海洋プラスチックゴミから海鳥を守ろう

文=山本裕(自然保護室)

親鳥からライターやフォーク、ペットボトルのキャップなどを給餌され、死んだコアホウドリのヒナの写真
親鳥からライターやフォーク、ペットボトルのキャップなどを給餌され、死んだコアホウドリのヒナ(撮影:浅井愼平)

私たちの暮らしのなかで、レジ袋やペットボトル、そして、加工された数々のプラスチック製品が大量に消費されています。これらのプラスチックのうち、ゴミとして廃棄されたものが河川などから海に入り、海鳥やウミガメ、クジラなど多くの海洋生物に影響を与えています。
石油を原料として作られるプラスチックの生産量は、1950年代以降全世界で増え続け、2015年には4億トンを超えています。海に流入したプラスチックの量は累積で1億5千万トンにもなり、今も年間800万トンが流入し続けており、2050年には海洋中のプラスチック重量が、魚の全重量を上回るという予測もあります。

海洋プラスチックゴミは世界的な問題

沖縄県西表島の海岸で採取したプラスチック片の写真
沖縄県西表島の海岸で採取したプラスチック片。波や紫外線で細片化され、魚などに取り込まれやすくなる(写真提供:高田秀重)

プラスチックゴミによる海洋汚染はとても深刻で、えさと間違えて食べることなどにより、毎年100万羽の海鳥、10万匹の海棲哺乳(かいせいほにゅう)類、ウミガメ、無数の魚が死んでいるとされています。さらに、プラスチックに含まれる難燃剤、劣化防止剤などの化学物質や、波や太陽光により砕けて小さくなったマイクロプラスチック(※)の表面に吸着したPCB(ポリ塩化ビフェニル)などの有害化学物質が、海中のプランクトン、魚介類に蓄積し、食物連鎖を通じて人間の体内にも入り、私たちの食の安全と健康を脅かしています。
そのため海洋プラスチックゴミの問題は、2019年6月に大阪で開かれるG20サミット首脳会議でも主要な議題の一つとなり、世界的な課題として各国政府や産業界がその対策に取り組んでいます。
一方で、2018年にカナダで開催されたG7では具体的な対策を促す「海洋プラスチック憲章」に、日本とアメリカは批准しなかったという経緯もあります。

97種の海鳥の体内からプラスチックが

コアホウドリの親子の写真
コアホウドリの親子(撮影:浅井愼平)

大海原での生活に適応し、一生の大半を海で過ごす海鳥では、特に対策を急ぐ必要があります。海鳥は全世界で約350種いますが、このうち海面で採餌したり、消化を促進するために小石など固いものを飲み込んだりする種ではプラスチックの誤飲・誤食があり、これまでに少なくとも97種の体内からプラスチックが見つかっています。
海鳥は、漁業による混獲や繁殖地での外来生物による捕食などにより、現在、全世界で大きく個体数を減らしており、約3分の1の種類が絶滅の危機に瀕ひんしています。とりわけ、主に海水面に浮かぶイカや海藻につく魚卵などを食べるアホウドリの仲間では、22種のうち15種が国際自然保護連合のレッドリストに挙がっており、保護対策が急務となっています。
太平洋のミッドウェイ島は、海流の関係から大量の漂着ゴミが集まることで知られます。ここで繁殖するコアホウドリでは、親鳥がえさと間違えてヒナにプラスチックのゴミを与え、ヒナは疑似的な満腹感を起こし栄養不良になり、育たなくなるケースが1970年代から報告されています。また、ベーリング海では、海水面で採餌するミズナギドリの仲間のハシボソミズナギドリで、脂肪にPCBなどの有害化学物質の蓄積が確認され、胃の中のプラスチック量が多いほど脂肪中のPCB濃度が高いことが明らかになっており、影響が懸念されています。

まずは使い捨ての消費習慣を見直すことから

人間活動によって生じる自然への影響を減らし、海鳥を守るために、各人がふだんの暮らしの中で、ペットボトルなどの使い捨てプラスチックの使用量を減らすことや、自然界にプラスチックを流出させないことがまず必要です。また、より効率的なリサイクルに回すことなど、社会から石油由来のプラスチックを減らすためには、政府や産業界に働きかけて、社会システム自体を変えていく必要があります。当会は今後、この海洋プラスチック問題に積極的に関わっていきます。

※マイクロプラスチック
海洋中のプラスチックゴミが紫外線や波で劣化して直径5ミリ以下の微小な粒になったもの