中国青海省での2006年発生情報

2006年5月15日発表

(財)日本野鳥の会 主任研究員 金井裕

昨年ヨーロッパ・アフリカへ拡大し、今も震撼させている鳥インフルエンザ発生の端緒となった中国青海湖で、今年も鳥インフルエンザ感染が報告されています。まだ大きなニュースになっていませんが、昨年とは違い、青海湖より南でも発生しているようですので、注意が必要です。得られている情報は限られていますが、現時点での感染情報と感染経路についての情報と所見をお知らせします。
中国国内からの情報は非常に限られていますので、ここでお伝えすることが感染状況の全容を表してるかどうかは不明です。またこの限られた情報に基づく所見ですので、不確かな部分があることも予めご了解の上、お読みください。

感染情報

インターネットのニュースサイトなどで、下記の感染情報が報じられている。いずれも中国農業部(日本の農林水産省に当たる)からの情報とされるもので、これまでのところ家禽類への感染は確認されてないとされている。

2006年4月23日
青海省剛察県 青海湖鳥島保護区 インドガン1羽死亡
発見時の状況など不明
同日
同省玉樹県の湿地 インドガン123羽死亡 放牧民が発見
玉樹県はチベット自治区のラサと青海湖のほぼ中間にあたる

青海省での感染状況

青海省では2005年5月、青海湖でインドガンを含む野鳥など1,000羽以上が鳥インフルエンザで死亡したとの報告がある。この時も、家禽類への感染は確認されてないとされている。

インドガンについて

越冬地
チベット南部からインド北部
繁殖地
チベット高原(チベット自治区・青海省)
渡り
当会も協力した、インド・ケオラディオ保護区からの衛星追跡結果(2000年)では
3月23日インド・ケオラディオ保護区発
3月25日チベット・パルヤン近傍(中継地)
4月3日チベット・タロソ湖(繁殖地)
(ケオラディオ保護区:デリーの南東約200kmに位置する)
全般
インド(越冬地)を3月下旬から4月上旬に出発
チベット南部へ4月上旬から4月中旬に到着
(チベット南部は越冬地・中継地・高地は繁殖地でもある)
チベット北部・青海省(繁殖地)には4月中旬から4月下旬に到着
鳥インフルエンザの感受性
これまでの死亡数の報告から感受性は高く、致死性も高いと思われる

越冬地・渡りルート上での発生状況

越冬地
インドでは、西部で家禽での発生が確認されている。
インドガンを含む野鳥での発生は確認されていない。
中継地
中国チベット自治区ラサでは、2004年2月および2005年8月に家禽で鳥インフルエンザ発生があったとの報告がある。

総合所見

インドガンは、鳥インフルエンザへの感受性、致死性ともに高いと考えられるため、生息密度が高く、生息地周囲に人口も多い越冬地域で感染が起こっていれば容易に感染が発見されると考えられる。インドでの鳥インフルエンザ発生は西部で、インドガンほか野鳥感染は見られない。したがって、越冬地で感染が起こったとは考えにくい。
今回の中国青海省での発生は、剛察県、玉樹県ともに4月23日に死体が発見され、玉樹県の方が発見数が多い。これは、越冬地もしくは中継地から青海湖へ向かう同時に移動した群れで感染が起こり、大部分は渡り途中で発症し、一部が青海湖まで渡ってから発症したと解釈できる。
感染後発症までの潜伏期間を1週間から10日とすると、感染時期は4月上旬となる。人工衛星による追跡結果からすると、この時期はチベット南部の中継地に滞在している期間と重なる。青海湖と玉樹県の延長線上には、鳥インフルエンザ発生歴があるラサが位置する。
これらの情報をあわせると、渡り移動途中の群れがラサ周辺の何らかの感染源に触れて感染し、移動中に発症したと考えるのが合理的である。
感染源としては、放し飼いの感染していても発症していないアヒル・ガチョウの糞との接触、畑に撒かれたウイルスを含んだ鶏糞肥料との接触など考えられる。チベットから青海省ではインドガンの人工養殖も各地で行なわれている。
これらのインドガンに不十分なワクチン接種があった場合、感染していても発症していない個体が存在する可能性がある。また、場所によっては野外で冬季に凍結保存されていたウイルスもあるかもしれない。
これは一つの仮説でしかありません。しかし、安易に、野生のインドガンにウイルスが定着していると決め付けるべきではないことは、わかってもらえるたらうれしいです。