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気軽に始める自然観察「トコロジスト」で生物多様性を支える

2026年10月14日(水)に、神奈川県にある大和市自然観察センター・しらかしのいえで「トコロジスト養成講座」が開催されました。この講座は、自分の住む町やよく行く公園の自然環境、歴史など、その場所の専門家「トコロジスト」として活動する方法を学ぶ講座です。第一回目の〈概要編〉では、当会普及室・箱田敦只が、トコロジストの視点のもち方を中心に「トコロジストとしての歩き方」を解説しました。
「鳥や虫、植物のことをもっと知りたい」「身近な自然を守るために何かしてみたい」「フィールドワークを気軽に楽しみたい」。そんな方は、自分の興味のあることから始められる「トコロジスト」を、ぜひやってみてください。一人でも、仲間とでも、お子さんと一緒にも始められます。
今回は、生物多様性にもつながるトコロジストの活動を「大和市トコロジスト養成講座」の様子とともに紹介します。
場所への愛着が「守りたい」気持ちを育む
トコロジストを始める際に、まずは自分のフィールドを決めます。マイフィールドを持つことで、その場所とのつながりや地域との関わりができていきます。フィールドの場所に決まりはありませんが、近所の川や公園、普段歩いている散歩コース、通勤ルートなど、自宅から行きやすい場所がおすすめです。
何度も通っていくうちに細かいことも目に付くようになり、その場所に対する愛着が生まれます。その愛着というのが「守りたい」という原動力になっていきます。
トコロジストの視点で見えてくるもの
1.子どもの視点、大人の視点、鳥や虫、植物の視点
同じ森を見ていても、子どもと大人では見えているものが違います。大人は経験や知識をもとに風景を理解できますが、子どもは目の前のものをありのままに見ています。さらに視野を広げて、「この場所を鳥はどう見ているのだろう?」「昆虫や植物からはどう見えるのだろう?」と考えてみると、生きものがそれぞれ異なる形でひとつの場所を利用していることが見えてきます。そして、生きもの同士の「食べる・食べられる」といったつながりにも気づくことができます。
また、川などテーマを決めて歩いたり、古地図と見比べながら地域の歴史をたどったりするのも、「場所」を見るおもしろさの一つです。同じ場所でも、視点を変えることで新しい発見が生まれます。今回、参加された方からは、「昔の地形と比べるのはすごくおもしろそうなので、実践してみたいと思う」といった感想もありました。
同じ場所を古地図と現在の地図で見比べるのはタイムスリップしたような楽しさがある
2.風景の中に生きものが見えてくる
講師・箱田の体験も交えた解説では、1枚の公園の写真を見ながら、「最初は、『眺めのいい場所だな』という感覚だけだったのが、散歩を続けていくうちに小さな発見がたくさん蓄積されていきます」と話します。

続けて、「例えば、この公園ではヤゴやトンボが見られました。池のそばの木で生まれた幼虫が、ポトンと池に落ちて羽化し、成虫(トンボ)になって飛んでいきます。3月頃にはカエルが卵を生みにくるし、10月頃にはハラビロカマキリが水の中に入ってきて、ハリガネムシという虫をおしりから出しています。他にも草原にはバッタがすんでいて、バッタを食べるために鳥がやってくる。季節ごとに色々な生きものを見た記録を写真に書き出していくと、写真が文字だらけになっていき、たくさんの生きものがくらしていることが見えてきますね」と話しながら、次々と生きものの名前が写真に表示され、あっという間に画面は生きものの名前でいっぱいになりました。
3.生きものと人との「せめぎあい」が見えてくる
敷地内には様々な環境がある
さて、じっくり「場所」を見ていくと、目の前の風景が単なる景色ではなく、生きものたちのくらしの場として見えてくるようになります。すると、今度は人と生きものの間で起きている「せめぎあい」にも気づけるようになります。
例えば、公園の草刈り。人にとってはお弁当を食べたり、歩きやすかったりと利用しやすくなりますが、生きものにとっては大切なすみかが失われることがあります。草地や藪、砂礫地なども、経済的な価値が見えにくいため、開発や整備によって減っていますが、これも多くの生きものにとって欠かせない環境です。
また、河川敷でも同じことが起きています。私たちの安全な暮らしのために、洪水対策などの整備は必要ですが、一方で生きものの生息場所が失われることもあります。
場所を見る力が身につくと、このような出来事が私たちの身近なところで日々起きていることに気づけるようになります。そのとき、「仕方がない」と受け入れるのも一つの選択です。しかし、行政に生きものの利用状況を伝えたり、草刈りの方法や時期を少し工夫してもらえないか相談したりすることもできます。
トコロジストは、まさに後者の選択につながる活動です。生きもののくらしを知り、記録し、伝えることで、人と自然がよりよい形で共存できる方法を考えていく。その第一歩が、身近な場所を観察し、「ここで生きものたちがどうくらしているのか」を見つめることなのです。
自然の中だけでなく、街中でのせめぎ合いもあります。例えば「ツバメの巣」は分かりやすい例だと思います。ツバメの巣は巣の下にフンが落ちるため、不衛生という理由で人の手によって落とされるケースも増えていますが、反対にツバメの巣を残して見守っている施設もあります。日本野鳥の会では、このようにツバメの子育てを見守っている企業やお店、学校を、全国の支部と協力して応援する活動を行っています。日本野鳥の会の支部での活動も「トコロジスト」の一部とも言えるでしょう。
景色が変わる!生きもの地図をつくってみよう
トコロジストには地図が必須アイテムです。地図を使うと、自分が歩いている土地の広さや住宅地、川、近隣の緑地など周辺環境を俯瞰してみることができます。歩く人の目線と違う目線で見るということも重要です。
さて、地図を手にしたらまずやってみてほしいのが「土地利用図」を作ってみる事です。今回のワークショップでも土地利用地図をつくってみました。地図に記されている針葉樹林、広葉樹林、畑、荒れ地などの地図記号ごとに色を塗り分け、環境を可視化していきます。
黙々と色塗りをする参加者
午後は、地図を片手にフィールドへ出て実際の地形や植生を地図と照らし合わせながら歩きます。写真では通路を挟んで左側に針葉樹が中心の林が広がり、右側に広葉樹が広がっています。針葉樹と広葉樹では林の中の明るさが違うことが分かります。

講師/箱田敦只
生物多様性とトコロジスト
今、世界的に注目を浴びている「生物多様性」。皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか。ひとつの風景の中に様々な生きものが見えてくるのは、何度も通っている人だからこそ見えてくるものです。ずっと同じ場所を見ている人が少ない中では、生物多様は分かりづらく、言葉だけでは実感しにくいものだと思います。
しかし、トコロジストのように、自分のフィールドを持つということは生物多様性を見る練習にもつながります。「トコロジスト」は生物だけではなく、ひとつの場所を多角的に見ていく活動です。「この場所はこういう場所だよ」ということを伝える人がいるというのは、生物多様性にとってとても重要な要素です。
大和市では毎年、トコロジスト養成講座を開催しています。大和市の中で小さな緑地も含めて「場所」を見続けている人たちがたくさんいるということ。これは大和市の生物多様性を考える貴重な人材であり、財産でもあると思います。
視点を変えると見えてくる世界
今回は概要編として、その場所をよく知る「トコロジスト」のはじめ方について学びました。長く暮らしている町でも、視点を少し変えるだけで見える風景は大きく変わります。鳥や虫の声、植物の変化から季節や環境の移り変わりを感じ、人だけでなく生きものたちの視点で世界を見てみる。そんな楽しさを、一緒に体験してみませんか。
次回は、実際に本講座の卒業生がトコロジストとして活動している大和市内の緑地で観察を体験し、最終回では「生きもの地図」を作ります。
関連情報
講師紹介

箱田敦只(はこだ・あつし)
1990年に日本野鳥の会に就職し、姫路市自然観察の森に赴任。1992年、横浜市自然観察の森のレンジャーとして主にボランティア育成に携わる。1996年、東京港野鳥公園レンジャーを経て、1997年に日本野鳥の会事務局において、自然保護活動に関わる人材育成担当になり、レンジャー養成講座等の事業を立ち上げるほか、自然観察施設の職員やボランティアを対象とした研修・コンサルタントを担当。現在、日本野鳥の会 普及室室長代理。
執筆
- 日本野鳥の会ブックレット『トコロジストになろう! 実技編』・『トコロジストになろう! 体験編』(2013年、日本野鳥の会)
- 『トコロジスト~自然観察からはじまる「場所の専門家」』(2014年、日本野鳥の会)
- 『地域生態専門家 トコロジストの物語』(韓国語)、翻訳:金美羅(2016年、イサンブックス)








