葛西臨海公園の保全が決定

オリンピック競技場建設計画が変更に

文=葉山政治 自然保護室

葛西臨海公園にくらす生き物たち

①ヒヨドリ ②カンムリカイツブリ ③キレンジャク ④シロスジカミキリ ⑤カナヘビとナナホシテントウ
⑥東渚のカニ ⑦2014年7月、東渚で講師を招いての自然観察会 ⑧2014年8月19日、準備局へ署名を提出
写真提供=①⑥⑦⑧日本野鳥の会東京 ③④⑤鳥類園友の会鈴木弘行・②中島喜久夫

舛添知事が建設計画変更を正式に報告

2014年11 月19 日、東京都議会「オリンピック・パラリンピック推進対策特別委員会」で、舛添要一東京都知事から「葛西臨海公園に整備するカヌースラローム会場については、公園整備の歴史的背景や公園の自然環境に配慮し、公園に隣接する都有地を活用して施設を配置する」との報告がありました。東京都が2020年の東京オリンピック開催にあたり、葛西臨海公園での競技場建設計画の変更を正式に公表した場面でした。
2012年、東京都を中心とする招致委員会は招致計画をIOCに提出、葛西臨海公園での競技場建設を公表しました。これに対して日本野鳥の会東京と(公財)日本野鳥の会では、同年8月に「都市において稀有な生物多様性を持ち、人と自然がふれあうことのできる貴重な場」として、都知事に計画変更を求める要望書を提出。以来10 回の招致委員会との話し合い、IOCへの書簡の提出などを行なってきました。

皆さまのご支援を受け、活動が実る

当初、招致委員会側は公式見解を繰り返すばかりでしたが、開催決定後に状況が変わってきました。マスコミからの取材が増え、これを追い風にと署名活動を開始しました。また招致発案者である石原前知事から猪瀬、舛添各氏へと知事交代があり、その間、私たちは選挙の度に立候補者の見解を尋ねる質問状を出し、先の選挙では舛添氏から「情報を精査する」という検討の余地をうかがわせる見解を得ることができました。
そして今回の知事報告では、私たちが訴えてきた「葛西臨海公園は、人と海、生きもの、緑がふれあえる場として整備された経緯がある」ということが受け入れられ、計画変更となりました。私たちの活動を後押ししていただいたのは、12 月までに寄せられた 1万8千360筆に及ぶ署名と、皆さまからの声援です。ご支援、誠にありがとうございました。代替地や他施設においても、環境に負荷をかけない、自然と共存するオリンピックが実現できるよう、今後も計画内容を注視していきます。

葛西臨海公園

鳴き声ノート

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ツルがいる景色を取り戻す

ナベヅル、マナヅルの越冬地づくり

文=伊藤加奈 自然保護室

①ナベヅル、マナヅルは水田で落ち穂や水生生物を食べ、夜は河口の干潟や中洲で寝る。写真は出水市で越冬するナベヅル
②マナヅル。全長約127㎝。写真はつがいの鳴き合い。ツル類は1年中つがいで過ごす
③ナベヅル。全長約100㎝。マナヅル、ナベヅルともに、環境省レッドリストの絶滅危惧種Ⅱ類
写真/茂原晴代

一極集中する越冬地

日本にはタンチョウのほかに、2種のツルが生息しています。冬、ロシアや中国から西日本に渡ってくるナベヅルとマナヅルです。江戸時代には北海道から九州まで広く生息していましたが、明治時代になると、乱獲や生息環境の悪化によりその数は減少しました。この危機に山口県周南市や鹿児島県出いずみ水市で保護活動が始まり、現在はナベヅル約1万羽、マナヅル約3千羽が国内で生息しています。
しかし、一方で新たな問題が生じています。保護区を設置し、給餌や田んぼの水はりによるねぐらの創出を行なっている出水市に、現在、世界の約90 %のナベヅル、約50 %のマナヅルが集中し、越冬しています。約800 ha の干拓地に1万羽以上のツルが集中することで、農業被害が発生すると共に、感染症の蔓延や突発的な事故が起きた場合、一度に大量のツルが死んでしまう恐れがあります。この問題を解決するためには、出水市以外にも、ツルが越冬できる場所を作ることが必要です。

越冬地創出には、ツルと人の共生が不可欠

当会では1980年代からツルの保全に取り組み、近年は新しいツルの越冬地づくりに取り組んでいます。毎年のナベヅル、マナヅルの全国飛来状況調査を基に、飛来頻度の高い地域を訪問し、自治体や地域住民に越冬地づくりへの協力をお願いしています。
佐賀県伊万里市では、2004年から市と共同で、農道の通行制限やねぐらの創出を行うことにより、現在は毎年数つがいが利用し、北帰行には数百羽が立ち寄る中継地になっています。
越冬地の創出には、地元住民の理解はもちろん、ツルの存在が地域社会にとってメリットになる仕組みづくりが必要です。古来より日本の文化と深くかかわりのあったツルが絶滅しないよう、人とツルの共生の道を探ることが、今求められています。

生物多様性を脅かさない自然エネルギーを

風力発電所計画への当会の取り組み

文=田尻浩伸 保全プロジェクト推進室


①フレシマ地区には、シマフクロウ、オジロワシ、オオワシ、タンチョウが生息。いずれも国内希少野生動物種、天然記念物、絶滅危惧種なに指定されている希少種だ。植物では27種の希少種を含む335種が確認されている

2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、持続可能な自然エネルギーへの転換は、社会的な要請であり、当会でも原発の廃止と自然エネルギーの推進を訴えています。しかし、その自然エネルギーが生物多様性を脅かすものであってはなりません。
特に風力発電所は、立地条件によっては野鳥への影響が懸念される施設であり、さらに風車が立ち並ぶことによる景観の改変、近隣住民への騒音の問題なども懸念されています。
当会では、風力発電所の建設に関する政府の委員会に参加し、国の施策に意見を述べているほか、個別の事業者の建設計画を精査し、環境への配慮が足りない場合には意見書を提出したり、場合によっては現地調査を行ない、計画の見直しを求めています。

  
②クロユリ ③シコタンキンポウゲ ④オジロワシ

  
⑤オオワシ ⑥シマフクロウ ⑦タンチョウ

希少な北海道の原野に起こった建設計画

そうした一例が、2012年に起こった北海道根室市フレシマ地区の海岸地域への風力発電所建設計画です。フレシマ地区は、今では希少となった北海道の原野が残る場所。
海岸には高さ40 mの段丘が続き、海から森に至るなかに小川や池沼や湿原が点在。国指定の天然記念物で絶滅危惧種であるオジロワシ、タンチョウ、シマフクロウが生息し、越冬期には多数のオオワシも採食や休息にやって来ます。
風力発電所の風車に野鳥が衝突する「バードストライク」は、ワシ類では国内で38 例が記録されており(2014年1月29 日現在)、当会では、フレシマでの風力発電所建設がこれらの鳥類に重大な影響を及ぼすことを懸念し、計画地の変更を事業者に求め、同時に当会支部や他の自然保護団体と協力しながら環境省や北海道、根室市など行政にも計画の見直しを働きかけてきました。

 

⑧飛翔調査を基にした、建設計画地でのワシ類の飛翔ポテンシャルマップ。赤い色が濃い場所ほど、飛翔頻度が高いことを示す
⑨2014年5月19日、14か月を費やした調査結果と共に、北海道知事宛の要望書を道庁担当者へ手渡した
⑩根室市内の風力発電施設の風車に衝突死したオジロワシ
(当会根室支部提供)

14 か月にわたる現地調査、計画変更への根拠に

計画変更を求めるには、科学的根拠が重要です。当会では、まず、フレシマ地区に飛来するワシ類の飛翔調査を14 か月にわたって行ないました。その結果から東京都市大学の北村亘講師の協力を得て、計画地域でワシ類が飛行しやすい場所を予測した「飛翔ポテンシャルマップ」(⑧)を日本で初めて作成しました。さらには、風速や風向きによって向きや回転数を変える風車の翼に、ワシ類が1年間に衝突する数を東北鳥類研究所の由井正敏氏の協力により推定し、年間衝突数0・39 羽~1・01 羽というより具体的なリスクを導きだしました。
こうした科学的解析を基に、2014年5月19 日、計画の認可に大きな影響を与える地元自治体、北海道知事・北海道教育長宛に、事業者への指導を求める要望書(当会、日本自然保護協会、当会根室支部連名)を提出するに至りました。

 

⑪フレシマに風車が建設された場合のイメージ図
⑫風車の高さと、ワシ類の飛行モデル図。海から斜面に向かって上昇する風を利用して飛ぶワシが、風車の回転翼(ブレード)に衝突する例が多い

2014年7月、事業者側が計画中止を発表

そして要望書提出から2か月後の7月16 日。同計画の事業者である電源開発株式会社から、計画の中止が発表されました。事業者側は中止の理由について「経営上の問題」としていますが、実質の白紙撤回に至ったことは歓迎すべきことです。
風力発電所の設置が増えるなか、野鳥ひいては生物全般の生息環境に影響を与えることがないよう、適切な環境影響評価と地域の合意形成を行なうことは、非常に重要なことです。
当会は今後も、人間の生活はもちろん、生物と自然環境にとっても持続可能な、真の自然エネルギーの推進に貢献する活動を続けていきます。


◎この取り組みに関する詳細はこちらをご覧ください。
渡邊野鳥保護区フレシマに隣接する風力発電施設建設計画への対応について

いま問われる、野生動物と人間の共生

文=葉山政治 自然保護室


①雑食性のツキノワグマの暮らしには、生物多様性に富んだ豊かな森が必要。紀伊半島や四国山地などで絶滅危惧種に指定されている(写真/NPO日本ツキノワグマ研究所)

日本は湿潤な気候に恵まれ、豊かな森が広がり、世界の先進国の中では唯一、大型の野生動物が人のそばで暮らす国です。
そんな日本で、「近年、シカが増えすぎて各地で問題になっている」というニュースをよく耳にします。ともすると、シカは人間の敵のように取り上げられていますが、そうなのでしょうか。

林床(りんしょう)のササを食べることで、種子の芽吹きを助けて森林更新を促す「生態系エンジニア」とも称されるシカの存在は、森林の生態系にとって重要な存在でした。しかし、現在では増えすぎたことやその生息域の拡大によって、農林業被害にとどまらず、森林の植生破壊や土壌の流出をも引き起こしています。
数の増加が問題になり始めたのは、20年ほどまえのことです。そもそもの原因には、戦後の拡大造林政策による植樹や、畜産振興のための草地造成など、人間の活動による影響があります。

ツキノワグマについても同様で、人家の近くに出没した場合は人の生活の安全を確保するために駆除せざるを得ませんが、生息地が確保され、こういった大型のほ乳類と人との距離が適正に保たれていた時代には、このような問題は少なかったのです。シカもクマも、森のいち住人であり、生態系の重要な構成員なのです。

②温暖化や狩猟の減少など、さまざまな要因で数を増やしているニホンジカ。旺盛な食欲で草本類からササ類、樹木の枝葉や樹皮まで食べる
③吉野熊野国立公園大台ケ原では、ニホンジカの増加により林床のササ藪が消滅。そこをすみかとしていたコマドリの減少が、日本野鳥の会奈良県支部の調査で報告されている

駆除だけではない計画的な保護管理が必要

増えすぎたり、人間の生活圏に入り込んできた動物は、農業や林業、漁業などに被害を出したりと、人間との軋轢(あつれき)が生じます。

鳥獣保護法では科学的なデータに基づき、シカやイノシシ、カワウのように増えすぎたり、ツキノワグマなど減りすぎたりした鳥獣について、個体群の存続を安定的に図る制度が定められています。1999年に施行されたもののあまり効果が現れず、軋轢や問題はさらに増加し、結果、駆除されることが多くなっていきました。
しかし、増えすぎたら駆除し、減りすぎたら保護し、増えたらまた……といった、行き当たりばったりで計画性のない対策をとりつづけてよいのでしょうか。

今年の通常国会でこの鳥獣保護法のさらなる改定が行なわれ、野生動物を「保護」と「管理」に分けて保護計画、管理計画を立てるようになりましたが、2つに分けることは賢明とはいえません。たとえば、同じ個体群のツキノワグマでも、人里に出没するものは「管理の対象」ですが、奥山に生息するものは「保護の対象」という場合があります。本来、個体群の「保護」と「管理」は一体であるべきで、モニタリングに基づき計画的な個体数調整や生息地管理、被害防除を組み合わせた、「ワイルドライフ・マネジメント」という考え方で順応的に進めることが重要です。

また、そのためには実際に事業を行なう都道府県に、たとえばシカやイノシシなどの対象生物の専門家を配置することが必要なのですが、今回の改定ではこの点が明言されていません。これまで同様に知識がないなかで、「駆除することで個体数を管理する」といった、短絡的な手法が講じられてしまう危険もあります。

そんななか、この4月には農林水産省と環境省から漁業に被害を与えるカワウについても、個体数を10年後に半減させるという方針まで出されています。
現状では捕獲は必要だと考えますが、やみくもに捕獲すればいいというものではありません。

人間も動物も、多種多様な生物の一員である

かつて、森(奥山)と人の生活圏の間には、生活の場とは別に、人によって管理・利用されている雑木林や茅場といった場所がありました。そこはちょうど野生動物のすみかとの緩衝帯の役割も担っていました。近年は、人間の生活圏が拡大する一方で、中山間地では過疎化が進み、集落やその周辺に人の手が入らなくなりつつあります。このように、中山間地域の活動衰退が農地への鳥獣の侵入を許し、野生動物と人との接触が増えてしまっているという状況なのです。

今後、いっそうの人口減少や都市への人口集中、土地利用の変化が予想され、人間と野生動物とがすみわけるエリアや境界線は大きく変わっていくことでしょう。
このような社会状況において、鳥獣保護法が果たすべき役割は大変重要です。当会は、野生動物とのよりよい共生の指針になるよう、今回の改定の問題点を糺ただし、今後も国や関係機関に働きかけていきます。

日本の生物多様性


④夏鳥として飛来し、「ヒンカララ」と声量のある美しい声でさえずるコマドリは、高い山のクマザサなどが茂る渓谷や斜面にすむ

生物多様性条約締約国会議COP10を受けて策定された「生物多様性国家戦略2010-2020」では、《日本の生物多様性の特徴として、「先進国で唯一野生のサルが生息していることをはじめ、クマ類やニホンジカなど数多くの中・大型野生動物が生息する豊かな自然環境を有しています。こうしたことから、世界的にも「生物多様性の保全上重要な地域」として認識されています。》とあります。

しかし、生態系レベルの生物多様性を保全していくには、希少種の保護だけではなく、シカも含めた多種多様な生物の調和がとれた生態系が必要です。同国家戦略でも、里地・里山では人と鳥獣との適切な関係の構築を進めると書かれています。

(写真/石田光史)

バードウォッチング手帖

小冊子『バードウォッチング手帖』配布終了

バードウォッチング手帖

夏は高原へ

2017年4月をもちまして、小冊子『バードウォッチング手帖』の配布を終了いたしました。
代わりに、バードウォッチングの始め方をご案内した新しい小冊子、ゼロからわかる『バードウォッチングBOOK』を配布しております。
詳しくは、小冊子ゼロからわかる『バードウォッチングBOOK』のページをご覧ください。

野鳥と人が共存する 原発のない社会に向けて

文=安藤康弘 会員室
柳生会長とツバメ音楽隊(※)は
原発被災地・南相馬市を訪れ、被災した市民にエールを送りました。

柳生会長とツバメ音楽隊

柳生会長最後のあいさつ

南相馬市の青木紀男教育長から来賓の挨拶

① 来場者は約350人。ブラジルラテンの音楽のリズムでみなさんの心も軽やかに
② 最後のあいさつでは、柳生会長が涙ながらに原発事故の苦しみを語り、客席からはすすり泣きがもれた
③ 後援の南相馬市の青木紀男教育長から来賓の挨拶をいただいた

南相馬市民文化会館で復興応援コンサート

日本野鳥の会では、身近な野鳥ツバメの減少を背景に、一昨年より『ツバメを守ろう』キャンペーンを行なっています。その一環として、2011年の福島第一原子力発電所の事故がツバメに与える影響を知るために、福島県南相馬市を中心にモニタリング調査を実施しています。
南相馬市は原発事故の影響を受け続けている地域です。事故直後、人口は震災前の7万人から1万人程度へと減少し、現在も1万4千人の市民が市外の仮設住宅等での避難生活を余儀なくされています。また、すべての水田について3年間、作付けが禁止され放置されています。事故以前は、春になると田んぼに水が張られ、たくさんのツバメの姿を確認することができましたが、いまは雑草が生い茂りツバメの姿はほとんどありません。また、放射性物質に汚染された泥を知らずに巣材に利用するため、高濃度に汚染された巣が見つかっています。
当会ではキャンペーンの初年に、ツバメの暮らしと原発事故がツバメに与えるこれらの影響について、多くの人に親しみながら知ってもおうと音楽物語『あの星のもとの故ふるさと郷』を制作し、音楽ユニット『ツバメ音楽隊』を結成しました。福島を舞台に震災に遭ったお婆ちゃんとツバメとのふれあいを、音楽と語りと映像により構成しています。
これまでは東京で公演を重ねてきましたが、去る2月23 日、原発被災地である南相馬市にて復興を応援するための公演を行ないました。会場には約350人の観客が集まり、それぞれが自らの被災体験と現在の状況をこの物語に重ねているようでした。公演最後のあいさつで、柳生会長は胸を詰まらせながら「人も生きものも苦しむ原発はもういらない」と語り、会場から一斉に拍手が起きるなか幕を閉じました。

国道6号線沿いから見える福島第一原発

国道6号線の検問所

④ 国道6号線沿いから見える福島第一原発。現在の状況がどうであるのか、まったくといっていいほど住民に情報は伝えられていない
⑤ 国道6号線の検問所。大熊町では、車内で10 μsv h を越える高い放射線量を記録する場所があった

小学校での応援コンサート

南相馬市立大おおみか甕小学校は原発から20㎞の地点に位置します。この一帯は放射性物質による汚染は少ないうえに除染もされ、空間線量は東京と変わりません。しかし、原発から近いということで、多くの児童が市外へと移住や避難をし、南相馬市では子どもの数が減りました。
大甕小学校の児童数も、震災前の204人から102人と半分に減少し、仮設住宅にいる子どもたちはスクールバスで通い、その他の子どもたちは親が車で送り迎えをしています。
星校長先生によると、学校以外での運動や遊びを通じたさまざまな体験が自由にできなかったり、一部児童は仮設住宅での生活が長期化している状況にあることから、成長過程にある子どもたちの心理状態を専門のカウンセラーが定期的にチェックしているとのことでした。また、昨年までは提供されていたいろいろな催し物も、今年に入ると極端に減ってしまったとのことです。そこで当会は子どもたちに、音楽を楽しみながら故郷にくらす身近な野鳥のことを知ってもらうために公演することにしました。
24 日の当日は、近隣の太田小学校の児童も合流し、総勢160名の児童が体育館に集まりました。子どもたちは間近でプロの演奏家の生演奏や野鳥の話しを聞き、自作のシェーカーを振って演奏に参加したり、『翼をください』を全員で合唱したりして笑顔いっぱいでした。
星校長先生は、久しぶりに生徒らの明るく楽しそうな姿が見られたと目頭を熱くしていました。私たちも子どもたちの屈託のない表情を見て、なんの罪もない子どもたちのあたりまえの生活を奪ってしまう原発の罪深さを感じないではいられませんでした。

桜井市長との面談

小学校での公演を終えた柳生会長は、南相馬市の桜井勝延市長を表敬訪問しました。桜井市長は脱原発の方針を表明し原発に依存しない町作りを目指しています。その席で昨年7月に当会が企画実施した『福島の原発被災地を訪ねるエコツアー』で訪れた小高地区のことが話題になりました。
小高地区は、かつては「潟」の環境でしたが、大正から昭和初期にかけて干拓事業が行なわれ農地へと変わりました。しかしこの度の東日本大震災の影響で地盤沈下がおき、海水や淡水が流入して、かつての潟のような湿地環境へと変わりました。小高地区の海岸部は放射性物質の汚染がほとんどなく震災前と変わらないものの、原発から20㎞圏内の警戒区域に指定されていた経緯から復興が進んでいません。
前日に私たちを案内してくれた浦尻行政区長・小野田さんは、「国や県は農耕地に戻すのであれば補助金を出す方針を示しているが、農耕地に戻して農業を始めても、風評被害により作物が売れるのかわからず、また若い世代は放射性物質による汚染の懸念や働く場所がないことから地元に帰ることに慎重になっている」と語ります。
一方で、湿地へと変貌した小高地区は、水鳥の生息地になっており、2月に実施した調査ではコハクチョウ260羽、オオハクチョウ289羽、また国の天然記念物に指定されているマガン、ヒシクイなども確認されています。柳生会長は、小高地区が貴重な野鳥の生息地になっており、自然的に価値がある場所であることを桜井市長に伝えました。
桜井市長は「人の命を守ることの大切さ」、柳生会長は「野鳥や生きものの命を守ることの大切さ」を語り、人と自然が共存する社会に原発はいらない、との見解で一致しました。

音楽隊の生演奏

大甕小、太田小に野鳥図鑑を贈呈

柳生秋長と桜井市長

小高地区浦尻

⑥ 目の前で繰り広げられる音楽隊の生演奏に、小学生たちは目をキラキラと輝かせた。子どもたちの合唱も、美しく響いた
⑦ 日清製粉(株)のご協賛により、大甕小、太田小に野鳥図鑑を贈呈
⑧ 宮沢賢治を尊敬している桜井市長は、今の時代、地に足をつけた生き方が求められると語った
⑨ 小高地区浦尻。地盤沈下で湿地となった場所には、オオハクチョウやコハクチョウなど多数の水鳥が羽を休める

(写真/斉藤ユーリ)

南相馬市民文化会館周辺マップ

※今回の公演は一般社団法人昭和会館の助成を得て実施されました
※ツバメ音楽隊
音楽を通してツバメの暮らしや保護上の問題を伝えるために結成された音楽隊。
主な演目は『あの星のもとの故郷』
メンバーは、
帆足彩/バイオリン
高田泰久/ギター
伊藤祥子/ピアノ、作曲
石川智/パーカッション

Toriino(トリーノ)2014年の発行号

第30号 2014年3月発行号

トリーノ表紙
表紙:石踊達哉
「断雲四季草花図屏風」
(部分)2004年
彩の章
写真:西川 孟
憶の章 -往-
写真:大城弘明
憶の章 -還-
写真:川田喜久治
流の章
写真・文:藤原新也
響の章
写真:星野道夫
野鳥保護レポート 野鳥と人が共存する原発のない社会に向けて
文:会員室 安藤康弘
福島とツバメを題材にした音楽物語『あの星のもとの故郷(ふるさと)』を、去る2月23日に原発被災地である南相馬市で上演し、被災した市民にエールを送りました。翌日、柳生会長が桜井市長を表敬訪問し、その対談のなかで「人と自然が共存する社会に原発はいらない」との見解で一致しました。

第31号 2014年6月発行号

トリーノ表紙
石踊達哉「夕立」
(部分)2000年
彩の章
写真:西川 孟
憶の章 -往-
写真:東松照明
憶の章 -還-
写真:川田喜久治
流の章
写真・文:藤原新也
響の章
写真:星野道夫
野鳥保護レポート いま問われる、野生動物と人間の共生
文:自然保護室 葉山政治
近年、シカやツキノワグマなど野生動物と人間との間で軋轢が生じています。野生動物と人間とがすみわけるエリアや境界線が大きく変わっていくことが予想されるなかで、今年の通常国会で改定された鳥獣保護法の役割と、その問題点について紹介しています。

第32号 2014年9月発行号

トリーノ表紙
石踊達哉「茜雲」
(部分)2007年
彩の章
写真:西川 孟
憶の章 -往-
写真:土門拳
憶の章 -還-
写真:川田喜久治
流の章
写真・文:藤原新也
響の章
写真:星野道夫
野鳥保護レポート 生物多様性を脅かさない自然エネルギーを
文:保全プロジェクト推進室 田尻浩伸
2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、持続可能な自然エネルギーへの転換が求められており、当会でも原発の廃止と自然エネルギーの推進を訴えています。
風力発電所の設置が増えるなか、当会では生物全般の生息環境に影響を与えることがないよう、調査などの活動を行なっています。

第33号 2014年12月発行号

トリーノ表紙
石踊達哉「雪中紅梅図」
(部分)2004年
彩の章
写真:西川 孟
憶の章 -往-
写真:池田勉
憶の章 -還-
写真:川田喜久治
流の章
写真・文:藤原新也
響の章
写真:星野道夫
野鳥保護レポート ツルがいる景色を取り戻す
文:自然保護室 伊藤加奈
日本にはタンチョウのほかに、2種のツルが生息しています。冬、ロシアや中国から西日本に渡ってくるナベヅルとマナヅルです。現在はナベヅル約1万羽、マナヅル約3千羽が国内で生息していますが、一方で新たな問題が生じています。約800 ha の干拓地に1万羽以上のツルが集中することで、農業被害が発生すると共に、感染症の蔓延や突発的な事故が起きた場合、一度に大量のツルが死んでしまう恐れがあります。

自然を壊さないオリンピックを

葛西臨海公園へのカヌー競技施設建設計画

文=葉山政治 自然保護室

柳池での昆虫観察会

①柳池での昆虫観察会
②ギンヤンマを手に持つ子供
③アカハラ
④オオルリ
⑤キクイタダキ

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会において、カヌーのスラローム競技施設が葛西臨海公園に計画されており、日本野鳥の会の財団事務局と日本野鳥の会東京などが計画変更を求めていることは、各種報道でご存知の方も多いと思います。

世界有数の渡り鳥の楽園だった、葛西沖の干潟

葛西臨海公園がある江戸川区葛西は、昭和30年代頃までは、夏はアサリ、ハマグリ、冬は葛西海苔と呼ばれるアサクサノリの生産で、海産物の豊かな漁村でした。また、葛西沖は東京湾奥部に広がる新浜、浦安、行徳と続く広大な干潟で、世界有数の渡り鳥の渡来地でした。
その後、高度経済成長に伴う海洋汚染、残土処分問題なども持ち上がる中で、地盤沈下による土地の水没問題を解決するため、1972年に「葛西沖開発土地区画整理事業」の実施が決定され、その一環として、平成元年に葛西臨海公園が開園しました。
当時のことを記録した『今よみがえる葛西沖』(※1) には以下のように記されています。
『人々が「自然との調和」に目を向けるようになったとき、東京湾の海岸線は埋め立てによってはるか沖合に退いており、都内ではただ一つ葛西の海岸のみが残されていた。葛西沖開発計画は、東京で人と海がふれあえる“最後の砦”として、葛西の海岸や三枚洲をすみかとする鳥や、海の生き物を守り、人・水・緑がかなでる新しい街を作りたいという多くの人たちの願いを受けて検討かつ決断されたものである。』
このようにして作られた葛西臨海公園は、開園後25 年の年月を重ね、いまでは年間320万人が憩い、自然とふれあえる場所となっています。

都市において自然とふれあえる貴重な場所

競技施設建設予定地は葛西臨海公園の西側約20ヘクタールのエリアです。25 年の歳月を経て、ここには芝生の広場、小さな水路や池、樹林など、さまざまな自然環境が再生しています。
226種の野鳥をはじめ、昆虫140種、クモ類80 種などが記録されるなど、豊かな生物相を有しています。いまや都心ではめったに見ることのできない生きものと身近にふれあえる貴重な場所であり、ここを次世代に残していく責任が私たちにはあると思います。

自然環境を壊さない場所に建設予定地の変更を

昨年の夏以降、計画変更を求めて招致委員会との交渉や国際オリンピック委員会(IOC)への要請などを行なってきましたが、開催都市決定までは、IOCへ出している計画は変更できないということで、こちらの要求を伝えるまでに留まっていました。また、環境影響評価の資料や会場予定地の選定資料なども非公開のままでした。今後は、こうした資料の公開と葛西の代わりとなる候補地の選定を求めていきます。
2月には東京都と日本オリンピック委員会(JOC)が中心となって、大会組織委員会が設立される予定です。計画変更の活動はこれからが本番です。葛西臨海公園を将来にわたって自然とふれあえる場として残すために活動を続けてまいりますので、ご支援をお願い致します。現在インターネット上で、この活動への賛同の署名を集めています(※2)。
今後の動きは、当会のホームページ(※3)や日本野鳥の会東京のブログ(※4)でもお伝えしていきます。

現在の葛西臨海公園

競技場計画での改変区域

競技場イメージ

葛西臨海公園地図

⑥バードウォッチングやサイクリングなどさまざまな方法で、のんびりと自然を楽しむ姿が見られる、現在の葛西臨海公園
⑦競技場計画での改変区域 (2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会初期段階環境影響評価書より)
⑧競技場イメージ
http://tokyo2020.jp/jp/plan/ outline/

写真提供/① ② 鳥類園友の会 ③ ④ ⑤ 葛西野鳥の会
※1 東京都建設局 平成7年発行
※2 葛西臨海公園 ネット署名
でインターネット検索
※3 http://www.wbsj.org/ activity/conservation/habitat-conservation/kasai_olympic/
※4 http://tokyo-birders.way-nifty.com/

原発被災後の福島の現状を知るエコツアーを開催

復旧作業が進まず、壊れた家屋や船、瓦礫が残る浪江町請戸地区

東日本大震災から2年半が経過した今でも、福島県内にはさまざまな課題が山積したままです。
震災の記憶が徐々に風化するなか、原発事故によって引き起こされた自然環境、社会環境の変化や影響を少しでも多くの方に現地で体感していただき、その実情を実際に見てもらうために、当会では今年7月、「福島の原発被災地を訪ねるエコツアー」を開催しました。全国から集まった32 名の参加者とともに、相馬市、南相馬市、浪江町、飯館村、福島市を訪ねました。

復旧が遅れている原発の近接地域

浪江町の海岸部は福島第一原発から約5 km のところにあります。空間線量は高くありませんが、原発に近いために警戒区域となり、今年4月まで復旧作業が行なわれず、津波により壊れた家屋や堤防などが震災当時のままに残っていました。
請戸(うけど)地区の小学校の教室には机やイスが雑然と残り、避難時の騒然とした様子がうかがえました。立ち入り制限が解除されて間もないため、整備も始まったばかりで、瓦礫の撤去作業や行方不明者の捜索も継続中でした。南相馬市の太田川河口周辺や小高(おだか)区浦尻も同様の状況でした。
こうした作業の遅れの背景には、原発に近接した地域では立ち入りが長い間制限されていたことに加えて、瓦礫の受け入れ先がいまだに決まらないことが挙げられます。

汚染された地域での農業の停滞

飯舘村や南相馬市では今も、水田の作付けが禁止されています。作付け禁止を余儀なくされ、3年目を迎えた水田には雑草が茂り、なかには小さな樹木が生えている場所もありました。こうした水田では、草地環境を好むセッカやキジがよく観察されました。放置水田の面積はかなりの規模に及び、回復には長い時間と多額の費用がかかるものと思われます。
一方、農地の除染作業は、暑い中も、継続して行なわれていました。黒いビニールに包まれた汚染土の塊が、農地のそばや、場所によっては人家の近くに積み上げられていました。こうした汚染土の処理問題も、受け入れ先が定まらないまま時間ばかりが経過しています。

松川浦の漁業の今後

相馬市の松川浦は、震災前は風光明媚な場所として知られ、コウナゴ漁やズワイガニ(松葉ガニ)漁、海苔養殖が盛んでしたが、震災により漁船の3分の1が流され、漁業施設が倒壊するなど大きな被害が出ました。
相馬双葉漁業協同組合の方に、地元の漁業の将来についてお話しを伺いました。現在、試験操業を再開し、福島県と漁協で検体のダブルチェックを行なっているそうです。タコやツブガイでは放射性物質は検出されていないものの、カレイやアイナメ、ヒラメでは依然基準値を超えているとのことでした。
今も福島第一原発からは高濃度汚染水が海へ漏出し続けているため、さらなる影響が懸念されます。漁師の方が本来の生活を取り戻すには長い時間がかかりそうです。

今も続く仮設住宅での生活

次いで、仮設住宅を2か所訪ねました。一時的な住まいとして建てられた仮設住宅は狭く、プライバシーの確保がむずかしい面があります。また、震災前に住んでいた地域のコミュニティがそのまま仮設住宅に移ってきているケースは少なく、避難生活の長期化とともに、本来あったコミュニティの機能やつながりが失われつつあります。
震災から2年半が経過していますが、退去できる人が少ないために居住者は減らず、終わりの見えない仮設暮らしのなか、住民同士のトラブルや心のケアが必要となっているケースや、高齢者の孤独死も発生しているとのことで、深く考えさせられる訪問となりました。

復興に向けての取り組み

失われたコミュニティを取り戻すための取り組みが南相馬市では始まっていました。地元NPOが中心になり、「花見山」と呼ばれる里山に年配の人を集め、植樹と森林整備を軸に活動し、コミュニティの復活を進めていました。将来的には若い人たちも受け入れ、地域再生の核にするとの意気込みで、とても元気づけられました。
ツアーの最後には、風評被害により大きな影響を受けた福島市内の果樹園を訪ねました。現在では除染と徹底した検査を行なっているため、安全であるとのことで、福島産の果物を購入し食べることが、福島の復興につながっていきます。

今回のツアーでは、現地の方々の案内で原発被災地を巡り、放射性物質の影響により遅々として進んでいない復興の現状や、風評被害による農産業への深刻な影響を目のあたりにしました。
福島第一原発では依然、汚染水の漏出が続き、汚染土の処理問題も進まず、一向に終息への目途は立っていません。原発再稼働を推し進めようとしている政府は、この福島で起こっている様々な問題を直視しているといえるでしょうか。
私たちは今後も、今回のようなエコツアーや、現地の状況を世の中に伝える普及活動を継続していきたいと思います。


現地の方から、震災当時の様子を聞く

2年前の卒業式の横断幕が当時のまま残されている請戸小学校の体育館。この体育館で卒業式は実現しなかった



津波被害の跡が色濃く残る南相馬市の太田川河口周辺を視察

処理が進まない道路わきの瓦礫 (浪江町請戸地区)



小川の周囲にある水田は放置されて、草地化が進む(飯館村)

農地に置かれていた汚染土(飯館村)



震災後の相馬市松川浦の風景。操業できないため漁船は港に停泊したまま

柳生会長も今回のツアーに同行。コミュニティ再生の核として地元NPOが森づくりに取り組む復興のシンボル「花見山」。同副代表の石崎氏の案内で森を歩く


(文=山本 裕 自然保護室)