プレスリリース:生息数わずか135つがい「チュウヒ保護プロジェクト」を2024年度より開始 (公財)日本野鳥の会 創立90周年記念事業

2024年2月20日

日本野鳥の会90周年ロゴ

公益財団法人日本野鳥の会(創立1934年3月11日/事務局:東京)は、2024年3月11日をもって、創立90周年を迎えます。この90周年を記念する事業として、これまで進めてきたチュウヒの保護活動を発展させ、2024年度より「チュウヒ保護プロジェクト」を開始いたします。

チュウヒとその生息地保全促進のために

チュウヒ写真/岡田宇司

当会はかねてよりタンチョウ、シマフクロウ、アカコッコ、カンムリウミスズメ、オオジシギなど絶滅が心配される種の保護を、重要な事業として行なってきました。特に2016年度から2020年度までの5年間のオオジシギ保護調査事業では、渡り経路の解明や北海道内の繁殖個体数の推定、2019年のオーストラリアの異常気象による影響把握など種の保護上の成果を上げ、これらの知見は、原野の代表種であるオオジシギの世界及びオーストラリアにおけるレッドリストのランクアップに活用されました。

そして、日本でのオオジシギの生息地の一つである北海道苫小牧市の勇払(ゆうふつ)原野一帯の保全に関しては、安平(あびら)川河道内(かどうない)調整地の範囲決定によって一定の保全が担保されたことを受け、ラムサール条約登録に向けて地元自治体等との調整を継続している段階です。

しかし、社会的な再生可能エネルギーの導入促進の高まりを受け、当地では河道内調整地以外の原野環境は、今後も太陽光発電所の設置が進む可能性が高く、原野の保全と再生可能エネルギー導入の両立の重要性がこれまで以上に高まっていると考えられます。

一方、オオジシギと同様に原野を利用する種である「チュウヒ」も、勇払原野や同じく北海道にあるサロベツ原野に生息していますが、国内推定繁殖数135つがいと、猛禽類のなかでは最も絶滅の危険性が高い状況にあります。そこで、当会ではチュウヒをオオジシギに続く原野の代表種として位置づけ、創立90周年に当たりチュウヒと原野の双方の保全を促進するための5か年(2024~2028年)の保護プロジェクトを展開することといたしました。

繁殖地の開発によって高まる絶滅の危険性

勇払原野の風景チュウヒの重要な生息地、苫小牧市にある勇払原野の弁天沼付近

チュウヒは絶滅の危険性が高いにもかかわらず、保護増殖事業などの行政による保護が行なわれておらず、国内繁殖つがい数の減少が著しい状況にあり、その主な要因は繁殖地の減少にあります。(下記資料参照)。

サロベツ原野は、国内の繁殖つがいの42%が利用する重要な生息地です。ここで繁殖するチュウヒの75%は、サロベツ国立公園外の乾燥化してササ原になった民有地で繁殖していますが、これまでにチュウヒが繁殖するササ原の数か所が圃場整備や開発の対象となり、当会らの地元行政機関等への働きかけにより、整備が一時中断された例があります。

また勇払原野でも多くのチュウヒが民有地で繁殖していますが、このエリアが工業用地ということもあり、常に太陽光発電所や風力発電所の建設、工場誘致などの開発による危機に晒されており、実際にチュウヒの繁殖地での風力発電所建設計画が存在しています。

このように、サロベツ原野および勇払原野のチュウヒとその繁殖地は、常に消失の危機に晒されていることから、保護を行なう緊急度が非常に高くなっています。

チュウヒ保護が生物多様性保全にもつながる

猛禽類の中では最も絶滅の危険性の高いチュウヒですが、英国では英国王立鳥類保護協会(RSPB)の生息環境整備などの保護活動により、チュウヒの繁殖が復活した事例があります。そして、湿地・草地生態系の頂点捕食者であるチュウヒの生息地保全を促進することは、同じ湿地や草地に生息する希少鳥類オオジシギをはじめオオジュリン、ノゴマ、ノビタキなど、湿地・草地生態系や生物多様性の保全にもつながります。

当会は、勇払原野の近くには直営のウトナイ湖サンクチュアリを有し、もう一つの重要繁殖地サロベツ原野では、この地域の環境保全にあたっているNPO法人サロベツ・エコ・ネットワークと協働し、さまざまな活動を進めてきました。こうした現地での拠点やネットワークとも連携を図りながら、一般の方への普及活動や保全活動の促進に努め、2028年には本プロジェクトの目標を達成すべく、鋭意取り組んでまいります。

保護プロジェクトの概要

これまで当会が行なってきたサロベツ原野、勇払原野での繁殖状況調査を継続しつつ、当会独自の野鳥保護区の設置に向けての活動や、繁殖地の公的保護を行政などに働きかけていく。

目標
  • 勇払原野でのチュウヒの個体数の維持または増加に有効な保全策を立案、実施
  • 勇払原野(弁天沼周辺)のラムサール条約登録に向けた世論形成、合意形成
  • サロベツ原野でのチュウヒのための当会独自の野鳥保護区の設定
  • サロベツ原野のチュウヒの重要な繁殖地について、国または道の指定鳥獣保護区化または国立公園の拡張、もしくは自然共生サイトの認定
活動期間

2024年度~2028年度

〈資料〉

チュウヒ

チュウヒ
写真/岡田宇司

タカ目タカ科チュウヒ属
(英名)Eastern Marsh Harrier
(学名)Circus spilonotus
全長 オス48cm/メス5cm
絶滅危惧IB類 (EN)(環境省レッドリスト)

ユーラシア大陸北部、サハリンなどで繁殖し、東南アジアで越冬する。日本には冬鳥として本州以南に渡来する。北海道、本州や九州で局所的に少数が繁殖。草原、湿地、ヨシ原などが生息環境。両翼をV字型にして、低空飛行で滑空しながら地上の獲物を探す。やや平面的な顔は、フクロウ類のように収音効果が高い。食性は肉食性で、魚類、両生類、爬虫類、鳥類やその卵、小型哺乳類等を捕食する。春先には、らせん飛行や宙返り、空中でのエサの受け渡しなどの求愛行動も見せる。

チュウヒの置かれている現状

  • 営巣地の開発や植生の遷移などの影響で繁殖個体数が著しく減少しており、絶滅が強く危惧されている。絶滅危惧IB類(環境省)、国内希少野生動植物種。
    →国内希少野生動植物種への指定は、国内希少野生動植物種の提案制度を利用した当会からの提案による

  • 2020年時点での国内推定繁殖つがい数:135つがい
    →北海道が主要な繁殖地(サロベツ原野57、勇払原野20、石狩川流域15、猿払~枝幸9、釧路~根室11、十勝4、本州19)

  • 繁殖地の環境変化の影響を受け、特に本州以南で個体数減少が著しい。
    →本州以南では2010年頃は40~50つがいだったものが、2020年は19つがいに減少

チュウヒの減少の主な理由

  • 北海道:湿地の乾燥化と植生遷移(灌木・樹林化、排水路整備)、繁殖地の開発(道路・太陽光発電所および風力発電所の建設、圃場整備)、天敵による捕食

  • 本州:繁殖地の埋め立てや造成による植生遷移、太陽光発電所建設、不適切な撮影や観察行為による繁殖地放棄等

日本野鳥の会 創立90周年にあたって

1934(昭和9)年3月11日、当会の創設者・中西悟堂(コラム参照)を中心に、当時の鳥学者、文学者、日本画家、新聞記者などの有識者が集い、日本野鳥の会設立の目的などを話し合う座談会が開催されました。この日を当会設立の日とし、2024年でちょうど90年。90年におよぶ歴史は、日本の自然保護団体として最古となります。

中西悟堂は、野鳥は「飼うか食べるか」の時代に、「野の鳥は野に」と、自然の中にくらすあるがままの野鳥と親しみ、保護することを唱え、日本野鳥の会を設立しました。そして、自然の中で野鳥観察(バードウォッチング)を楽しむ会「探鳥会」を、1934年6月に日本で初めて開催します。それは全国各地の支部(連携団体)によって広められ、引き継がれ、現在でも各支部が中心となって年間3000回もの探鳥会が開催されています。

また直営・受託のサンクチュアリ(*1)に当会所属のレンジャーを配置し、地域の自然を守る調査・保全活動と共に、自然の楽しさや大切さを伝える普及活動を行なっています。

その一方で、当会は悟堂の「鳥たちを守ることは、日本の山河を守ること」という思想を出発点に、野鳥の密猟問題や大規模公共事業の開発問題に対して、署名運動や反対運動、ロビー活動などによって、野鳥を取り巻く環境の保護・改善に力を注いできました。

現在は、環境省や他の自然保護団体との協働、また企業からの技術支援や協定締結などのご協力をいただきながら、タンチョウやシマフクロウなどの絶滅危惧種の保全、風力発電所や太陽光発電所による自然や野鳥への影響把握と保全策の提言、海洋など自然界に流出するプラスチック問題についての調査・啓蒙などに取り組んでいます。

今後、生物多様性の保全が図られ、ネイチャーポジティブ(*2)を推進することが、人間社会の持続性・発展性においても、ますます重要となってきます。当会はこれからも、先人たちの功績に恥じることのないよう、地域社会や企業のみなさまとの連携をより深めながら、日本の豊かな生物多様性を次世代へとつなげる活動を行なってまいります。

*1 サンクチュアリ……自然環境の保護に加え、レンジャーが常駐するネイチャーセンターや自然観察路などが設けられた自然保護地域
*2 ネイチャーポジティブ……生物多様性や自然の損失を食い止め、回復させ、豊かにすること

その他の90周年記念事業

支部(連携団体)による「未来に残したい探鳥地」を公開

当会には全国で85の支部(連携団体)があります。各支部はそれぞれの地域で、野鳥の生息地の保全や調査に努めながら、会員や一般の方に向けた探鳥会を実施しています。地域の自然を守ってきた各支部から、生物多様性等の観点で「未来に残したい探鳥地」を1か所推薦していただき、支部による紹介文などとともに、当会のHPに掲載いたします(2024年7月公開予定)。

90周年記念Tシャツを販売

246名309点にのぼる一般公募デザイン案の中から、最優秀賞の1点をオリジナルTシャツとして商品化し、2024年4月より直営店「バードショップ」のほか、バードショップオンライン「Wild Bird」で販売いたします。

最優秀賞タンチョウ
最優秀賞
タンチョウ/中村イサト

Tシャツ着用イメージ

バードショップ

オンラインショップ「Wild Bird」

〈コラム〉

中西悟堂
写真提供/小谷ハルノ

創設者 中西悟堂(1895年11月16日~1984年12月11日)

日本野鳥の会創設者で初代会長。野鳥研究家で僧侶(天台宗僧正)・歌人・俳人であった悟堂は、「野の鳥は野に」と、自然の中にくらすあるがままの野鳥と親しみ、あるがままの自然を保護することを唱え、日本における自然保護運動の先駆者といえる存在でした。東洋思想に基づく独自の自然観や斬新な思想・生き方は当時の学者や文化人を惹きつけ、日本野鳥の会の設立趣意書の賛同者には、山階芳麿、黒田長禮、内田清之助などの鳥学者のほか、柳田國男、山口蓬春、杉村楚人冠など多くの知識人が名を連ねています。

悟堂は、日本野鳥の会設立後も法整備への働きかけなど野鳥保護の啓もう活動に生涯をかける一方で、100作以上の著作も残しました。『定本野鳥記』で読売文学賞を受賞。

「日本野鳥の会」について

「野鳥も人も地球のなかま」を合言葉に、野鳥や自然の素晴らしさを伝えながら、自然と人間とが共存する豊かな社会の実現をめざして活動を続けている自然保護団体です。

独自の野鳥保護区を設置し、シマフクロウやタンチョウなどの絶滅危惧種の保護活動を行なうほか、野鳥や自然の楽しみ方や知識を普及するため、イベントの企画や出版物の発行などを行なっています。

日本野鳥の会ロゴ

<組織概要 2024年2月現在>
組織名:公益財団法人 日本野鳥の会
会長:上田恵介(立教大学名誉教授)
代表者:理事長 遠藤孝一(日本野鳥の会栃木県支部副支部長)
所在地:〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
創立:1934(昭和9)年3月11日
職員数:65名
会員・サポーター:約5万人
直営サンクチュアリ:2施設
受託サンクチュアリ:6施設
URL:https://www.wbsj.org/

報道関係者様 問い合わせ先:(画像の提供も下記にお問い合わせください)

公益財団法人日本野鳥の会 広報室 (平日10:00~17:00)
〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23
TEL:03-5436-2632
E-mail:[email protected]


本プレスリリースのPDF版はこちら/602KB]

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