福島県浪江町のツバメ 2013年春


3・11 以降、時間の止まった浪江町(市街地にて)。


放射線量マップ:1分間測定したうちの最大線量で表示。国道を北上するにつれて線量が上がり、空間線量は約7 μSv /h。町村界では約23 μSv /hに達する。山間部ではウグイス、ホトトギス、モズ、ホオジロ、カワラヒワ、ヒバリ、キジ、ノスリ、ハシボソガラス、シジュウカラ、スズメなどを観察。

チェルノブイリ原発事故では、事故後5年間は立ち入りができず、6年目以降の調査によりツバメに部分白化や尾羽の異常、シジュウカラなどに腫瘍が生じたことが報告されています。
環境省のモニタリング調査では、帰還困難区域の浪江町でツバメの巣から最大138万ベクレル/㎏もの放射性セシウムが検出された事例が報告されています。放射線の影響を受けやすい卵やヒナの時期に高い線量にさらされると、遺伝子などに影響を及ぼす可能性があります。
そこで、福島第一原発の事故後2年経った5月中旬、高濃度汚染地域のツバメなどの野鳥に異常があるかどうかを調べるために、福島県浪江町( 注1)内の帰還困難区域[年間被爆線量50 ミリシーベルト超の区域]を2013年5月中旬に訪ねました。

3か所における空間線量と鳥類相

浪江町の北西部に位置する赤宇木(あこうぎ)地区は放射性物質による汚染が著しい地域です。最初に訪ねた集落は空間線量が約7マイクロシーベルト/時(以下、μSv /h)ほどで、事故後住民は避難しているため、放置された水田は雑草が生い茂り、ツバメを確認することはできませんでした。ひっそりとしている農家を訪ねると、かつて多数かけられていたツバメの巣はカラスによってすべて落とされたと思われ、新たに巣をかけようとしているところも確認できませんでした。
さらに飯舘村との境にある山林を訪ねると、空間線量は約23 μSv /h。林縁の落ち葉の堆積しているところに進むとアラームがけたたましく鳴り始めました。地表近くの空間線量は98 μSv /h、ホットスポットです。通常ならキビタキやオオルリなど夏鳥のさえずりが聞かれるのですが、まったく確認することができませんでした。
赤宇木地区は、キジやモズ、また猛禽類のノスリが多く、一方、ツバメやキビタキ、オオルリなどの夏鳥はほとんど確認できませんでした。その理由としては、田んぼが放置され草地化が進むことにより、開けた草地を生息環境とするキジやモズが増えたのに対し、巣材の泥が取れず人もいないことでツバメは減少していると思われます。
ノスリが増えているのは、草地化によりエサとなるネズミが増えていることが考えられます。キビタキやオオルリが少ないのは、チェルノブイリでは事故後放射性物質の影響により、昆虫類が少なくなった報告もあることから、その影響が考えられます。また、里山に人手が入らなくなったことにより樹冠が覆われ、採餌空間が少なくなったことがキビタキの少ない要因かもしれません。いずれにせよ今後の調査が待たれます。
最後に浪江町の市街地を訪ねました。空間線量は2 μSv /h以下です。おどろいたのはある商店の倉庫から30 羽以上ものハシブトガラスが次々飛び出してきたことです。中はうす暗く強烈な腐敗臭がしていたので、恐らく何か食べるものがあるのでしょう。市街地ではたくさんのハシブトガラスが確認され、ツバメは2巣しか確認できませんでした。人のいないこの場所で、ツバメの卵やヒナはカラスによる強い捕食圧を受けていると思われます。

今回の取材では、野鳥の異常個体は確認されませんでした。しかし、人の営みが途絶えることにより環境が大きく変化しそれに伴い、生息する野鳥の種類や数が大きく変化していることを確認することができました。
今後も引き続き、帰還困難区域における野鳥の生息状況や異常個体の有無を確認していきます。


赤宇木地区の集落。水田は放置されて、草地化が進む。

赤宇木地区の山林。ホットスポット。線量計は94 ・22 μSv /hを示した。



市街地には、ハシブトガラスが群れる。

赤宇木地区の山林。飯舘村へ抜ける道は線量が高く、封鎖されている。場所を確認する調査員。


注1: 浪江町(福島第一原発から北西側約30 ㎞圏内にあり、町の西部から北西部にかけてが帰還困難区域となっている)
放射線量マップの作成については、ポニー工業株式会社の測定機器「ホットスポットファインダー(http://www.ponyindustry. co.jp/product.html?pid=133)をお借りしました。また、作図作成にもご協力いただきました。
(文・写真=山本 裕 自然保護室)