プレスリリース 2014.04.28
2014年4月28日
日本野鳥の会のツバメ全国調査
2013年の調査結果―大都市では、多くのヒナを育てられない!今年も全国調査を実施、とくに地方からのツバメ子育て情報求む
(公財)日本野鳥の会(会長:柳生博、会員・サポーター数:約 5万人)は、近年減少傾向にあるツバメの現状を明らかにするため、2012年より広く全国に呼びかけてツバメの調査を行なっています。2012年の調査では、約 4 割の方が「ツバメが減っている」と感じており、減少の一因として不衛生を理由に人が巣を落としてしまう例が数多く報告されました(*2)。
この結果を受け、2013 年には「ツバメの巣を落とさず、子育てを見守って」と全国に広く呼びかけるとともに、特設ホームページにツバメの子育ての様子を観察し記録していただく「ツバメの子育て状況調査」を実施しました。その結果、全国から 1,437 巣の情報が寄せられ、くわしく分析した結果、ツバメの子育ての現状について次のことがわかりました。
- 大都市では多くのヒナを育てられない
巣立ちヒナ数と都市化との関係を分析したところ、都市では巣立ちビナが少ないことがわかりました。特に首都圏では、都心と郊外を比較すると1巣あたり約 1 羽分も少なくなっていました。都心で巣立つヒナの数が郊外に比べて少ないのは、都市化がツバメの子育てにとって厳しい環境であることを示唆しています(*3)。 - 都市のツバメにとって、緑地は「子育ての命綱」
都心でヒナの数が少ない理由として、エサの量が不足していることが考えられます。都心部の巣立ちヒナ数と巣の周辺環境との関係を分析したところ、点在する緑地がプラスに働いていました。エサを捕るのに適した田畑が少ない都心部では、小さくても公園などの緑地がツバメの子育ての支えになっていると考えられます(*3)。
◆今年も「ツバメ子育て状況調査」を実施、とくに地方からの情報提供にご協力を!
これまで集まったデータは、東京都や神奈川県などの大都市圏から多く寄せられており、大都市でのツバメの子育ての状況は見えてきました。しかし、地方都市や農村部などの里地里山が多く残る地域からの情報が少なく、ツバメ本来の生息環境での繁殖状況までは分析できていません。
そこで、3 年目となる今年も広く全国に呼びかけて「ツバメの子育て状況調査 2014」(*5)を実施し、都市部に加えとくに地方から情報をお寄せいただき、地方を含めた全国の子育て状況を明らかにできればと考えています。
また、ツバメのフン対策やカラスから守る方法など、ツバメの子育てを見守るノウハウを満載した小冊子「あなたもツバメ子育て応援団」(*6)の希望者への無料配布や、ツバメの目撃情報を集める「あなたの町のツバメ情報」も、引き続き実施します。
日本野鳥の会では、これらの取り組みを通じて、ツバメを見守ってくれる人々を増やし、人と自然の共存の象徴であるツバメが、いつまでも日本で子育てできる社会を目指します。
*は補足説明資料の各番号を参照
公益財団法人日本野鳥の会
担当: 自然保護室
葉山政治 [email protected]
荒 哲平 [email protected]
〒141 -0031 東京都品川区西五反田 3-9-23 丸和ビル
TEL:03-54362622
URL:http://www.wbsj.org/
補足説明資料
- ツバメについて
- 日本野鳥の会のツバメ全国調査 2012 結果報告
- ツバメの子育て状況調査 2013 結果報告
- ツバメの子育て状況調査 2014 ~2014 年は特に地方からの情報収集に力を入れます~
- 「ツバメの子育て状況調査」での調査方法
- 子育て見守りハンドブック「あなたもツバメ子育て応援団」について
- 公益財団法人日本野鳥の会について
1.ツバメについて
ツバメは、全長17㎝程度、長く切れ込みの入った尾羽が特徴。ユーラシア大陸と北米の広い範囲で繁殖して、冬には熱帯に渡って過ごします。日本では種子島以北の日本全土に夏鳥として渡来します。北海道では南部をのぞき、数は少ない傾向があります。
ツバメはめったに地上に降りることはなく、(ハチ、ハエ、アブ、トンボなど)の昆虫を空中で飛びながら捕食します。また、飛びながら水面をひっかくように口を開けて水を飲みます。
繁殖期は 4 月から 8 月で、一夫一妻で年に1回から2回繁殖をします。ひなは巣立ち後、数日間は巣の近くにいて、親鳥から餌をもらいます。2週間ほどたつと、親鳥から離れて、水辺のヨシ原などで、集団で夜を過ごすようになります。この集団ねぐらは数千~数万羽になることもあります。東京近郊では6月中旬ごろから集団ねぐらに集まるようになり、7月下旬~8月上旬が最大になります。8月頃から10月頃に東南アジアに渡っていきます。
写真1.水田を飛翔しているツバメ(写真/佐藤信敏)
2.日本野鳥の会のツバメ全国調査2012結果報告~消えつつあるのは人とツバメのつながりでした~
◇はじめに
近年減少傾向にあるといわれているツバメの現状を明らかにし、その背景にどのような原因があるのか把握することを目的に、広く全国にツバメの目撃情報の協力を呼びかけました。
その結果、全国から合計8,402件のツバメ情報が寄せられ、ツバメの現状について次のことが分かりました。
◇ツバメ全国調査 2012 調査結果
(1)ツバメの全国分布は大きな変化なし― 回答者の 99%がツバメを確認
全国すべての都道府県から 8,402 件 (一般目撃調査:6,867 件、詳細調査: 1,535 件)の情報が寄せられ、そのうち一般目撃調査の回答者の 99%がツバメを確認し、86%が営巣を確認していました(図1)。この結果を鳥類繁殖分布調査(環境省2004)と比較したところ、現時点では特に分布が縮小している傾向は認められませんでした。
(2)都市でもたくましく生きるツバメ、しかし数は減少?―回答者の 39%が減少と感じる
ツバメ生息の情報は首都圏、京阪神などから多く寄せられ、都市部でもたくましく生きているようです。しかし、回答者のうち39%は、ここ10年間でツバメが減少したと回答しており、分布は変わらないものの、多くの地域で個体数が減少している可能性が示唆されました(図2)。
(3)ツバメ減少の要因は、カラスによる影響、人による巣の撤去が上位に
ツバメ減少の要因として、自由表記で回答のあった 933 件の情報のうち、カラスによる影響が296件、また糞で汚れるなどの理由から巣が人の手で落とされる事例が216件寄せられ、上位を占めました。地図でみると、2つの要因は都市近郊で多く見られました。
◇ツバメ全国調査2012 考察・まとめ
2012年の調査の結果、ツバメは全国でたくましく生きているものの、多くの地域で減少している可能性があることがわかりました。減少要因としてカラスの影響や人が巣を撤去する報告が多く寄せられたことから、これらによってツバメの繁殖が阻害され、減少の一因になっている可能性が考えられます。
人による巣の撤去はもちろん、カラスも人が出すゴミで増加していると言われており、いずれも私たちの生活様式の変化や、受け入れる人の心の変化によって、ツバメの子育てが難しくなっていると思われます。「人と自然の共存を象徴する野鳥」であるツバメが、いつまでも日本で子育てを続けられるように、私たちはライフスタイルや身近な自然について考える必要があるのではないでしょうか。
3.ツバメの子育て状況調査 2013 結果報告
2012 年の調査の結果を受けて、2013 年にはツバメの繁殖がうまくいっているのかどうかを調べました。調査は「ツバメの子育て全国調査」という特設ホームページを作成し、全国に広く参加を呼びかけて実施しました。参加者は、地図上に自分の観察する巣を登録し、繁殖ステージの記録をしてもらうとともに、何羽の雛が無事に巣立ったのか、失敗した場合どのような原因かを報告してもらう方法で行いました。その結果、全国で合計 1,437 個の巣で、ツバメ繁殖の状況を確認することができ、以下のことが分かりました。
(1)大都市では多くのヒナを育てられない
全国から寄せられた 1,437 巣の中から、一番仔の巣立ちに成功した 678 巣について解析を行いました。ツバメの巣のある場所が、どの程度都市化しているかをみるために、巣のある三次メッシュ(約 1km 四方)で建物用地がどの程度の割合を占めているかと、巣立ちに成功した巣の一番仔の巣立ちヒナ数の関係を見てみました。建物用地が20%未満の地域では平均巣立ちヒナ数4.28羽、建物用地が 80%以上の地域では平均巣立ちヒナ数 3.87 羽となり有意な差が認められました。全体的な傾向としても都市化が進んだ地域で巣立ちヒナ数が少なく傾向にあることがわかりました。ある程度以上都市化の進んだ場所は、ツバメにとって多くのヒナを育てることが難しくなる状況が見えてきました。
(2)首都圏でツバメの子育てを支える環境
子育てに失敗した割合は、建物用地率の大小にあまり関係が見られませんでした。逆に建物用地率が 40%以下の場合、それ以上の地域よりも子育てに失敗する割合が高くなっています。このことから都市では、巣作りに向いた建物や巣材が得にくいということは理由として考えにくいといえます。育て上げることのできるヒナに数が少ない理由としては、ヒナに与えることのできる食べ物の量が不足している事が考えられます。そこで、データが多く集まった首都圏の巣について、首都圏整備法に基づくエリア区分(図7)を利用して、巣立ちヒナ数を比較してみると、やはり都心では有意に巣立ちひな数が少ないことがわかりました。
どのような環境がツバメの子育てを支えているかを知るために、巣の周辺 500mの範囲にある環境要素(農地や緑地、水辺など)のどれが、プラスに働いているかをモデル選択で検討してみました(表2)。その結果、林や緑地の外周の長さが効いていることがわかりました。都心では、公園などの緑地の林縁で風にのって昆虫を捉えている姿をよく見かけます。エサ条件の厳しい都市では、小さくても緑地の存在がツバメの子育てを助けていることが見えてきました。
4.ツバメの子育て状況調査 2014 ~2014 年は特に地方からの情報収集に力を入れます~
2013 年に集まったデータは、東京都、神奈川県など首都圏をはじめとした大都市圏から多く寄せられており、大都市でのツバメの子育て状況は見えてきました。しかし、地方都市や農村部など里地里山が多く残る地域からの情報が少なく、ツバメ本来の生息環境での子育て状況は分析できていません。キャンペーン最後の年となる今年は、ぜひ地方からも多くの情報をお寄せいただき、地方を含めた全国の子育て状況を明らかにできればと考えています。
5.「ツバメの子育て状況調査」での調査方法
(1)調査方法
ツバメの子育ての状況を記録する専用ウェブサイトを設置し、全国から情報を集めました。
インターネットにアクセスすることができればどなたでも参加できる調査です。より多くの方に参加いただけるようスマートフォンにも対応しています。参加者は継続して同じ巣を観察し、子育ての状況を観察日記のように記録していただくことで、その巣からの巣立ちヒナ数や、繁殖に失敗した場合はどの繁殖ステージで失敗したのか、失敗の原因は何かの情報を収集し、それを元にツバメの子育ての現状や減少傾向にあるのかを調べます。
参加者はツバメの子育ての情報を記録して共有することができ、ツバメの子育てを見守りつつ、保護のための情報を蓄積することができます。2013 年度には、全国で 1,437 巣を観察していただき、678 巣で巣立ちまでの追跡が出来ました。
(2)「ツバメの子育て状況調査」の特徴
- 観察する巣が地図上に登録されるため、正確な位置がわかり、周辺環境との関係を見ることができます。
- 1巣あたりの巣立ちヒナ数を全国的に把握することができます。
- 繁殖に失敗した場合の原因やそのステージを知ることができます。
- パソコンはもちろん、スマートフォンやタブレットでも気軽に参加でき、全国からの情報を得やすくしています。
- 楽しんで参加いただけるように、全国から寄せられたツバメの巣の情報をリアルタイムで共有することができます。
URL:http://tsubame.torimikke.net/
検索:「日本野鳥の会 ツバメをまもろう」または「ツバメの子育て状況調査」
6.子育て見守りハンドブック「あなたもツバメ子育て応援団」について
ツバメの子育てを見守ってくれる方を増やしてくため、子育て見守りハンドブック「あなたもツバメ子育て応援団」を無償で配布しています。
このハンドブックは、ツバメの生態や、ツバメが現在直面している問題、また「カラスから守る方法は?」、「巣を落とそうとしている人には、どうしたらいい?」などツバメの子育を応援するために役立つ情報について、かわいいイラストや写真を使用して、分かりやすく解説しています。このハンドブックを手に、ぜひあなたのまわりの方々にも声をかけ、たくさんの方に巣を落とさずに子育てを見守っていただければと思います。
報道関係各位におかれましては、告知・報道へのご協力をお願いいたします。
◇申し込み先
①住所 ②氏名 ③電話番号
*可能であれば、④どこでこのプレゼント企画をご覧になったかを明記して、次のいずれかの方法で「ツバメ子育て見守りハンドブックプレゼント」係にお申し込みください。
- 電話:03-5436-2630
- FAX :03-5436-2636
- ハガキ:〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル公益財団法人日本野鳥の会 ツバメ子育て見守りハンドブックプレゼント 係
- ホームページ:当会ホームページ(http://www.wbsj.org/)のツバメ特設ページより
7.公益財団法人 日本野鳥の会について
※詳しくは当会ホームページをご参照ください
自然と人が共存する豊かな社会の実現を目指し、野鳥や自然のすばらしさを伝えながら、自然保護を進めている民間団体です。全国約 5万人の会員・サポーターが、自然を楽しみつつ、自然を守る活動を支えています。
- 会長:柳生博 会員、サポーター約5万人
- 創設:1934年 ・創始者:中西悟堂 ・連携団体:全国90団体
- 1970年 財団法人に改組。 ・2011年4月 「公益財団法人日本野鳥の会」として登記
<野鳥や自然を大切に思う心を伝える普及活動>
- 自然観察の森など、全国8ヵ所の自然系施設に訪れる、年間約30万人のビジター対して野鳥や自然の素晴らしさを伝えています。
- 東京バードフェスティバルなどの大規模イベントへの参加や野鳥図鑑などの発行を通して、バードウォッチングの楽しさを伝えています。
- 野鳥や自然のすばらしさを伝える雑誌や小冊子を発行しています。
<野鳥や自然を守る保護活動>
- タンチョウ、シマフクロウ、カンムリウミスズメなど絶滅の恐れのある野鳥の保護と生息地の保全を行っています。
- 北海道東部のタンチョウの営巣地を中心に、土地の買い取りや協定により野鳥保護区として生息地の保全を進めています。現在、野鳥保護区の面積は33か所、2953.3haで、自然保護団体としては国内最大級です。
- 国際的に重要な鳥類等を指標にした重要度の基準(ⅠBA基準)を満たした野鳥の重要な生息地の選定、リストの公表を行い、保全の推進、ネットワーク化を行っています。
<公益財団法人に登記>
- 日本野鳥の会は、内閣総理大臣より「公益財団法人」に認定されており、個人や法人が支出した寄付金に対し、「特定公益増進法人」として税制上の優遇措置が設定されています。
公益財団法人日本野鳥の会
担当: 自然保護室
葉山政治 [email protected]
荒 哲平 [email protected]
〒141 -0031 東京都品川区西五反田 3-9-23 丸和ビル
TEL:03-54362622
URL:http://www.wbsj.org/