日本で初めてのサンクチュアリができるまで

今では自然観察員が常駐する施設は全国各地にありますが、プロのレンジャーが常駐する「サンクチュアリ」の概念を日本で創出したのは日本野鳥の会であり、これは初代会長中西悟堂の最後の事業でもありました。

それから50年、わたしたちは先人たちが残してくれた豊かな自然環境を守り、未来へつなげるためにサンクチュアリを拠点とした活動を行っています。

サンクチュアリの歴史

1970年代の日本には、原則として狩猟を禁じた「鳥獣保護区」がすでにありましたが、その多くは開発が可能であり、また自然とふれあい、学ぶ場所でもありませんでした。

そこで、日本野鳥の会は、野鳥の生息地を恒久的に確保し、ネイチャーセンターなどの拠点施設を置き、専門家が常駐して保全するとともに、多くの人々が自然と親しむことができる機会をつくろうと、サンクチュアリ運動をスタートしました。

欧米の事例をモデルに、アジアで初となるサンクチュアリの誕生

第一号ウトナイ湖サンクチュアリのオープン記念式典
第一号ウトナイ湖サンクチュアリのオープン記念式典

1970年代、欧米ではヨーロッパの英国鳥類保護協会(RSPB)やアメリカのナショナル・オーデュボン協会(NAS)などが、すでに多くのサンクチュアリを設置していました。当会はRSPBが管理するミンズミア保護区を視察し(『野鳥』1977年7月号)、欧米の事例を参考にしながら1976年にサンクチュアリを実現するための野鳥保護基金を開設し、候補地選定を始めました。

1977年からは、サンクチュアリの施設の建設費を集めるために1億円を目標に募金キャンペーンを行いました。多くの支部や会員の皆さんが賛同し、新聞やメディアに取り上げられたことで、さらに広く一般の皆さんにも協力の輪が広がり、1981年4月に目標額である1億円を達成しました。1981年5月10日、バードウィークの初日に第一号のサンクチュアリ「ウトナイ湖サンクチュアリ」がオープンしました。

地方自治体や国の自然ふれあい施設事業とともに拡大

サンクチュアリ運動のロゴ「カワセミ」当時使用していたロゴマーク
当時使用していたロゴマーク

1981年に第一号となるウトナイ湖サンクチュアリの誕生を受けて、その実績をみて福島県福島市が設置した施設「福島市小鳥の森」は、当会が設計と設置後の運営を担当しました。現在は、日本野鳥の会ふくしまが業務を引き継ぎ、地域の人々が活躍する場となっています。その他にも、加賀市鴨池観察館や谷津干潟自然観察センターなどの地域で計画されたいくつかの自然観察施設の計画や運営などに当会が関わってきました。

さらに当会は、環境庁(現:環境省)と全国10自治体が展開した自然観察の森整備事業に計画段階から参加しました。その第一号が1986年にオープンした横浜自然観察の森です。その後、姫路市自然観察の森、福岡市油山自然観察の森、おおの自然観察の森と続きます。先に挙げた施設については、自治体から委託を受け、当会のレンジャーが常駐していました。

野鳥保護区とサンクチュアリのちがい

湿原ではタンチョウが繁殖している。湿原ではタンチョウが繁殖している。(渡邊野鳥保護区フレシマ

野鳥保護区を利用しているタンチョウの親子
野鳥保護区を利用しているタンチョウの親子(渡邊野鳥保護区ソウサンベツ

野鳥保護区は、希少な鳥類が生息する環境を守るため、当会がご寄付をもとに土地を買い取り管理することで生息地を保護している場所です。ただしレンジャーは常駐せず、必要に応じて環境管理や環境調査を行っています。また、一部区域を除き一般の方の立ち入りも制限しています。対象種の生息地の保全に特化しているものを「野鳥保護区」としています。

一方、サンクチュアリは、野生生物の生息地を確保し自然環境を保全することに加え、レンジャーが常駐していること、また来訪者の皆さんに自然とふれあってもらうための拠点施設があり、環境教育プログラムが展開されています。環境教育プログラムは、地域によって環境が違うため現地のレンジャーが立案しています。

このレンジャーの常駐と自然とのふれあいの機会の提供が野鳥保護区とサンクチュアリの大きな違いです。

レンジャー養成講座の様子
レンジャー養成講座の様子
来館者に解説をするレンジャー
来館者に解説をするレンジャー

これまでに関わってきた施設

これまでに日本野鳥の会が立ち上げや設計、運営・管理に携わった施設を紹介します。
※( )内は当会が運営に携わった期間です

福島市小鳥の森(1983-2012)
1983年から29年間、当会が管理運営を受託していた施設です。現在は日本野鳥の会ふくしまが指定管理者です。
加賀市鴨池観察館(1984-2014)
1984年から30年間、当会が管理運営を受託していた施設です。現在は、加賀市総合サービス(株)が指定管理者となっています。
キープ清里サンクチュアリ(1984-1990)
(財)キープ協会(当時)と共同で、環境教育の実践や研究を行う「キープ清里サンクチュアリ」を共設置。現在は(公財)キープ協会が環境教育の拠点として運営しています。
姫路市自然観察の森(1986-2020)
1986年から34年間、当会が管理運営を受託していた施設です。1986年度は開園準備のみ、1987年に開園。
谷津干潟自然観察センター(1994-2007)
1994年から13年間、当会が管理運営を受託していた施設です。
大和市自然観察センターしらかしのいえ(1997-2007)
当会がボランティア組織の立ち上げや施設運営の職員研修など、運営の一部コンサルティングを実施していた施設です。
福岡市油山自然観察の森(1988-2011)
1988年から23年間、当会が管理運営を受託していた施設です。
おおの自然観察の森(1989-1998)
当会が、測量設計、開設準備、展示計画調査、管理運営業務を受託していた施設です。
山口県立きらら浜自然観察公園(2001-2002)
2001年の公園の開園から2年間、当会がコンサルティングを実施していた施設です。
豊田市自然 観察の森(2003-2024)
2003年から2年間、当会が自然解説等の業務を受託、2006年から18年間、指定管理を受託していた施設です。
姫路市伊勢自然の里・環境学習センター(2004-2009)
2004年から5年間、当会が管理運営を受託していた施設です。

日本野鳥の会のサンクチュアリのあゆみ

サンクチュアリ委員会発足の背景
1975年に我喜屋良晴氏より、ノグチゲラ保護のための募金500万円が当会に寄贈され、この寄付金をもとに「野鳥保護基金」が設立されました。翌1976年、第22回全国大会において、この野鳥保護基金をサンクチュアリ建設資金に充てる方針が報告され、サンクチュアリ委員会が結成されました。


1977年 サンクチュアリ委員会発足

1978年 10月 大井野鳥公園への職員の常駐を開始

1979年 第一号サンクチュアリ建設地がウトナイ湖に決定

1981年 3月 野鳥保護基金が目標額の1億円を達成
5月 ウトナイ湖サンクチュアリがオープン

1982年 千歳川放水路計画が策定される

1983年 2月 林田恒夫氏、ドロシーブリトン氏からの寄付をもとに「タンチョウ保護基金」開始
11月 福島市小鳥の森がオープン(~2012年まで受託)
三宅島が米軍の夜間離着陸訓練(NLP)の空港建設地の候補地となる

1984年 4月 キープ清里サンクチュアリがオープン
10月 加賀市鴨池観察館がオープン(~2014年まで受託)
千歳川放水路計画の美々川・ウトナイ湖ルート案が発表され、ウトナイ湖サンクチュアリをはじめ反対運動が始まる

1985年 6月 当会ツル保護特別委員会主催「タンチョウの保護を考えるシンポジウム」でタンチョウ保護のためのサンクチュアリ建設を決議

1986年 3月 横浜自然観察の森がオープン
三宅島の夜間離着陸訓練(NLP)空港建設計画に日本自然保護協会とともに反対を表明、空港建設の見送りが決定

1987年 4月 姫路市自然観察の森がオープン(~2020年まで受託)
6月 第1回レンジャートレーニングキャンプをKEEP清里サンクチュアリで実施
11月 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリがオープン
持田勝郎氏からのご寄付を元にタンチョウが営巣していた民有地を買い取り民間で初の「野鳥保護区」が誕生

1988年 4月 福岡市油山自然観察の森がオープン(~2011年まで受託)

1989年 4月 広島県大野町(現・廿日市市)におおの自然観察の森がオープン(~1998年まで受託)
10月 都立東京港野鳥公園がオープン

1992年 11月 ウトナイ湖サンクチュアリに環境教育センター開設
12月 ウトナイ湖がラムサール条約湿地に登録される

1993年 3月 タンチョウサンクチュアリ基金、目標額7千万円達成
7月 三宅島自然ふれあいセンター・アカコッコ館がオープン
12月
  • 第5回ラムサール条約締約国会議で、千歳川放水路計画の中止を国際的にアピール
  • 加賀市鴨池がラムサール条約湿地となる

1994年 7月 習志野市谷津干潟自然観察センターがオープン(~2007年まで受託)
9月 野鳥保護区34haを春国岱原生野鳥公園用地として根室市に無償貸与(ゼネラル石油(株)からの寄付で民有地49haを買い上げる)

1995年 4月 春国岱原生野鳥公園ネイチャーセンターがオープン
5月 サンクチュアリレンジャー養成講座開始
11月 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリを支援する賛助会「タンチョウふぁんクラブ」設立

1998年 3月 ウトナイ湖サンクチュアリを支援する賛助会「ウトナイ湖ファンクラブ」設立

1999年 4月 千歳川放水路計画の中止が決定
5月 片野鴨池が東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワークに参加

2000年 5月 ウトナイ勇払保全プロジェクト開始
6月 東京港野鳥公園が東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ(EAAFP)に登録

2001年 4月 山口県立きらら浜自然観察公園がオープン、当会がコンサルティングを実施(~2002年まで受託)

2002年 7月 環境省と苫小牧市の共同管理施設、ウトナイ湖野生鳥獣保護センターがオープン
11月 春国岱・風連湖がラムサール条約湿地に登録
三宅島2000年噴火の復興への準備を進める。三宅島自然情報ネットワーク事業を受託

2005年 三宅島への帰島、復興への活動を開始

2006年 4月 豊田市自然観察の森の管理運営を行う(~2024年まで受託)
5月 ウトナイ湖・勇払原野保全構想報告書を発行
11月 片野鴨池が東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ(EAAFP)に登録

2010年 10月 風連湖・春国岱が東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ(EAAFP)に登録(3種群全て)

2012年 10月 全国自然観察の森運営協議会に参加

2014年 「野鳥保護区」が総面積3000haに

2020年 5月 勇払原野一帯では130年ぶり、ウトナイ湖サンクチュアリでタンチョウのヒナを確認
2月 (仮称)苫東厚真風力発電事業の計画が発表される

2024年 野鳥保護区の総面積4000haに
2024年夏の寄付キャンペーン「野鳥保護区」で生命のにぎわいを守ろう!

2025年 8月 (仮称)苫東厚真風力発電事業の中止が決定

2026年 美々川周辺の土地利用の規制緩和が苫小牧市より発表
勇払原野を支える美々川の自然環境を守る