチ。バスは埔里の紹興酒のワイナリーに着くといわれていたのだが、ワイナリーではなく、市中心部のバスターミナルに着いた。まわりを見渡したが、紹興酒のワイナリーはない。私は中国語は「你好(ニイハオ)」と「謝々(シェイシェイ)」しかできないが、近くにいたバス会社のお兄さんに、ここに行きたいとワイナリーの写真をみせたら、そこは歩いて15分くらいだが、市内バスがあるのでそれに乗れと親切に教えてくれた。なぜ話が通じたかというと、私はスマホは持っていないがお兄さんのスマホの翻訳機能で会話ができたからである。

それにしても、ターミナルの切符売り場のお姉さんもそうだったが、中国語のわからない日本人にも、皆、親切に接してくれる。言葉は通じなくても、なんとか意思は通じ合えるのが人類というものである。というわけで、やっとワイナリーにたどり着いて、ビールを飲みながら(紹興酒ワイナリーには試飲はなかった!)クロヒヨドリシロガシラを見ていたら、やっとツアー一行のバスが到着した。

ツアーで台湾料理を囲む。
ツアーで台湾料理を囲む。台湾料理はそんなに辛くも甘くもなく、野菜も多くてヘルシーだった

バスが出発するまで、東京の台湾代表部で副領事をしていた郭(カク)さんという方としゃべっていた。案内の林先生の知り合いで、たまたまバスに乗ってきたのだ。郭さんは日本語がペラペラで、日本社会のいろいろなことをよく知っているおもしろい方だった。日本語でダジャレを連発して、今話題になっているグリーンランドについては、アメリカが買うより日本が買えばいいという。「日本には北海“道”があるでしょう。だから“ぐりーんらん道”でいいじゃないですか」と(笑)。今は職を退いて、「台南で晴耕雨読です」と言っていたが、楽しいおじさんであった。

台湾は山の国

さて、日本人はあまり意識していないと思うが、台湾は山の国である。日本には3000mを超える山は、富士山、北岳、奥穂高と23座しかないが、九州の面積ほどしかない台湾の中央部の山岳地帯には、富士山より高い3952mの玉山(戦前の日本占領時は新高山(にいたかやま)と呼ばれていた) をはじめとする3000m峰が269座(!)ある。台湾の総面積の3分の2は山なのである。

台湾の山にはウンピョウやセンザンコウという日本には分布しない哺乳類もいるが、シカやイノシシをはじめ、カモシカ 、ツキノワグマ、サル(タイワンザル)など、ほとんど日本と同じ近縁種が棲んでいる。これは台湾がかつて大陸とつながっていた名残りの動物相で、日本列島とよく似た動物相を持った島国が台湾である。

寒緋桜
公園のあちこちには寒緋桜(カンヒザクラ)がちょうど満開だった

タイワンザル
タイワンザルはニホンザルそっくりだが、尻尾が長い(写真では見えませんが)

台湾の固有鳥類

山が多い台湾には、山岳地帯に取り残されている鳥の固有種も多く生息している。たとえばミカドキジ。ムラサキ色に輝く美しいキジ科のこの鳥は、日本のヤマドリに近縁のヤマドリ属Syrmaticusの鳥である。大陸に分布するオナガキジカラヤマドリも色彩はかなり異なるがヤマドリ属Syrmaticusである。前から思っていたことだが、カモ科とかキジ科の鳥では、性淘汰(メスによる選り好み)による形態の多様化が(地質学的には)かなり短い時間単位で生じているらしい。

里山にあったミカドキジのレリーフで記念撮影
里山にあったミカドキジのレリーフで記念撮影

本物のミカドキジ(上田明子撮影)
本物のミカドキジ(上田明子撮影)


台湾に生息する野鳥は87科686種(2022年の資料)、そのうち台湾固有種は32種、台湾固有亜種は 52種にもなっている。これは日本の固有(亜)種の種数に比べるとはるかに高い固有性である。台湾の鳥類の固有性の高さには、台湾が亜熱帯域に位置していることと、国土の大半が山岳地帯であることに起因していると思われる。タイワンゴシキドリやヤマムスメなど比較的標高の低い地域にも生息する固有種もいるが、固有種の大半は標高の高い山岳地帯に生息している。

アリサンヒタキ
アリサンヒタキ

ニイタカキクイタダキ
ニイタカキクイタダキ

そんなわけでたった3日間ではあったが、阿里山国家遊楽区(国立公園プラス観光地という指定区域)で、アリサンヒタキヤブドリシマドリニイタカキクイタダキズアカエナガなど、いろいろな固有種に出会うことができたが、32種の半分も見ることができなかった。昔から台湾に行ったら見よう、とずっと思っていたミカドキジにも会うことができなかったのは残念である(妻は大雪山保護区で、近距離からみたそうである)。また行こう!


過去のメッセージ

プロフィール

日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

鳥とウェルビーイング

この冬は、ツグミがとても多く見られます。昨冬はほとんど姿を見せなかったため、昨年1月14日の理事長メッセージでは生息状況の悪化を心配しました。しかしその不安は杞憂だったようです。今冬は11月上旬にはすでに、我が家のまわりの田畑に数十羽ものツグミが集まり、柿の実をついばむ姿が見られました。柿を食べ尽くした後は分散したのか、大きな群れは見られなくなりましたが、その後も毎日のように数羽が家の周囲を訪れています。

カキの実を食べにやって来たツグミ
カキの実を食べにやって来たツグミ

冬のあいだ、我が家の周辺にはツグミ以外にも、毎日顔を合わせるおなじみの鳥たちがいます。朝、犬の散歩に出ると、最初に迎えてくれるのは薪の上で虫を探すジョウビタキ。

薪の上で虫を探すジョウビタキ(メス)
薪の上で虫を探すジョウビタキ(メス)

畑に出ると、モズが餌を見つけたのか低木から地面に飛び降ります。ノスリが裏山のねぐらから「ピィー、ピィー」と大きな声を上げながら飛び出し、川べりのお気に入りの木の枝に舞い降ります。川面をのぞくと、「チィー」と鳴きながらカワセミが滑るように飛び、その先にはアオサギとダイサギが静かに佇んでいます。

こうした鳥たちとの出会いで始まる朝は、かけがえのない幸せな時間を私にもたらしてくれます。

低木にとまるモズ(メス)
低木にとまるモズ(メス)
お気に入りの枝にとまるノスリ
お気に入りの枝にとまるノスリ


鳥類の種多様性と幸福の関係

こうした日々を過ごすなかで、少し前に読んだ「ウェルビーイングと鳥の多様性」に関する研究を思い出しました。ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態がそろった、いわば「幸福」と言い換えられる概念です。この研究はヨーロッパ全域を対象に、鳥類の種多様性と住民の生活満足度との関係を調べた初めての大規模分析で、その結果、鳥の多様性が高い地域ほど生活満足度が高いことが明らかになりました。

鳥の多様性が幸福につながる理由はまだ完全には解明されていませんが、研究では二つの仮説が示されています。一つ目は、鳥を「見る・聴く」という直接体験が人の心を豊かにし、ウェルビーイングを高めること。二つ目は、鳥の多様性は「良質な環境や景観の指標」であり、人にとって好ましい環境の象徴として働くということです。

この研究結果は、鳥や自然環境の保全が、人の幸福にとっても重要であることを示しています。鳥の減少は生物多様性の損失だけでなく、将来的には私たち自身のウェルビーイングを脅かす恐れがあります。これまでは鳥の多様性維持のために生息地保全が行われてきましたが、これからは人々の幸福のためにも、鳥や自然環境を守り育てていくことが大切になります。


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