プレスリリース2018.12.05

苫小牧東部開発地域(苫東地域)で、
サンカノゴイなど8種の希少鳥類を確認

日本野鳥の会 ウトナイ湖サンクチュアリは、今年の繁殖期(4~8月)に実施した苫東地域での鳥類調査で、国内レッドリストにある絶滅危惧ⅠB類を4種、同Ⅱ類を2種、準絶滅危惧を2種、計8種もの絶滅のおそれのある鳥類の生息を確認しました(別紙資料 1参照)。

当会では毎年、苫東地域で調査を行ない、希少鳥類の生息地としての重要性を訴えており、今回の調査結果をもとに、同地域内に今後整備される河道内調整地(遊水地)などがラムサール条約湿地として登録されるよう、これからも保全活動を進めて参ります。(これまでの活動については、別紙資料 2 をご参照ください。)

なお、情報公表によって希少鳥類の繁殖へ悪影響が及ばないよう、発表をこの時期といたしました。また、詳しい確認位置等の公表は控えさせていただきますのでご了承ください。

確認された希少鳥類について

絶滅危惧ⅠB類のサンカノゴイは、当会が2012年から継続して行なっている苫東地域における調査では初めて確認(声のみ)することができました。また、シマクイナは、昨年と同じ調査区域で少なくとも5羽を確認しました。

同ⅠB 類のアカモズは、3つがいを確認しました。2013年から毎年、同じ区域で調査した結果、初年度の5つがいから、2014年に2つがいに減少して以降2018年まで、ほぼ同じつがい数で推移していることが分かりました。また、営巣地としてほぼ同じ場所を継続して使っていることが確認され、調査区域内を利用するアカモズにとって重要な地点を把握することができました。

絶滅危惧Ⅱ類のタンチョウは、同地域内において6年連続で確認されました。今年は5月下旬から7月中旬にかけてたびたび観察され、幼鳥1羽と成鳥1羽でともに行動する姿が見られました。

ここに挙げたほとんどの種は、国内において北海道以外では繁殖期の生息確認が難しいものばかりです。今回の調査で、全国的に見ても希少な鳥類が生息する自然環境、特に湿原や草原が苫小牧市内に残されていることが明らかになりました。

アカモズ(ウトナイ湖サンクチュアリ)
アカモズ(ウトナイ湖サンクチュアリ)

問い合わせ先

日本野鳥の会 ウトナイ湖サンクチュアリ
担当:中村 聡(なかむら さとし)
瀧本宏昭(たきもと ひろあき)
電話:0144-58-2505 または 080-2872-2709


別紙資料1

今回の調査で確認された希少鳥類

絶滅危惧ⅠB類

シマクイナ(ツル目クイナ科 全長13cm)

シマクイナ

  • 主に湿地や水田を利用し、繁殖期にはシベリア南東部やモンゴルで確認され、国内では勇払原野や青森県仏沼など北海道と青森県の限られた場所で少数の観察記録がある。冬季には青森以南でも少数が確認されている。越冬地となるヨシ原が全国的に減少していることから、絶滅危惧種に登録されている。
  • アジア周辺には1万羽未満しか生息しないと考えられているが、詳しい生息状況はわかっていない。
  • 弁天沼周辺の一部地域では、2012年にはじめて確認されて以来、毎年繁殖期に4~9羽を確認している。


アカモズ(スズメ目モズ科 全長20cm)

アカモズ

  • 夏鳥として九州~北海道の原野、灌木のある草原、河川敷等で繁殖し、東南アジア等で越冬する。
  • もともと生息が局所的で個体数が少ないうえに近年減少し、2006年の環境省第3次レッドリストで、準絶滅危惧から絶滅危惧ⅠB類に2つランクが上がった。
  • 近縁種のモズより自然度の高い場所に生育するため、生息地や個体数が少ない。
  • ウトナイ湖周辺では2004年以降確認できなくなったが、弁天沼周辺の調査区域では毎年2~4つがいを確認している。


チュウヒ(タカ目タカ科 全長:オス48cm、メス58cm)

チュウヒ

  • 主に、北日本の草原、湖沼や河川敷周辺の湿原のヨシ原などで繁殖し、本州中部以南で越冬する。国内繁殖数は90つがいのみと推定され、著しく少ない状況にある。
  • 平成29年に「国内希少野生動植物種」に指定され、種の保存法の法令に基づき保護される対象種となった。
  • 当地域内では2000年代以降6つがい前後が繁殖していると推定され、日本の重要な繁殖地のひとつと考えられる。


サンカノゴイ(ペリカン目サギ科 全長:70cm)

サンカノゴイ

  • 湿地や湖沼のヨシ原に生息し、繁殖は北海道、茨城県、千葉県など局所的に確認されている。
  • 各地で本種の生息地である広大なヨシ原などが消失し、個体数の減少が懸念されているが、具体的な現況は不明。
  • 勇払原野では、かつてウトナイ湖周辺でも繁殖が知られいたが、近年では記録が無く、減少していると考えられる。


絶滅危惧Ⅱ類

タンチョウ(ツル目ツル科 全長:140cm)

タンチョウ

  • 主に北海道東部の湿原で繁殖し、冬は鶴居村などの給餌場に集まる。
  • 一時は絶滅したと考えられ、1924年の再発見以来、地元の方々の保護活動が奏功し、現在は約1800羽まで回復している。
  • 平成5年に「国内希少野生動植物種」に指定され、保護増殖事業が進められている。
  • 個体数の回復に伴い、近年はサロベツ原野やむかわ町周辺で繁殖するなど、分布域も拡大しつつある。近い将来、苫東地域で繁殖する可能性が高く、同地域は北海道西部における個体数や分布域回復の基盤となる可能性がある。


オジロワシ(タカ目タカ科 全長:オス84cm、メス94cm)

オジロワシ

  • 北海道の北部や東部などで少数が繁殖するが、多くは冬鳥としてユーラシア大陸東部より渡来し、海岸、河口、湖沼に生息する。
  • 平成5年に「国内希少野生動植物種」に指定されている。
  • 近年、苫小牧地方でも周年観察されるようになり、勇払原野で繁殖が確認されている。


準絶滅危惧

マキノセンニュウ(スズメ目センニュウ科 全長12cm)

マキノセンニュウ

  • 夏鳥として北海道の海岸草原、湿原、牧草地で繁殖する。越冬地は東南アジア。
  • 2012年8月の環境省第4次レッドリストで新たに掲載された。
  • 繁殖環境である低茎湿生草原が減少する中、苫東地域は道内でも特筆すべき生息密度であると推察される。


オオジシギ(チドリ目シギ科 全長31cm)

オオジシギ

  • 北海道の草原では夏鳥として普通に繁殖するが、国内でも世界的にも分布が局所的で個体数が少ない。越冬地はオーストラリア。
  • 繁殖期における勇払原野での個体数調査では、2000年には108個体が確認されたが、2017年の調査では77個体となり、約3割数が減少していた。
  • 弁天沼では2001年8月に合計400羽以上が確認されており、秋の渡りの前に集結し、栄養補給をする場所として知られている。


写真提供

シマクイナ
宮 彰男 氏
チュウヒ・オジロワシ
新谷 幸嗣 氏
サンカノゴイ
先崎 理之 氏
タンチョウ・マキノセンニュウ・オオジシギ
ウトナイ湖サンクチュアリ

注)写真の無断転載は固くお断りします。使用については、必ずご相談ください。なお、画像はデジタルデータで提供が可能です。

参考

  • 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)
  • 環境省レッドリスト(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)カテゴリー(ランク)の概要 ※環境省HP より
    • 絶滅危惧ⅠB 類(EN):近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
    • 絶滅危惧Ⅱ類(VU):絶滅の危険が増大している種
    • 準絶滅危惧(NT):現時点での絶滅の危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
  • 日本鳥類目録 改訂第7版

別紙資料2

日本野鳥の会の苫東地域での自然環境保全活動

勇払原野は北海道三大原野のひとつとして、釧路湿原、サロベツ原野と並び数えられています。原野を構成する湿原の面積は、過去90年で約8分の1に著しく減少しているものの、残された自然環境は、ラムサール条約湿地であるウトナイ湖を含み、水鳥、草原性鳥類、絶滅のおそれのある鳥類の生息地として重要な役割を果たしています。

一方、同所では1960年代の高度成長期に、第三次全国総合開発計画の一環として苫小牧東部開発計画がスタートしました。しかし、その後の社会情勢の変化により、当初計画の約1万700haの土地の多くが未利用地域として残され、また農地として開拓された場所が放置され原野化し、結果として鳥類の良好な生息地となっています。

当会はこの優れた鳥類の生息環境を将来にわたって維持していくために、2000年度から当該地域において鳥類調査を実施し、その生息状況から生息環境としての特徴を把握し、社会環境を考察して保全構想をまとめ、2006年に「ウトナイ湖・勇払原野保全構想報告書」を発行しました。

以来、希少種の調査や弁天沼周辺での自然観察会を通じ、同所一帯の保全活動を行っています。近年の主な活動は以下の通りです。

2006年
・苫東地域におけるアカモズ生息状況調査を実施し、同地域がアカモズの国内有数の繁殖地である可能性が明らかになった。
・弁天沼周辺のブロッコリー畑等の土地利用の変化が鳥類相に与える影響調査を実施し、同所における耕作地化は、草原性鳥類の繁殖を阻害し個体数を減少させるだけでなく、一帯の鳥類相をも変化させてしまう可能性があることが明らかになった。
2006年~
弁天沼周辺での自然観察会を毎年実施。
2007年~
苫東地域におけるシマアオジの生息状況調査を毎年実施し、道内各地の生息記録が途絶える中、同地域には継続して渡来していたことが明らかになった。しかし、2012年の1羽を最後に、それ以降確認されていない。
2009年
勇払原野で衛星電波発信機によるチュウヒの行動圏追跡調査を実施し、同種の繁殖期の行動範囲や生息に重要な環境が明らかになった。
2012年
日本野鳥の会3支部との連名で、北海道知事宛てに「苫小牧東部開発地域内の鳥獣保護区指定に関する要望書」を提出。 繁殖期における希少鳥類の生息状況調査を毎年実施。結果を記者発表。
2014年
弁天沼周辺約950ヘクタールが河道内調整地となることが決定。
2016年
弁天沼で行った調査でオオジシギの渡りルートの一部を解明。
2017年
勇払原野でオオジシギの個体数調査を実施。2000年と比較し、個体数が約3割減少していた。減少している場所は多くが樹林化しており、草地を維持していく必要があることが分かった

この他、「安平川下流域の土地利用に関する連絡協議会」(北海道主催。2008年5月設置)委員として、安平川下流域の治水対策としての河道内調整地(遊水地)計画に対し、希少鳥類の生息環境保全の観点から意見を述べています。

以上

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