豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業環境影響評価準備書への意見書

2011年2月24日に愛知県企業庁が作成、公告・縦覧した豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業の環境影響評価(環境アセス)準備書に対して、公益財団法人日本野鳥の会と日本野鳥の会愛知県支部は、野鳥保護の観点から、以下のような意見書を提出し、絶滅危惧種を含む里山生態系について定量的な評価に基いて、その維持・復元を行うことを求めました。

準備書は愛知県の以下のページに掲載されています。
http://www.pref.aichi.jp/0000038085.html

意見書

平成23年4月7日

氏名 公益財団法人 日本野鳥の会 理事長 佐藤仁志
住所 141-0031
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
氏名 日本野鳥の会愛知県支部 支部長 新實 豊
住所 462-0844
名古屋市北区清水5丁目10-8 グリーンフェロー3A
準備書の名称 豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業環境影響評価準備書

環境の保全の見地からの意見及び意見の理由

意見1.絶滅危惧種種を含む里山生態系の保全・復元を、定量的な評価に基づいて行うべきである

理由

  • 本準備書において、事業実施地とその周辺の自然環境は、ミゾゴイ、ハチクマ、サシバ、ヨタカをはじめとする多くの絶滅危惧種の繁殖地あるいは生息地として重要な場所であり、貴重な里山環境が維持された生物多様性の非常に高い地域であることが評価されたものと考える。
  • しかしながら、本準備書の記述は貴重な環境の保全措置において定性的な記述に留まり、それぞれの種の生息要求を、植生や面積において十分代償できるかどうか評価できるものになっていない。
  • 環境保全措置にあたっては、定量的な評価を行った上で、代償が不可能であれば事業は中止すべきである。または、事業実施地内に限定せず、周辺環境を含めた代償措置を生息環境が向上する前提で検証し、確実に実施すべきである。
  • 本会は、前述の絶滅危惧種を含む里山生態系について定量的な評価に基いて、その維持・復元を行うことを強く要望する。

意見2.ミゾゴイの保全のため、林縁部の水田環境を含む行動圏調査及び広範囲における調査を行うべきである

理由

  • ミゾゴイの行動圏について、赤外線カメラの調査結果が掲載されている(準備書本編661ページ、資料編428ページ)が、すべての設置位置が示されていないため、記録されなかった位置がどこであったかが不明である。ミゾゴイは、林縁部や水田のあぜで採食することも知られており、隣接する水田で採食しなかったかどうかが明らかではなく、本準備書では評価できない(本編663ページ)。従って、本編672ページの予測結果において「生息環境の変化は小さい」としている結果について検証できない。
  • ミゾゴイの育雛期の主要な餌と目され、ブラインド観察で確認されているミミズ(本編662ページ)の給餌量及び採捕場所が示されていないため、行動圏範囲の推定が妥当かどうかについて判断できない。
  • 環境保全措置の実施方法(本編583ページ)は、「対象種の営巣期には、必要に応じ、工事の部分的な一時中断や作業員の営巣場所付近への立入を制限するなどの工事内容を配慮する。」とあるが、立入制限の範囲を決める際に必要となる行動圏及び行動圏面積のデータが示されていなため、工事による影響を回避できるかどうか判断できない。
  • 営巣適地の周辺の水田において、行動圏を把握したかどうかを示すべきである。また、もしこれが行われていない場合は、評価と予測に耐えるデータをとるための調査を改めて行い、評価書に反映させるべきである。
  • ミゾゴイの広範囲における鳴き声調査は、平成22年度しか行われていない(準備書本編508ページ)ため、現状では対象事業実施区域を含む周辺一帯における年による渡来数及び生息数の変動を把握することができない。
  • 従って、広範囲の調査を数年追加して行うべきである。
  • なお、資料編425ページのデータは、年号と天候の記載を欠いているので記述すべきである。

意見3.サシバに対する予測と環境保全措置を、定量的なデータに基づいて評価すべきである

理由

  • サシバの繁殖を確保するための環境保全措置検証にあたって、採餌環境の解析が行われている(本編652ページ)が、単に主要行動圏内の面積が示されているだけで、サシバの1ペアが繁殖するために必要な水田環境や樹林等の面積や林縁長がどのくらい必要かについて、具体的な数値が示されていない。また、環境保全措置で述べられている施設完成後の「水田・湿地環境の創出・向上」や、「樹林環境の創出・向上」によって、それぞれの既営巣地でその面積・距離が満たされているのか判断すべき数値が記述されておらず(本編731ページ)、この環境保全措置が適当であるかどうか検証することが不可能である。
  • さらに、採餌環境の変化があるとされた3ペアのうち、何ペアが環境保全措置によって保全できると予測されるのかについても示されていない。
  • ほとんどのサシバのペアの主要行動圏には、対象実施区域外の周辺地域も含まれている。周辺地域の水田等が、今後も維持される保証はないのに、このことに関する対応策が欠如している。
  • サシバの環境保全措置の前提となる生息環境要求の解析について、上記の観点からやり直し、「水田・湿地環境の創出・向上」「樹林環境の創出・向上」について、どのような面積において現状よりどの程度の向上が見込まれるかといった、定量的な根拠を示すべきである。
  • その上で、敷地内だけで十分な(現状に安全範囲を見込んだだけの)餌量が「水田・湿地環境の創出・向上」により確保できなければ、事業を中止するか、あるいは、周辺地域において餌量を確保できるような生息地の保全を行うべきである。
  • 本編697ページに挙げられた不確実性をカバーするため、上記のような定量的な評価を経た後、造成前に環境保全措置を行うとともに、代償処置が確実に実行されているかどうかを検証するため、サシバに関する地元の有識者を含めたモニタリングの委員会を設置し、必要に応じ指導助言を行うシステムを整備すべきである。

意見4.オオタカ、アオシギ、ヤマセミ、アカショウビンの生息状況の評価を修正し、環境保全措置について再検討すべきである

理由

  • 国あるいは県のレッドリストに掲載されている絶滅危惧種であるオオタカ、アオシギ、ヤマセミ、アカショウビンは「移動途中の短期利用する種」と評価され、「建設機械の稼働等」に伴う騒音による生息環境の変化が小さいという結論になっている。(本編564ページ)
  • オオタカは、周辺地域で繁殖しており、その行動圏の広さや環境要求を考えると、対象実施区域で今後繁殖する可能性がある。
  • アオシギは移動途中の一時利用ではなく、対象実施区域を越冬地として何個体もが利用していることを確認している。アオシギは世界的にも生息数が少ない種と言われているが、特に越冬期は単独で生活することが多く、生息の確認に技術を要することから、この地方での生息条件をよく理解している地元野鳥観察者の知識を生かした調査による確認が必要である。(本編538ページ)
  • ヤマセミは対象事業実施区域では記録されていないことになっているが(本編540ページ)、使用されたヤマセミの巣穴を確認している。ヤマセミは、対象実施区域に巣穴があることから、用地内を含む一帯がヤマセミの営巣エリアと認識するべきである。現在愛知県内で繁殖が確認されているヤマセミは10ペア以下で、保全の必要度は高いと考えられる。
  • アカショウビンは移動途中と断定されているが(本編569ページ)、事業実施地周辺で繁殖しており、繁殖期の確認があれば事業実施地内で繁殖していることは十分考えられる。当地方におけるアカショウビンは繁殖期の一時期のみよく鳴くが、それ以外の時期はほとんど鳴かない。これは、当地方では生息数が少なく、テリトリー宣言の必要性が小さいと考えられる。
  • 従ってこれらの絶滅危惧種については、生息状況について必要なデータを揃えた上で生息状況の評価と予測をやり直し、環境保全措置の対象とするべき。
  • またこれらは、絶滅の恐れのあるというだけでなく里山環境の生物多様性を評価することができる種でもあるので、この観点からも事後調査対象種に入れるべき。

意見5.ヨタカの予測結果の誤りを修正すべきである

理由

  • ヨタカに関する予測結果として、「~非改変区域の本種が生息する樹林は、保全されるとともに~外周部等に残地森林等を配置するなどの配慮を実施することから、生息環境の変化は小さいと考えられる。」とある(本編569ページ)。
  • しかし、ヨタカは林縁から草原において営巣し、採食する種であるため、この予測は誤っている。
  • ヨタカは、国及び県のレッドリストにおいて絶滅危惧Ⅱ類に指定されており、その急激な減少から絶滅が心配されている種である。県内においては、工業用地や住宅用地等の開発により、特に危機的な減少傾向をみせている。このため、生息環境の創生や光対策など適切な配慮がなされなければ、姿を消す可能性が非常に高い。
  • 従って、上記の誤りを修正するとともに、サシバと同等の調査を行った上で環境保全措置を講ずるべきである。

意見6.コサメビタキの行動圏調査をするとともに環境保全措置について定量的に評価すべきである

理由

  • 愛知県レッドリスト準絶滅危惧であるコサメビタキは、改変区域で延べ36地点、非改変区域で延べ28地点で生息が確認され、生息環境の変化があることを認めている(本編571、587ページ)。本種にかかる環境保全措置は、植生転換による広葉樹林化により、生息環境の変化が低減できると記述されている(本編587ページ)。
  • しかし、コサメビタキの行動圏や必要な環境要求についての調査が行われておらず、その生息環境に関する定量的な評価ができていない。
  • また、どのような樹種構成の広葉樹林であれば生息可能であり、広葉樹林化がどの程度の期間必要であるのかも述べられていないため、環境保全措置として適切かどうかが評価できない。
  • 従って、改変区域で生息(繁殖)できなくなる36地点のつがいが、非改変区域の植生転換ですべて移動できる面積が確保できるかどうかの予測は不可能である。
  • コサメビタキについて定量的なデータに基づく環境保全措置を講ずるべきである。

意見7.事後調査・環境監視計画は透明で公正な委員会による評価を継続的に行うべき

理由

  • この事業における環境保全措置案には植生の誘導目標が明示されているが、この達成には20年もの時間を要し、施業後約20年目に植生遷移の把握のためのモニタリング調査を行うと記述されている。(本編745ページ)
  • しかし指標となる種のモニタリング調査は「適宜実施」としか記述されておらず、またその調査結果を実際の環境保全措置にどう評価しフィードバックしていくかがあいまいである。
  • サシバ、ミゾゴイ、オオタカ、アオシギ、ヤマセミ、アカショウビン、ヨタカ、コサメビタキといった環境保全措置の対象となり、また里山の指標となる種について、この20年間に継続的に毎年、事後調査を行い、評価を行って順応的な管理をして行く必要があるのでこれを明記し実施すべき。
  • 目標通りの環境が創生され、生態系や生物の生息環境が確保されていくかどうかを監視・指導するため、地元の鳥類の有識者を含めたメンバーによる公正で透明性の高いモニタリングの委員会を設置し、モニタリング調査の結果を評価し、必要に応じ指導助言を行うシステムを整備すべきである。
  • 今まで本事業に関連して設置されたアドバイザリー会議や技術保全検討委員会には、地元の野鳥に詳しい観察者が入っておらず、当地方の野鳥の生態に即応した環境保全措置の微修正、順応的な実施は現状では期待できない。
  • 今後の事後調査の実施、評価や環境監視においては、当地に生息する野鳥の生態について熟知している愛知県野鳥保護連絡協議会のメンバー等の入った委員会を設置し、自然環境の保全に万全を尽くしていただきたい。

意見8.「新たな取り組み」における里山環境の保全管理活動について環境影響評価上の位置づけを明確にすべき

理由

  • 本編735ページ以下「新たな取り組み」において、対象事業実施区域及び周辺地域における里山環境の保全管理についての目標像と基本方針が記述されているが、これらの環境影響評価上の位置づけが明確でない。
  • 対象事業実施区域における環境保全措置、及び区域内だけでは達成できない環境保全措置の一環であるならば、そのことを明確にし、実施目標を定量的な評価に基づいて具体的に設定すべきである。
  • またその達成を評価し順応的に管理していくため、現地の自然環境に詳しい観察者が参画した、公正で透明性の高い評価委員会を設置し、適正な環境保全措置を監視するべきである。
  • 対象事業実施区域周辺の里山環境の保全管理について、一過性のものではなく、持続的な循環利用のモデルを提示すべき。里山の生産物に対する経済的な誘導措置といった手法も検討すべき。

意見9.新規のアクセス道路は作るべきでない

理由

  • 準備書には、開発予定地までのアクセス道路に関しては何ら触れられていないが、第2東名からのアクセスのための道路を新設することが考えられる。
  • このアクセス道路については、どのルートを通るにせよ本事業と同等、あるいはそれを超える野生生物生息環境の破壊を伴うものと考えられ、本事業との複合的な環境影響も予測される。
  • 現状で本準備書に影響評価がない以上、新規のアクセス道路は作るべきではない。

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