泡瀬干潟の埋立て事業再開留保の要請

要請文

馬淵澄夫沖縄担当大臣に対し泡瀬干潟の埋立て事業再開を留保し、
次年度予算に計上しないことを要請しました

 2010年11月5日、当会は重要野鳥生息地(IBA)である泡瀬干潟の保全のため、泡瀬干潟を守る連絡会、WWFジャパン、日本自然保護協会、ラムサール・ネットワーク日本、泡瀬干潟を守る東京連絡会と連名で、馬淵澄夫内閣府沖縄担当大臣に対し、泡瀬干潟の埋立て事業再開を留保し、次年度予算に計上しないこと等を要請しました。

 要請文は以下のとおりです。

2010年11月5日

内閣府沖縄担当大臣 馬淵澄夫 様

沖縄県沖縄市の「東部海浜開発事業」(土地利用計画沖縄市案)への対応についての要請

泡瀬干潟を守る連絡会 共同代表 小橋川共男 漆谷克秀
連絡先 前川盛治(事務局長)

共同要請:WWFジャパン、(財)日本自然保護協会、(財)日本野鳥の会、
NPO法人/ラムサール・ネットワーク日本、泡瀬干潟を守る東京連絡会

 さる8月3日、沖縄県沖縄市の東門美津子市長より提出された「東部海浜開発事業」(土地利用計画沖縄市案)に対し、前原沖縄担当相(当時)は、その場で了承し、泡瀬埋立事業を進めることを記者会見で表明しています。私たちは、このような事態の急変に、大変驚いています。
この前原前大臣の対応は、これまでの民主党の政権公約(マニフエスト)に照らしても齟齬があり、国民・県民・市民の理解が得られるとは思えません。何故そのような対応になったのか、具体的、且つ合理的に国民へ説明する責任があると思われます。そして、控訴審判決に従い「相当程度に手堅い検証」を行うために、広く国民から意見を聞き、自然環境保全の政策に生かすべきだと考えます。
さらに10月17日~29日には、日本が議長国となり生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開かれました。議長国の責任を果たし、生物多様性の宝庫、泡瀬干潟を守るためにも、下記を要請いたします。
ご高配をよろしくお願いいたします。

1.緊急要請

(1) 沖縄市案について再考し、控訴審判決に従い、再度、相当程度に手堅い精査・検証を行うために、事業再開を「保留」すること。泡瀬干潟埋立問題について、幅広く国民の意見を聞き、今後の自然環境政策に生かすこと。
(2) 次年度の概算要求に、泡瀬埋立事業の予算を計上しないこと。
(3) 環境省が、2010年9月30日、泡瀬干潟等をラムサール条約登録候補地に選定していることから、泡瀬干潟を保全し、環境省、沖縄市と登録の協議・手続きを行うこと。

2.明らかにして欲しいこと

(4) これまで行われてきた泡瀬干潟埋立事業(1区・2区)の国支出金額は、国事業費308億円の内、219億円である。新しい沖縄市案は面積が半分になったのに、新たな国建設投資額(埋立に係る費用)357億円は理解できない。詳細を明らかにすること。
(5) 沖縄市事業に対する国庫負担分125億円は、支出することを確約されているのか、明らかにすること。
(6) 沖縄県事業306億円に対する国庫負担分を明らかにすること。
(7) 国財政が厳しい時、疑問の多い事業に、国負担(予想634億円)の支出が妥当なのか、説明すること。
(8) 提出された沖縄市案を数ヶ月に渡って何度もつき返したとあるが、当初の沖縄市案のどの部分がブラッシュアップされたのか、経緯を明らかに示すこと。また沖縄県の有識者からも意見を聞いたとあるが、その有識者の氏名を公表すること。

以上

【参考までにこれまでの政権公約、泡瀬干潟政策、今回の決定の問題点を指摘します】

政権公約等

1. 政権公約・マニフエスト: 「コンクリートから人へ・・・ 無駄な公共事業を中止する」
2. 民主党政策集インデックス2009・環境調和型公共事業:
諫早湾干拓事業や吉野川河口堰改築事業、泡瀬干潟の干拓事業など環境負荷の大きい公共事業は、再評価による見直しや中止を徹底させます。
3. 民主党・沖縄ビジョン(2008):
泡瀬干潟埋立事業は、特別自由貿易地域(FTZ)新港地区の浚渫土砂の受入れ場としての事業となっており、港湾事業と共に計画を見直す必要がある。現在、FTZ新港地区の分譲用地に立地している会社は僅か6社で、・・・・分譲率は僅か2.1%であり、計画は頓挫。また、干潟の保全により沖縄の海を守ることは観光振興においても不可欠の要素である。・・・「埋立事業中止」を含めて「一期中断、二期中止」など見直す。

政権発足直後の泡瀬干潟政策

政権発足直後の2009年9月には、前原沖縄国土交通大臣(当時)は、「(東部海浜開発事業)1区中断・2区中止」を表明し、今後は、泡瀬裁判の控訴審の結果も見ながら対応するとしていました。
そして、2010年3月の参議院沖特委では、「泡瀬埋立事業と新港地区東埠頭浚渫とはリンクさせない」「(沖縄市案が提出されたとき)経済合理性があるかどうか、厳しくチェックし対処する」と答弁されていました。

問題点

1. 控訴審(2009年10月15日)は、「泡瀬干潟埋立事業に経済的な合理性はない、公金を支出するな」でしたが、判決ではまた、「新たな土地利用計画に経済的合理性があるか否かについては、従前の土地利用計画に対して加えられた批判を踏まえて、相当程度に手堅い検証を必要とする」とも指摘しています。今回の前原大臣の対応は、判決の趣旨に合いません。
2. 8月6日の記者会見では「数ヶ月にわたって、何度も突き返し、有識者の方々からの意見を加味する中で、更なるブラシュアップをお願いした」と説明していますが、内容が明らかでなく、説明責任を果たしておりません。。
3. 「干潟の消失面積が泡瀬干潟全体の2%未満に留まることは理解」として、環境への影響が少ないかのように評価していますが、それは誤解と思われます。1区域は、豊かな海草藻場、サンゴ群落、新種・貴重種・絶滅危惧種の生息場所であり、1区の埋立で自然環境が破壊され、周辺海域の環境が劣化していることは、日本自然保護協会、泡瀬干潟を守る連絡会等の調査でも明らかです。干潟とそれに続く浅海域(1区)が一つの生態系をなし、干潟の浄化機能、環境保全がなされていることは、科学的な常識です。環境省は、9月30日にラムサール条約登録湿地の候補地として、泡瀬干潟等全国から172箇所を選定しています。泡瀬干潟は、国際基準9の内4つの基準を満たす種の多様性の宝庫です。
4. 提出された沖縄市案を、「需要予測や施設規模については堅めの想定がなされている、雇用や生産の面で相応の開発効果が期待されている、将来の市財政への影響も一定範囲に留まることが分析されている」と評価しているが、沖縄市案は、市民への説明も一切なく、市議会や市長選で東門氏を支えた4党との協議もなく、一方的に大臣に提出されました。地元マスコミでも「経済的合理性があるかどうかの検証がなされていない」と指摘され、県内の有識者からも経済的合理性について疑問の声が多く、肯定的な意見はありません。
5. 国交省は、全国の103の重港湾から42港を重点港に指定する作業を進め、2010年7月末の時点で、「中城湾港」は除外で確定していました。しかし、沖縄県知事の要請で、「中城湾港」が重点港に復活しました。この経過には、普天間基地の辺野古移設とのかかわりが指摘され、疑問が抱かれています。
6. 沖縄市案の問題点は、別紙「沖縄市案に経済的合理性の無いこと 泡瀬干潟を守る連絡会の見解 2010年9月24日」をご参照下さい。