第7回 脱プラスチック、どう進める?

マンガ「仕組みを作って、みんなで取り組もう!」

2020年7月から、全国でレジ袋有料化が実施されました。この制度では、プラスチックのフイルム厚が50マイクロメートル以上のものや、海洋生分解性プラスチック配合率100%のもの、バイオマス素材の配合率25%以上のプラスチック製買い物袋や、紙袋などは有料化の対象外でした。今回は、それよりさらに一歩進み、プラスチック製レジ袋の提供禁止と、紙袋の有料化に踏み切った京都府亀岡市の事例について紹介します。

文・原田禎夫(大阪商業大学公共学部准教授/特定非営利活動法人プロジェクト保津川代表理事)

PROFILE

原田禎夫

原田禎夫(はらだ・さだお)

1975年、京都府亀岡市生まれ。亀岡市などと共に「川と海つながり共創プロジェクト」を立ち上げ、「こども海ごみ探偵団」を結成して、川ごみや海ごみの現地調査も行なっている。

特定非営利活動法人プロジェクト保津川
京都府亀岡市内を流れる保津川(桂川)の環境保全を目的に、2007年に設立。以来、毎月開催している清掃活動は2021年2月で136回目を迎えた。ほかにも、学校と連携した環境教育や、地域住民とともに河川ごみの調査活動にも取り組む。また、1000年以上の歴史がありながら、半世紀前に途絶えた保津川の伝統的な筏流しの復活や海産天然遡上鮎の復活など、川の文化の伝承と再生にも取り組んでいる。


日本初、レジ袋提供禁止条例施行

2021年1月1日、日本で初めてとなるプラスチック製レジ袋(以下、レジ袋)提供禁止条例が、私の住む京都府亀岡市で施行されました。昨年7月1日より、全国でレジ袋有料化が始まりましたが、亀岡市の条例ではレジ袋の提供を禁止するだけではなく、国が無料配布を認めているバイオマスプラスチック25%以上配合のものも提供できず、紙袋でも有料が義務となります。また、生分解性プラスチック製のものについても、原則として提供が禁止されています。条例に違反し、市による立入調査や勧告などを経ても改善されなければ、6月以降は事業者名公表の手続きも始まりますが、市議会での議論を経て、施行後2か月の間はスタートアップ期間として、個人商店などの相談にも柔軟に対応することとなりました。

この条例の制定の背景には、亀岡市内を流れる保津川(桂川)のごみ問題があります。保津川は、保津川下りや嵯峨野トロッコ列車など年間150万人を超える観光客が訪れる、私たちの地域にとっては大切な観光資源でもあります。その保津川でも1990年代半ば以降、急激にプラスチックごみが増えました。保津川下りの船頭さんたちが始めた清掃活動はやがて町を挙げた取り組みになり、2018年12月には、「2030年までの使い捨てプラスチックごみゼロ」をめざす「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」が発表されました。今回の条例は、その一環として制定されたものです。

保津峡に流れ着いた大量のプラスチックごみ

保津峡に流れ着いた大量のプラスチックごみ。険しい岩場での清掃活動は大きな危険を伴う

亀岡市のレジ袋禁止条例案のポイント

  • 全ての事業者は、事業所においてプラスチック製のレジ袋を提供してはいけない。
  • 土壌環境及び水環境において生分解可能な紙やバイオマスプラスチック製の袋も、無償で提供してはいけない。
  • 市は、レジ袋禁止に関する市民及び事業者への啓発を行なうとともに、レジ袋禁止による効果を検証するために必要な調査を行なう。
  • 市は事業者に対する指導や助言、立入調査、違反者に対する是正勧告、従わない場合の店名公表ができる。
  • 市、市民及び事業者は、レジ袋禁止について互いに協力する。


大手企業から個人商店までいろいろなアイデアが形に

条例の施行に至るまでは、賛否両論、さまざまな意見もありましたが、議論が深まるにつれて、大手チェーンから個人商店まで、プラごみを減らすために興味深い取り組みが進められてきました。

たとえば、日本マクドナルドには、レジ袋に代えて有料で提供する紙袋を用意していただきました。これは全国2900店舗でも初めての取り組みです。くら寿司には、寿司おけを包む風呂敷を紙製の組み立て式持ち手に切り替えていただきました。ダイソーには、市内3店舗で紙袋も配布せず、マイバッグへの転換を呼びかけていただいています。はるやまやジョーシンは、国の有料化にあわせて石灰石とプラスチックからできたレジ袋に転換していましたが、亀岡市の条例ではこれも禁止となるため、配布を取りやめていただきました。

スーパー各社は、2019年8月からレジ袋有料化を先行して行なってきたこともあり、すでにマイバッグ持参率は90%近くに達していました。今回の条例施行に際しては、有料の紙袋に切り替えるだけではなく、大型商品を包むプラスチック製風呂敷も条例の趣旨を尊重して無償配布を取りやめていただきました。また、スーパーやホームセンターでは、商品の梱包に使われていた段ボールが無料提供され、たくさんの商品を持ち帰る時に利用されています。レジ袋の提供禁止にもっとも難色を示していたコンビニ各店でも、紙袋のみの提供となり、特に混乱は起きていません。

個人商店の取り組みも、興味深い事例がたくさんあります。たとえば、いくつかの洋菓子店では、早くからレジ袋の提供を取りやめ、ケーキを入れる紙箱も持ち手付きのものに戻されました。今では、タッパーなどの容器を持参されるお客さんも少なくありません。カフェや弁当販売店、キッチンカーでは、レジ袋の廃止だけではなく、紙製のテイクアウト容器も積極的に導入されています。

さらに、イベントでのリユース食器のレンタル事業も始まりました。昨年、亀岡駅前に完成したサンガスタジアムでのJリーグ京都サンガFCのホームゲームでは、リユース食器を全面導入したECOマルシェが開催され、人気を博しています。

亀岡市内のマクドナルド店内

亀岡市内のマクドナルド3店では、有料手提げ袋を用意。ドライブスルーももちろん同じ

くら寿司持ち帰り用持ち手

くら寿司は寿司おけの持ち帰り用に、紙製の組み立て式持ち手を用意

共同購入紙袋

お店やアーティストのみなさんとともにデザインした「共同購入紙袋」。繰り返し使える丈夫な作りにして、亀岡らしいメッセージをプリントした

個人の努力だけではなく社会の「仕組みづくり」を

プラスチック汚染は私たちの想像をはるかに超えるところまでおよびつつあります。最近では、「私たちは一週間に5gのプラスチックを摂取している」「妊婦の胎盤からマイクロプラスチックが見つかった」という研究結果も明らかになっています。もちろん、今すぐ私たちの健康に影響があるわけではありませんが、このまま汚染が進むと、どこかで臨界点を超えてしまい、取り返しのつかないことになるかもしれません。その臨界点がどこにあるのか「わからない」ことこそが、プラスチック汚染の真のリスクといえます。

たとえば、確率的にどんなことが起こるのかがわかれば、保険などの経済的な手段も含めて、何らかの対策を立てられるでしょう。そもそも微小なマイクロプラスチックに含まれる有害物質はごく微量ですが、それを長期にわたって摂取し続けることで、私たち人間も含めた生態系が蝕(むしば)まれてしまう「時限爆弾」のようなものです。

人の健康や環境に重大かつ不可逆的な影響をおよぼす恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されていなくても規制措置をすべきとする制度や考え方のことを「予防原則」といいます。プラスチック汚染については、まだまだわからないこともたくさんあります。しかし、1992年の国連環境開発会議「リオ宣言」では、「深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きい対策を延期する理由として使われてはならない」とし、科学的なデータの不備をもって対策を遅らせることがないよう要請しています。

亀岡市での条例制定にあたっても、プラスチック汚染が未解明なことが多いことを理由にした批判もありました。また、全国チェーンの企業からは亀岡市内だけ独自の対応をすることはできない、という意見もありました。そうした意見を無視するわけにはいきませんが、だからといって個人のモラルだけに任せたり、事業者の自主的な取り組みに委ねるだけではいつまで経っても問題の解決はできないでしょう。「条例」という社会のルールを作ったことで、市民にも企業にもより一層の取り組みを促したといえます。無関心な人や、あまり協力的ではない事業者も巻き込み、正直者がバカを見ないようにするためにも、法律や条例による社会の「仕組みづくり」は欠かせません。

会誌『野鳥』2021年3・4月号(No.851)より(会誌『野鳥』の詳細はこちら


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