浦主任研究員が衆議院環境委員会の参考人として意見陳述しました

2025年5月28日

2025年5月13日、衆議院環境委員会で「環境影響評価法の一部を改正する法律案(内閣提出)」の審議のため、自然保護室の浦達也主任研究員が参考人として招致されました。

浦達也主任研究員
引用元:衆議院インターネット審議中継

環境影響評価法は、発電所の建設などの事業を始める前に、事業実施により生じる環境影響を事業者自らが調査、予測、評価(以下、環境アセス)し、その結果を事業内容に反映させて環境保全に十分に配慮するための手続きを定めた法律です。
この法律は10年ごとに見直しが行われます。今年はその10年目にあたり、下記2点の改正案が内閣で閣議決定されました。


改正案(改正内容) 改正の背景
1. 建替えの場合には、当初の立地選定時に行った環境アセスに代えて、既存の工作物による環境影響調査結果を踏まえた配慮内容を明らかにする。 1999年の法律の施行から四半世紀以上が経過したことにともない建替え事業が増加している。位置や規模が変わらない場合でも、新規事業と同様の手続が求められるのは事業者負担が大きいため、適正な環境配慮は維持しつつも、合理化が必要である。
2. 環境大臣は、あらかじめ事業者の同意を得た上で、事業者が作成したアセス図書を公開することができる。 事業者は環境影響評価書(以下、アセス図書)を作成し公表しているが、その期間は1ヵ月程度に限られており、後続事業のアセス手続などで十分に活用できていない。

詳細は環境省のページをご覧ください

衆議院の環境委員会では、浦主任研究員が参考人の一人として下記の通り意見陳述を行い、委員会所属議員からの質疑へ回答をしました。

改正案についての意見陳述

意見陳述のようす
引用元:衆議院インターネット審議中継

1. 建替え事業を対象としたアセス手続きの見直しについて

  • 近年の風力発電機などは大型化や大規模化が進んでいることから、建替えであっても出力や高さなど一定の基準を定め、事業者に環境配慮を求める必要があります。
  • 風力発電の耐用年数が20年程度とされていることから、今後しばらくの間は、風力発電がアセス法の対象事業となる2012年より以前の環境アセスが行われていない設備の建替えが中心となります。しかし今回の改正では、建替え事業であれば2012年以前に建設した環境アセスが行われていない風力発電施設では、一度も環境アセスをしないまま建替えられる状況になります。そのため、適切な事後調査を実施して、環境影響が軽微であると認められた建替え事業のみとするなどの方針が必要です。

2. アセス図書の継続公開について

  • 「環境大臣がアセス図書を入手した上で継続公開を可能にする」ではなく、事業者が設備の稼働期間中は継続的に公開することを“原則”とすることが必要です。
  • 一方で、事業者の著作権にも留意し、公開する対象範囲や期間などの要件を検討する必要もあります。

改正案に含まれていない課題について

上記改正案に含まれていない課題についても、下記の通り意見陳述をしました。

環境配慮がされた風力・太陽光発電施設を導入促進するための施策

立地誘導による導入促進

立地誘導による導入促進をするために、地球温暖化対策推進法に基づく再エネ促進区域の指定がありますが、市町村による促進区域の設定が進んでいません。そのため、市町村が促進区域の設定にメリットを見出せるような制度設計が必要です。

小規模事業に対する環境配慮の確保

一般的には事業規模が小さければ環境への影響も小さくなりますが、風力発電については、事業の規模ではなく立地によって環境(特に鳥類)に大きな影響を与えます。一概に他の事業と同様に事業規模で規制するのではなく、事業特性や立地選定のあり方によって、小規模事業であっても第一種事業として取り扱えるようにするなど、メリハリのある制度にすることが必要です。

アセス図書の評価について

  • 現状、アセス図書に求められる基準や資料・データの質や量について、定められた基準がありません。事業者が提出したアセス図書について問題があったとしても、基準に適合しているか、透明性があるか等を誰も審査・判断することができないため、早急に基準を定めるべきです。
  • 事業者が自ら環境アセスを行うため、「影響は軽微」という結論を導きやすくなっています。そのため、第三者によるレビューを経るなどして、公正な判定をする必要があります。
  • アセス図書には貴重なデータが多数含まれていることから、情報の蓄積や分析を行うことで事業実施以外にも活用することができます。そのため、継続的な公開と情報共有を図ることによって、ガイドライン等の整備、環境保全措置の技術開発など将来に役立てることができます。

配慮書の手続きにおけるゼロオプション

前回の改正で配慮書の手続きが導入され、配慮書の手続き段階においては事業の複数案を設定することになりました。環境に与える影響が大きいとわかった場合は事業を中止すべきですが、影響の軽減措置がとられることはあっても、中止した事例はほとんどありません。そのため、配慮書の手続き段階においては、事業の中止(ゼロオプション)を含めた複数案を設定すべきです。

累積的な環境影響への対応

複数の事業が集中して実施または計画されている地域では、事業単体ではなく、複数事業による累積的な環境影響の発生が懸念されています。

  • 諸外国ですでに発生している事例を整理し、技術的な考え方や責任分担の考え方について検討を行い、ガイドラインなどを策定する必要があります。
  • 地域特性や事業特性があることから、地域によって実施できる事業数や種類を適切に設定するため、再エネ促進区域の指定を効果的に活用することが望まれます。
  • 複数の事業が実施・計画されている地域で、事業者が他の事業を把握するために、アセス図書の継続公開を実施することが効果的です。

戦略的環境アセスメント(SEA)について

戦略的環境アセスメント(Strategic Environment Assessment, SEA)は、事業が具体化するより前段階にある時点での政策や計画、プログラムなどに対して、環境影響をあらかじめ予測評価し、その結果を反映させることをいいます。
一度具体化した事業に対して環境アセスを行っても、事業者が最適な環境配慮を検討することは困難です。社会全体として環境負荷を低減し、持続可能な社会を構築するために、政府は戦略的環境アセスメントについてあらためて検討すべきです。

環境影響評価法の見直し頻度について

以上の内容は、現行制度の課題として、本改正案が閣議決定される前に行われた中央環境審議会の二次答申案に記載されたもので、国民が日頃から感じている課題です。

これらの他に、専門家より指摘されている課題もあります。

  • アセス図書の公開で事業者が一部のデータなどを公開しない場合や、虚偽記載があった場合の対応方針
  • 評価項目の絞り込みなどによる環境影響評価の合理化
  • 手続途中段階の風車の機種変更
  • 発電施設などを撤去または破棄する際の環境影響評価
  • 環境大臣の権限の限定性
  • 地域との合意形成に係る課題や公衆参加と透明性の向上
  • 環境影響評価手続に係る不服申立・争訟手続
  • 代償措置に関する明確なルールの設定など

現行制度に対してこれだけの課題が指摘されているにもかかわらず、本改正案で議論されるのは、「建替え事業を対象としたアセス手続きの見直し」と「アセス図書の継続公開」の2項目のみです。

現在の附則に従えば、次の見直し、または環境影響評価法改正は2035年頃になると考えられます。それまでの間に上記に挙げた課題や問題点がより大きくなり、あるいは、あらたな課題や問題点が噴出する可能性があります。また、上記のような課題を早急に解決していかないと、今後さらに地域紛争が頻発し、結局は再生可能エネルギー施設の受入れおよび導入が進まない事態に陥る可能性が高いと考えます。

このような事態を招かないためにも、環境影響評価法の見直しは3~5年ごとに検討を行い、必要な措置が速やかに講じられるようにすべきだと考えます。

自然エネルギー問題対策への寄付はこちら

※「任意の金額の寄付」とご寄付の金額をお選びください。