[オオジシギ保護調査プロジェクト] オオジシギの渡りルートの一部が解明

文=竹前朝子 保全プロジェクト推進室

オオジシギの現状を知るために

オオジシギの渡りルートの一部が解明

①オオジシギは、日本で確認されているタシギの仲間の中で、唯一日本で繁殖する種。繁殖地では、電柱や杭の先などにとまり、大きな声で鳴く姿が見られる。
(撮影:髙﨑成人)
②勇払原野の湿原でオオジシギ捕獲の準備をする。勇払原野は工業地帯にありながら、台地、湿地、海跡湖、砂丘など多様な環境が凝縮された豊かな自然を持つ。
③この個体がはるかニューギニアまで追跡できた「73」。送信機は約5gで、体重の4%以下におさまるように、一定の体重以上の成鳥に装着した。

春の草原で轟音(ごうおん)を立て求愛飛行する姿が特徴的なオオジシギは、別名「雷シギ」とも呼ばれる渡り鳥です。4~6月にかけて北海道とサハリン南部を中心に、一部が本州、九州などで繁殖し、その後、オーストラリア東部に渡り、越冬します。環境省のレッドリストでは、準絶滅危惧種(NT)に指定されています。
北海道苫小牧市にある勇払(ゆうふつ)原野は、オオジシギの重要な生息地の一つです。日本野鳥の会では、2000年から勇払原野の保全に取り組んでおり、その一環として、2016年春、オオジシギの調査と保護を目的としたプロジェクトを開始しました。
オオジシギは個体数の減少が心配されるものの、調査データが少なく、近年の生息数も不明です。また、渡りの途中のオオジシギは、本州やフィリピンなどでわずかな目撃例があるだけで、大きな中継地などは見つかっておらず、渡りのルートについては、本州沿いに渡るコース、太平洋を真っ直ぐ飛ぶコースなど、さまざまな説がありました。
この鳥の具体的な保全策を立てるには、生息地や渡りの中継地の現状を知る必要があります。そこで本プロジェクトでは、まず渡りルートの調査に着手しました。

7日間ノンストップで太平洋上を飛行

オオジシギの渡りルートの一部が解明

図①「73」の移動軌跡。本州やフィリピンなど陸地が続く方面に向かわず、洋上の最短距離をほぼ真っ直ぐに7日間で南下した。
図②渡りの開始を確認できた4羽の軌跡。どの個体もまっすぐ太平洋へと飛び出していった。また「75」は勇払原野から北上し石狩平野へ、「74」は東の十勝平野へと移動し、そこでしばらく滞在してから渡りを開始したことがわかった。

2016年7月、勇払原野で繁殖を終えて渡りを始める前のオオジシギを捕獲し、5羽に衛星追跡用の送信機を装着しました。送信機から送られるデータは人工衛星を介し、数キロの誤差でその位置がわかります。7月12日に送信機をつけた個体「73」は、しばらく勇払原野周辺を行動範囲としていました。しかし、約2か月経った9月11日、伊豆諸島・鳥島の東840㎞の外洋上で、渡りを開始した後の最初の電波が確認されました。速度から推定して9月8日に苫小牧を出たと考えられました。
その後、この「73」は1日に900㎞近くを飛び続け、13日にはグアム島の西を過ぎ、15日に赤道を越え、16日にニューギニア島北岸へ到着しました。東経140度から149度の間をまっすぐ南下、7日かけて約6000㎞を平均時速38㎞/hで飛んだのです。その間、一度も陸地には降りませんでした。
残念ながら、その後電波が途絶え、越冬地までの全ルートは確認できませんでした。しかし、今まで仮説はあったものの、実証されていなかった北海道から太平洋ノンストップという渡りルートが、世界で初めて証明されました。
本プロジェクトは5年の計画で進めており、次年度は勇払原野で繁殖個体数の調査を行なう予定です。活動の様子はフェイスブック(日本野鳥の会 オオジシギ で検索)でも紹介しています。


◎このプロジェクトは、故・越崎清司様からのご遺贈を元に実施されています。