「伊豆沼・内沼」の湖畔に計画されている温泉計画に対する要望書

日野鳥発第69号
平成18年3月10日

宮城県知事
村井 嘉浩 様

東京都渋谷区初台1-47-1
小田急西新宿ビル1F
財団法人 日本野鳥の会
会 長 柳生 博

「伊豆沼・内沼」の湖畔に計画されている温泉計画に対し、
土地の掘削の許可を出さないよう要望します

日頃より、環境行政にご尽力いただきありがとうございます。

 さて、ラムサール条約湿地である「伊豆沼・内沼」(宮城県栗原市・登米市)の湖畔に計画されている民間の温泉施設建設のための温泉掘削許可申請が出されている件に関し、以下のように要望いたします。

「温泉排水の流入によるラムサール条約湿地の環境汚染の恐れ」を、温泉法第四条1項2条で定める「公益を害するおそれ」として認め、温泉法第三条の許可を出さないでいただきたい。

理由は以下のとおりです。

  1. ご承知のとおり、伊豆沼・内沼は、マガンやヒシクイなどの水鳥が多数渡来する国内有数の生息地で、ラムサール条約湿地に登録されています。また、世界的な保護のネットワークであるIBA(重要野鳥生息地)にも登録されるなど、世界的にも重要な自然環境となっています。しかし、今回の温泉が掘削され、塩泉の温排水が伊豆沼に排出されることになれば、沼の生態系に重大な悪影響を与える恐れがあります。これは、ラムサール条約が定める「ワイズユース」とは対立するもので、条約締約国の義務とされている湿地の保全に違反する行為と考えられます。
  2. 平成13年の温泉法の改正により、温泉法第四条1項2条として「公益」の条文が独立し、「温泉源保護」に関わる事柄に限定されず、温泉掘削許可の審査に関し行政庁は自然環境への影響を考慮に入れることが可能と考えらます(参考:「法学教室」No.284;演習・行政法,2004年5月、有斐閣)。
  3. 平成18年2月16日に開催された宮城県自然環境保全審議会温泉部会(沼沢光輝会長)は、「公益の侵害は、温泉源保護に限られる」とする過去の判例を参考としましたが、これを疑問視する意見が多数の委員から出され、ラムサール条約の趣旨を踏まえた知事の政治判断を求める付帯意見が付されています。過去の判例は、ラムサール条約湿地の自然生態系を破壊する恐れがある場合に関し、ラムサール条約との整合性を考慮したものではなく、新しい判断が求められています。
  4. 温泉法の所轄の面からみても、国では環境省自然環境局、都道府県では衛生部局から自然保護部局に所管替えになっており、自然環境への影響を考慮する流れとなっていることを勘案すべきです。

これまで、貴県がラムサール条約に果たしてきた重要な役割を想起し、貴職が賢明なる判断を下されることを切に希望いたします。

以上