横浜自然観察の森レンジャーの活動内容
環境教育
横浜自然観察の森は、常勤のレンジャーが配置され、環境教育活動の場として活用されることが基本計画に位置づけられており、開園当初から環境教育・普及啓発活動を実践してきました。都市近郊の皆さんが実体験を通して楽しみながら自然の大切さに気づき、やがては具体的な自然の保全活動を実践できるように、興味の段階を「関心」「行動」「協働」の3つに分けて、それぞれに合わせた対応をしています。

1.「関心」自然に親しむ

森の生きものの解説をするレンジャー

イタチの目線になって自然を楽しむイベントなど、皆さんに楽しんでもらえるよう様々な工夫をしています
横浜自然観察の森は都市近郊にあるため、自然体験が初めての方や興味を持ち始めたばかりの方が多く来園します。このような利用者層を「関心」の段階として、自然の楽しみ方、生きものにやさしいマナーを観察会や展示を通して伝えています。
この層で多く来園するのは、横浜市内の小学校の皆さんです。五感を使った基本的な観察方法や来園時の見どころの生きもの紹介、ハチなどの危険生物への対処法の話が定番です。時に小学校の社会科の「水はどこから」の学習に合わせて、園内の川の源流の観察をすることがあります。きれいな水にくらす水生生物を観察すると共に、川が江の島近くの海まで繋がること、森の栄養が海の魚となって食卓に並ぶことへ話をつなげ、森を大切にする理由へ話を展開していきます。このように、楽しみ方だけでなく、自然への思いやりが自分へと返ってくることへの気づきなど、人にも生きものにもやさしい自然体験の入口を、多くの方へ提供しています。

館内展示は、定期的に入れ替えを行っています

水の中の生きものを観察する際に使用する「水生生物観察セット」
2.「行動」自然とのふれあい体験からアクションへ
自然とのふれあい体験を重ねていくことで、自然を守るために「行動」したい気持ちが育まれていきます。このような段階の方は、実際に自然の保全に繋がる活動ができます。木を伐り、草を刈るなどして環境を維持管理すること、動植物の生息状況を調査すること、観察会にスタッフとして関わり自然の楽しさや大切さを伝えることなど、保全活動に必要な技能を身につけます。実際に関わることで、喜びややりがいを感じられ、草刈りなどの森林の手入れによって雑木林に春植物が咲いたり、解説することで来園者に喜んでいただけたりなど様々です。
一方、侵入した外来種の除去の大変さ、利用する人の多さに伴う採取禁止などのルールを伝えることの難しさなど、人の利用に関わる課題にも気づかされます。自然環境または人に対して働きかけ、そのフィードバックを得ることを繰り返すことで、活動者のなかに保全についての考えが育まれていきます。
3.「協働」横浜自然観察の森を起点に活動する仲間
自然を守るための知識や技術を身につけ、自立して活動する方を「協働」の段階と位置付けています。園内で主体的に計画を立て、定期的な雑木林の管理や動植物の調査、自然体験行事の運営を実践します。また、園内に留まらず、別の場所で自然の保全に関わる方も多くいます。横浜自然観察の森は開園から長い年月が経ち、これまで多くの方が活動してきました。今でも園内で、環境調査、環境管理、環境教育に携わる担い手が多くいます。

「季節の森を歩こう」で野鳥の解説をする友の会メンバー

友の会「カワセミファンクラブ」の写真展の様子
また、過去に園内で活動していた皆さんが、別の場所で自然ガイドや教職員、絵本作家などとして、自然の大切さを伝える担い手となっています。さらに、これらの担い手から新たに自然に関わる人材が育まれ、人の輪が広がっていきます。横浜自然観察の森は、こうした自然保護に関わる人材育成の循環の起点のひとつとなっています。そして、この起点としての数多くの機会の提供は、(公財)日本野鳥の会のレンジャーと、ボランティアグループ横浜自然観察の森友の会が協力することで実現しています。
自然保護の必要性が高まりながらも、身近で自然環境にふれ、その大切さに気づける機会は減少しています。その中で、昔から横浜にくらす身近な生きものに出会える「横浜自然観察の森」の役割は、さらに大きくなっています。
環境調査
園内にどのような生きものが生息し、またそれらの数や分布がどのように変化しているのかデータを得ることは、科学的な目線で森を保全していくために不可欠です。横浜自然観察の森では開園以来、レンジャーや市民ボランティア、研究者、時には一般利用者や行事参加者によって、3,500種類以上の生きものが記録されてきました。これらは哺乳類や鳥類、昆虫、植物など大きなものから小さなものまでを含みます。

生物の生息状況を定期的にモニタリングします。レンジャーによる源流の生物調査より

鳥類調査をするレンジャー
一部の分類群では、同じ調査方法を定期的に継続して実施するモニタリング調査を行っています。その積み重ねられた結果から、長期的な変化が明らかになってきました。例えば、鳥類では、木の成長とともに樹林を好む鳥が増え、草地を好む鳥が減ってきたという傾向が、開園から30年間の調査結果の分析から明らかになりました(藤田ら 2017)。現在は、40年分のデータから何が見えてくるのかの分析に取り組んでいます。こうしたモニタリング調査の結果は、環境管理活動の成果を確かめるのに役立てています。
さらに、レンジャーやボランティアの皆さんによる環境調査・管理活動の成果は、環境教育に活かされています。調査結果からは、いつどこでどんな生きものが見られるのか、長期的にどのように自然環境が変化しているかなどの観察素材を提供し、フィールドに即した行事の企画に役立てられます。

友の会の野草の調査と保護プロジェクトによるモニタリング調査

レンジャーによる草地のバッタの調査
例えば、バッタの観察をするとき、どこでどんな種類を観察できるか、場所選びの大きなヒントになります。また、草丈によって異なるバッタの種類がすんでいることがわかれば、生きものと生息環境の関係についての解説を展開することができます。
多くの来園者がふと口にした質問……例えば、「この森で野鳥は何種類くらい見られますか」「ハンミョウはいつ見られますか」「ヤマアカガエルは減っていますか」「この植物は珍しいですか」などに答えられるのは、これら調査の積み重ねの賜物でもあります。科学的なデータは自然観察の楽しみを深めてくれます。データを取っただけで終わらせず、行事や自然解説、展示などの環境教育活動にも活用しています。

毎年発行している調査報告書
調査記録の公開と活用の一手段として重要なものに、「横浜自然観察の森調査報告」があります。年に1度発行するもので、レンジャーだけでなく、この森に関わったすべての人が投稿できる冊子です。鳥も、虫も、植物も、地層も植生の調査も、人の利用についても、横浜自然観察の森というフィールドを切り口に見ることができ、専門分野ごとの学会誌とはまた違った面白さがあります。2026年現在、30号まで継続して発行され、ウェブ上で全文公開しています。自然観察の幅を広げ、新たな調査や保全活動への架け橋になることを期待しています。
環境管理
来園者の皆さんが安全に、“生きもののにぎわい”に親しむことができる自然環境を維持するためには、「環境管理」は欠かせません。横浜自然観察の森では、レンジャーによる巡視やネイチャートレイル(自然歩道)の草刈・剪定、危険木等の処理といった安全のための管理作業が日常的に行われています。

刈払いにより草地を維持します

湿地の泥上げも定期的に行います
そして同時に、生きもののにぎわいを保全するための管理作業にも取り組んでいます。例えば、この森では園内の林や草地、水辺などまとまった単位のエリアごとに、それぞれの場所でどんな環境を維持し、どんな生きものを守っていくのか方針を定めた“保全管理計画”を策定しており、これに基づいて作業をしています。
保全管理計画は園内を、「森の移り変わりを見守るゾーン(遷移ゾーン)」、「雑木林管理ゾーン」、「林縁ゾーン」の3つに区分(ゾーニング)しています。この地域の林は、自然な状態では最終的に照葉樹(常緑広葉樹)の林に姿を変えていくと言われています。遷移ゾーンでは、そんな森の自然な成長を見守ります。雑木林管理ゾーンでは、林は間伐などの管理の手を入れることで遷移を途中で止め、コナラやクヌギが主体の林や、ミズキやエノキ、ヤマザクラなどの様々な落葉広葉樹で構成される林といった、色々な雑木林(二次林)の状態を維持します。草地広場については、それぞれの地形や地質の違いで自然環境や生きものの利用状況が変わるため、広場ごとに草丈や草本の構成種、そこで保全したい生きものたち(=注目すべき種)などを細やかに検討し、目指す姿を定めています。水辺についても同様で、それぞれ場所ごとの注目すべき種や目指す姿から、管理作業の方法や時期を計画していきます。林縁ゾーンは2つのゾーンの中間に位置し、低木のやぶやツル植物などの林縁を好む生きものが生育する環境を維持しています。


環境管理の結果は横浜市・友の会・レンジャーの間で定期的に共有し、その後の作業方法の微調整などの検討を行います
そして、その管理が上手くいっているかを「環境調査」の結果から検証し、次の管理に反映させることを繰り返す、“順応的な環境管理”を行っていることも特徴です。モニタリングによって明らかになった、注目すべき種をはじめとした保全したい生きものの生育状況から、前回の管理方法が「効果的か」「課題は何か」などを考察し、「いつ」「何を」「どれくらい伐るか/残すか」などを次の管理作業を計画する際に活かしていきます。
この順応的な管理により、人が手を加えることを最小限に留めることで成立した大木の残る広い森や、人が積極的に手を入れることで成立する雑木林や草地、水辺(ため池・湿地)といった里山の環境など、様々な自然環境がモザイク状にこの森の中で維持されています。そして、そんな森づくりの結果、開発などで最近その数を減らしつつある貴重な種も含む、多種多様な生きものが保全されています。
環境管理活動で多様な生きものが生息できる環境を維持管理した結果は、環境教育のフィールドとしての幅を生み出すことに繋がります。
また、これらの管理作業を行うには市民ボランティアの方々の協力と参加が不可欠です。この森の市民ボランティア“横浜自然観察の森友の会”の皆さんは、この森の大大大常連であり、生きもののことをはじめ、この森のことを深く理解している“この場所の専門家(トコロジスト)”でもあります。森づくり、その中でも特に雑木林管理ゾーンの里山環境を保全・管理する上では、ボランティアの知識や技術、そして手間暇をかけたきめ細やかな作業が大きな支えとなっています。作業の際には、「どの木を残すか」、「いつ草を刈るか」などを話し合い、ボランティアとレンジャーで目指す環境のイメージを共有しながら作業を進めていきます。

これからも、「順応的」に「市民と協働」する特色ある環境管理に取り組み、ネイチャーポジティブの実現を目指していきます。
|







