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- 生息環境をそのまま保全する シマフクロウのための野鳥保護区
生息環境をそのまま保全する シマフクロウのための野鳥保護区
文=松本潤慶(保全プロジェクト推進室)
シマフクロウの個体数回復に向けて

明治時代までは北海道全土に約1千羽いたといわれるシマフクロウは、1980年代には100羽以下までに減少しました。しかし、1993年に開始された国の保護増殖事業や、それ以前から行なわれていた関係者の取り組みにより、2017年には約160羽まで個体数を回復しました。
減少の大きな要因は、土地の開発等によって、繁殖のために必要な樹洞を持つ天然の大木が減少し、河川環境の悪化で餌となる魚が少なくなったことでした。そのため、絶滅が危惧される本種への緊急措置として、環境省を中心に道内に200か所の巣箱と12か所の給餌場が設置されたことが、個体数回復に直接つながったといわれています。
当会は、2004年から独自の活動として、道内にシマフクロウのための野鳥保護区(※)を設置しています。今ある生息地を開発から守り、巣となる希少な大木や餌の捕れる環境を
保全していくためには、土地を購入してしまうことがもっとも確実な方法だからです。現在は道内に14か所1千8haの野鳥保護区を設置し、11つがいの生息環境を保全し、定期的にヒナが巣立っています(写真2・3)。
保護区設置の2つの目的
シマフクロウの保護区設置には、2つの目的があります。繁殖地の保全と分散地の確保です。シマフクロウはつがい単位でなわばりを形成します。1組のつがいには、巣となる直径1m以上の樹洞のある大木が3~4本あり、充分な餌を捕るために10㎞ほどの川に沿って広がる針葉樹と広葉樹が混ざった森が必要です。まずはこうした条件を満たし、現在繁殖地になっている土地を保全することが、1つめの目的です。
また、非常になわばり意識の強いシマフクロウは、わが子であっても自分のなわばりに入ることを許さないため、若鳥は巣立ち後、新たに自分の生息地「分散地」を探さなければなりません。せっかく新しい命が誕生しても分散地がなければ、個体数の増加は望めません。分散地が見つからず、両親のなわばりまたは近隣地に留まってしまうと、両親であるつがいは、若鳥の追い出しに労力がかかって次の繁殖に失敗したり、近親交配が起こることもあります。そのため、若鳥の分散地になり得そうな土地を確保することが2つ目の目的です。
NGOだからこそできる保護区設置
国立公園や鳥獣保護区など法的な力で保全されている生息地もありますが、当会が保護区としているのは、そうした公的な保護指定の網からもれて、開発の危機にある民間所有の比較的小さな森で、そうした森を購入し、保護しています。森をつなげるように確保していくことで、若鳥の分散がより確実になるという効果もあります(図4参照)。土地購入にあたっては、国や研究者からの情報を元に、現在の繁殖地や分散地の条件を満たし、法的に守られていない場所を洗い出し、さらに周辺調査を行ないます。その中で、保全の緊急性などの諸条件から選定した土地について、所有者の方と交渉を行なっています。
かつて、当会所有の野鳥保護区に隣接する私有林が、突然、境界線ギリギリまで皆伐されてしまったことがありました(写真6)。こうした事態を防ぐためにも、現在の繁殖地や、今後分散地となりうる土地を少しずつでも所有者から買い取ったり、協定を結んだりして保護区を設置しているのです。
シマフクロウの生息地について、情報収集及び調査をし、その生息地の買い取り条件を精査したうえで、交渉、買い取りを行なう、さらに買い取って野鳥保護区とした後は、巡回や繁殖に必要な環境整備、モニタリング調査を定期的に行ないます。これら一連の活動を総合的かつ迅速に行なえることが、私たち日本野鳥の会ならではの強みです。
土地購入の資金をはじめ保護区の調査や管理にかかる費用は、すべて支援者の皆さまからの寄付で支えられています。シマフクロウを絶滅の危機から救うために、皆さまのご支援をよろしくお願いいたします。

①シマフクロウ
両翼を広げると180㎝になる世界最大級のフクロウ。かつては北海道全域に分布していたが、現在は東部の知床、根室、日高地域などで見られるだけになってしまった。川、湖沼で魚類やカエルなどを捕食し、広葉樹の大木の樹洞に営巣する。絶滅のおそれが最も高い絶滅危惧ⅠA類
②2016年に当会が設置した巣箱。翌年、この巣箱から1羽のヒナが巣立った
③野鳥保護区の給餌いけすに現れた幼鳥と親鳥。給餌で繁殖成功率があがることがわかっている
④シマフクロウ保護区のイメージ
現在ある生息地と生息地を結ぶ場所に、若鳥が定着できる森を保全し、分散を容易にする
⑤シマフクロウのための野鳥保護区の様子。森林の中に、餌が捕れる川を有している
イラスト:安斉 俊
⑥赤い印より右側が当会の野鳥保護区。同じように樹木があった隣地は、境界線ギリギリで皆伐されてしまった。民有地ではいつ森が伐られてしまうかわからず、止める術もない
※ 野鳥保護区
当会が、タンチョウやシマフクロウなど希少種の生息地を買い取り、保護区としている地区のこと。ここではシマフクロウの保護区をさす
◎画像は調査の過程で記録用として撮影したものです
福島の声―3・11から7年 忘れないで。 福島に来て、現地を見てほしい
文=柵さち子 会員室

①帰還困難区域の風景。震災直後から放置されて、時間が止まったまま。田んぼだったところには木が生え、茂ってきている
激減した福島関連のニュースと現状
ここ数年、テレビや新聞での東日本大震災の被災地や福島第一原発についての報道が少なくなりました。また、放射能漏れ事故への明確な対応策がないまま、再稼働を開始した原子力発電所もあります。日本野鳥の会では、地元の生の声を知ってもらおうと、独自の放射線調査の結果や地域の人々の声を発信し続けています。昨年春、南相馬市や浪江町、飯舘村、富岡町の避難指示区域の一部が、追加解除されたのを受けて、現地を取材してきました。
避難指示解除を受けて、人は戻ったか
宮口勝美副町長によると、浪江町の居住人口は、今年2月時点の約500人から3月には約700人へと増加しました(震災前は約2万1千人)。これまでは子どもを通わせる学校がないことで、戻るに戻れなかった若い家族が、4月から学校を再開したことで、戻ってきてくれたのではないか、ということでした。現在の児童数は、小学校8人、中学校2人、隣接するこども園などに13人と少ないですが、今後、増えていくことを期待しているということです。
福島における食材の放射線量の検査は、非常に厳格に行なわれています。しかし、食の安全が実証されていても、福島県産食材への風評被害には、根強いものがあります。2014年から毎年、実証栽培で作っている浪江町産のお米からは、放射能は不検出でしたが、なかなか売れませんでした。しかし、復興支援として販売をしてくれるNPO団体の協力が得られ、すべて完売したそうです。
避難住民の多くが農家や漁師だったことを考えると、風評被害は深刻な問題です。生産物が売れなければ、生計が立てられません。住民が帰ってくるには、産業が成り立ち、雇用も担保され、医療施設や買い物環境が整うなどソフト面の充実が必要でしょう。しかし、人がたくさんいないと商業も成り立たず、逆に商業施設などが整わないと、人も戻ってこないという悪循環が改善できていません。宮口副町長も、道路整備や除染などのハード面は、国の援助などもあり、行政でカバーできるが、商業などのソフト面には手が出せず、もどかしい、とおっしゃっていました。
6年の空曰。無人状態が復興をさまたげる
南相馬市においても同様で、「人が先か商業施設が先か」という状況が続いています。街並みだけを見れば、震災前に戻ったところもありますが、人口も、賑わいもまだまだ戻っていません。漁師の佐藤敬次さんと蒔田豊美さんによると、震災翌年から開始した試験操業においても、福島漁連は国が定めた基準値(100ベクレル)よりも厳しい50ベクレルをクリアした魚種を出荷してきました。請戸(うけど)漁港は昨年9月に開港しましたが、船を出しても、福島産ということで魚が売れない状況が続いています。
結局、生計が成り立たないので、帰還できるのは年金で生活できる高齢者が多い、という声もあります。南相馬市役所では、働き盛りの世代の雇用確保のために、風評被害に影響を受けることがなく、機械工業が盛んな市の特性も活かすことができる「ロボット産業」を推進すべく、津波被害を受けた海岸沿いの萱浜(かいばま)地区に、約12haという広大な復興工業団地建設を予定しています。
帰還困難区域の静寂と、動物や自然の状況
当会では、野鳥への放射能の影響を継続して調査しています。今回も許可を取り、浪江町の2つの帰還困難区域に入りました。家々はイノシシに侵入され、見るも無残に荒らされていました。人間がいなくなった里に、本来奥山にすんでいるニホンザルやイノシシが進出し、ツバメの姿は見ることができませんでした。一方、避難指示解除区域では、人が戻ってきたことでツバメも少しずつ戻り、かつて出没していたイノシシも見かけなくなりました。
現地の望みでもあり、だれにでもできる応援は、現地を訪問することです。帰還困難区域以外は、だれでも訪問し、観光できます。現地に宿泊し、お土産を買うことも復興に貢献します。そして、自分の目と耳で感じた福島の現状を、現地から遠く離れた周囲の方々に、ぜひ伝えてほしいと思います。

② 阿武隈山系を源流とする高瀬川渓谷は、震災前までは福島県で有数の景勝地として知られていた。以前よりも放射線量は減っているためか、キビタキなどの野鳥が戻ってきているようだ
③ 帰還困難区域の1つ、浪江町小丸内にて。このポイントは、当会の調査員が知るなかで最も線量の高い地点。表示されている数値は、99.3マイクロシーベルト毎時。水素爆発時に何か高線量の発生源が飛んできたのかもしれない
④ 無人となった帰還困難区域の住宅地には、サルが山から下りてきている
避難指示区域の解除の要件(一部抜粋)
「空間線量率で推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実であること」
「日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスが概ね復旧すること、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること」
身近な野鳥にバードストライクの危険性 急増する小型風力発電
文=浦達也 自然保護室
原発から自然エネルギーへの転換

小型風力は、発電量が20 kWh未満、支柱の高さ20mくらい、羽の直径15~16mを基準とする。小鳥類がバードストライクに遭った場合、死骸がすぐに他の生きものに食べられてしまうなど痕跡が残りづらいため、実態が把握しにくい。写真は北海道根室市内。
※1小型風力発電
1基の発電量が20 kWh未満で、風車直径が16m以下をさす
※2固定価格買取制度 再生可能エネルギーの導入推進のため、風力や太陽光などで発電された電力を、一定期間、国が定めた金額で買い取る助成制度。略称FIT
東日本大震災以降、東北地方の被災地をはじめ、安全でクリーンな太陽光発電や風力発電への期待が高まり、設置に拍車がかかっています。そのこと自体は歓迎すべきことです。問題は、これら自然エネルギーの発電施設が、皮肉にも、自然環境の破壊や、野鳥をはじめとした生きものを圧迫してしまう例が多く報告されていることです。
当会では、「ほんとうに自然にやさしい自然エネルギー」への改善を目指して、2001年以来、各地で建設されている風力発電施設について、自然環境や鳥類への悪影響を最小化するための方法論と法整備への働きかけを行なってきました。
その結果、法令の改正が実現し、2012年から、発電量が1万kW以上の風力発電施設の建設にあたっては、法による環境アセスメント(環境影響評価法)が義務づけられるようになりました。
買取価格の高値設定で、小型風力が建設ラッシュ
しかし、2016年以降、環境影響評価法の対象にならない発電量20 kWh未満の「小型風力発電(※1)」の設置が、北海道や青森県の一部を中心に急増してきました(図1)。急増の背景には、国の固定価格買取制度(※2)が大きく関係しています。
小型風力発電の買取価格は、2017年度まで55円/kWhと、他を抜きん出て高値でした(発電量20 kWh以上の風力発電施設は20円/kWh)。さらに小型の場合、設置時に工事の届出をする以外の許可申請やアセスメントの必要もなく、設置費用が安価で、工事期間も1~2か月程度と短いことから、建設ラッシュを招いています。

施設の大規模化と自然環境への影響
急増中なのは、上の写真のように発電量の合計が20 kWh未満になるよう5kWh級の風車×4基を少しずつ間をあけて、ずらりと建てる形式です。こうした風車が、海に面した手つかずの原野などに無秩序に立ち並ぶことで、景観が損なわれることはもちろん、野鳥への影響も懸念されます。
環境アセスメントの対象になっている大型風車では、羽根が回転している30~120mの高さを飛翔する猛禽類が、主にバードストライク(※3)に遭っています。一方、小型風車自体の高さは15~30m、地面から風 車の羽根までの高さは10mほどで、この高さを飛ぶのは、スズメサイズの比較的身近な小鳥類です。英国の長年の調査によると、小型風力発電は、大型よりもバードストライクによる野鳥の死亡率が上がるとされています(図2)。また、風車の設置箇所を決める根拠となる環境省発表の風況情報は、地表から50m近辺の風況であり、小型風力の場合は、それより下の地表に近い風を利用します。風は地表に近いほど乱流が起こりやすいため、思ったような規模で安定した発電をすることができず、経済的な利潤は見込めないだろうといわれています。
早急にアセスメントの義務づけを

※3バードストライク
ここでは、飛翔している野鳥が、風力発電用の風車の羽根に巻き込まれることをさす。写真は根室市内の大型風車に巻き込まれたオジロワシ
写真/渡辺義昭
こうした情勢を受けて、現在、道北を中心とする地元自治体では、「小型風力発電導入にあたってのガイドライン」の制定が相次ぎ、当会が独自に調査しただけでも、北海道、青森県を中心に30以上の市町村がすでにガイドラインを掲げています(表1)。
国も小型風力発電の導入時期が終了したとみなしたのか、2018年度からは買い取り価格を18円/kWへと急激に引き下げました。これで導入件数が減少する可能性もある反面、スケールメリットを図ろうと施設がより大規模化し、より無秩序な建設が広がる可能性も出てきました。
自然再生エネルギーの普及が、皮肉にも自然破壊につながらないよう、当会は小型風力発電での影響事例の把握に努め、それを基にガイドラインの制定、さらには条例による環境アセスメントを義務づけるよう、自治体に働きかけを行なっていきます。
Toriino(トリーノ)2018年の発行号
第46号 2018年3月発行号

表紙:田中一村
「不喰芋(くわずいも)と蘇鐵(そてつ)」
- 彩の章
- 写真:西川 孟
- 憶の章‐往‐
- 写真: 入江泰吉
- 憶の章‐還‐
- 写真:川田喜久治
- 流の章‐
- 写真・文:藤原新也
- 響の章
- 写真:星野道夫
身近な野鳥にバードストライクの危険性
急増する小型風力発電
文=浦達也 自然保護室
当会では、「ほんとうに自然にやさしい自然エネルギー」への改善を目指して、2001年以来、各地で建設されている風力発電施設について、自然環境や鳥類への悪影響を最小化するための方法論と法整備への働きかけを行なってきました。その結果、法令の改正が実現し、2012年から、発電量が1万kW以上の風力発電施設の建設にあたっては、法による環境アセスメント(環境影響評価法)が義務づけられるようになりました。
第47号 2018年6月発行号

表紙:田中一村
「白花と赤(あか)翡翠(しょうびん)」
- 彩の章
- 写真:西川 孟
- 憶の章‐往‐
- 写真:植田正治
- 憶の章‐還‐
- 写真:川田喜久治
- 流の章‐
- 写真・文:藤原新也
- 響の章
- 写真:星野道夫
福島の声―3・11から7年
忘れないで。
福島に来て、現地を見てほしい
福島の声―3・11から7年 忘れないで。 福島に来て、現地を見てほしい
文=柵さち子 会員室
東日本大震災から7年が経ち、被災地や福島第一原発についての報道が少なくなりました。また、放射能漏れ事故への明確な対応策がないまま、再稼働を開始した原子力発電所もあります。日本野鳥の会では、地元の生の声を知ってもらおうと、独自の放射線調査の結果や地域の人々の声を発信し続けています。今年5月に現地を取材したレポートです。
第48号 2018年9月発行号

表紙:田中一村
「枇榔樹(びろうじゅ)の森に浅葱斑(あさぎまだら)蝶」
- 彩の章
- 写真:西川 孟
- 憶の章‐往‐
- 写真:植田正治
- 憶の章‐還‐
- 写真:川田喜久治
- 流の章‐
- 写真・文:藤原新也
- 響の章
- 写真:星野道夫
第49号 2018年12月発行号

表紙:田中一村
「白梅に高麗鶯(こうらいうぐいす)」
- 彩の章
- 写真:入江泰吉
- 憶の章‐往‐
- 写真: 植田正治
- 憶の章‐還‐
- 写真:川田喜久治
- 流の章‐
- 写真・文:藤原新也
- 響の章
- 写真:星野道夫
生息環境をそのまま保全する シマフクロウのための野鳥保護区
文=松本潤慶(保全プロジェクト推進室)
シマフクロウの個体数回復に向けて
当会は、2004年から独自の活動として、道内にシマフクロウのための野鳥保護区(※)を設置しています。今ある生息地を開発から守り、巣となる希少な大木や餌の捕れる環境を保全していくためには、土地を購入してしまうことがもっとも確実な方法だからです。現在は道内に14か所1千8haの野鳥保護区を設置し、11つがいの生息環境を保全し、定期的にヒナが巣立っています。
小冊子『こんにちはスズメ』プレゼント!

私たちにもっとも身近な野鳥、スズメ。
彼らのこと、どのくらい知っていますか?
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『こんにちはスズメ』は、そんな知っているようで知らない隣人=スズメをテーマにした小冊子です。
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※尚、申し込みが多い場合、お届けまで時間がかかる場合もございます。ご了承ください。
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ご希望の冊子・資料名をご明記の上、お名前(フリガナ)・郵便番号・ご住所・お電話番号・この冊子をお知りなった媒体名(webサイト・新聞・雑誌・番組等の名称)を以下までおしらせください。
【郵便】〒141-0031品川区西五反田3-9-23丸和ビル 日本野鳥の会 普及教育グループ
【FAX】03-5436-2635
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シマアオジを 絶滅の危機から守る
文=葉山政治 自然保護室
シマアオジ
全長約15センチ。夏鳥として北海道の草原などに飛来。オスの夏羽は鮮やかな黄色が特徴。低木の枝や草にとまり、透明な美声でさえずる(写真/中野耕志)
シマアオジの世界分布
繁殖地は、東はロシアのサハリン、カムチャツカ半島、アムール地方から、西はフィンランドあたりまで、ユーラシア大陸の北側に広く分布する。繁殖地に比べて越冬地は狭く、中国南部、インドシナ半島、インド北東部など。日本国内では北海道のほかに、1976年に青森県むつ市で、1982年には秋田県の八郎潟干拓地で巣が見つかっている
渡り鳥「シマアオジ」の世界的減少
北海道の草原で繁殖する渡り鳥シマアオジは、現在、日本で繁殖する野鳥のなかで、最も国内絶滅の危機にある種の一つです。2016年、環境省が北海道内で過去にシマアオジの繁殖記録があった場所で確認調査を行なったところ、サロベツ湿原でわずか3つがいの繁殖が確認できただけでした。1970年に同じサロベツ湿原で行なわれた調査では、シマアオジはもっとも数の多い種であり、繁殖も牧草地、海岸砂丘の草地、湿原などさまざまな場所で行なわれていました。
北海道全域で見られていたシマアオジが、各地の観察会で見られなくなってきたのは、1990年代になってからです。環境省のレッドリストでも、1998年には準絶滅危惧種でしたが、2007年には絶滅危惧Ⅰ類となってしまいました。「草原のフルート奏者」とも呼ばれるその姿は、もはや見ることが難しい現状です。
シマアオジの減少は、世界的にも起きています。シマアオジの繁殖地は東アジアを中心に次第に広がり、20世紀半ばにはフィンランドまで達していました。越冬地は中国南部から東南アジアで、秋には数万羽規模の渡りの群れが中国で見られたそうです。しかし、1990年代になって、北海道のシマアオジの減少が指摘されはじめ、いくつかの調査研究が行なわれた結果、ヨーロッパでは80%以上も個体数が減少しており、一部の国では消滅していることも明らかになりました。
中国の捕獲で激減か
シマアオジが減少した要因の一つに、渡りの中継地である中国での捕獲が指摘されています。シマアオジは中国の稲の収穫期に群れで渡って来るため、古くから米を食べる害鳥として捕獲され、食料とされていました。1980年代以降の経済成長に伴って、中国では野生動物の売買が急増し、特にシマアオジは「空飛ぶ朝鮮人参」とも言われて人気があり、広東省ではシマアオジを食べる観光祭りが開催されるなど、大量に捕獲されていました。その後90年代にシマアオジの減少が指摘され、中国での捕獲や市場での売買が禁止されましたが、今でも違法な捕獲や闇市場での摘発が後を絶たない状況です。また、東南アジアの越冬地では、保護のレベルも低く、密猟も行なわれています。

①香港の市場で、12羽70香港ドルで売られていたシマアオジ(1997年撮影) 写真提供/シンバ・チャン(バードライフ・インターナショナル東京)
③サハリン北部で繁殖しているシマアオジは、日本で繁殖する種と近いと言われ、今後の保全計画に向けた調査が行なわれた
日本国内の保護増殖事業に向けて

②2012年に中国警察が発見した密猟現場。シマアオジが大群でねぐら入りするところを狙い、罠をしかけていた 写真提供/シンバ・チャン(バードライフ・インターナショナル東京)
2017年、中国では野生生物保護法が改正され、シマアオジの保護のレベルが上げられました。しかし北海道のシマアオジはすでに危機的な状況です。そこで今年から、バードライフ・インターナショナルと当会、ロシアの研究者でサハリンでのシマアオジの共同調査を開始しました。
サハリン北部で、現在でも相当数が繁殖しているシマアオジは日本で繁殖しているものと同じ亜種と言われており、万一、日本で絶滅した場合に、北海道に再導入しての保護増殖が可能な個体群と考えられます。そのため今回の調査では、北海道のものと遺伝的に同じものかをチェックするために羽毛や血液のサンプルの収集、渡りや翌年の繁殖地への帰還率を調べるためにカラーリングの装着などを行ないました。来年は渡りの経路を調べるためジオロケーターという小型の装置を取りつける予定です。同様の取り組みは、モンゴルやアムール川流域のシマアオジの繁殖地でも始められています。
こうした国家間協働の保護政策がスムーズに行なえるよう、当会ではシマアオジを「種の保存法」の国内希少野生動植物種に指定するよう国に提案をしてきましたが、まもなく指定される見込みです。日本の法律によって保護されている種であれば、今後、遺伝的一致が検証された場合には、サハリンの個体の日本再導入の可能性が見えてきます。また、日中、日ロの渡り鳥条約に基づく国際連携も可能となるでしょう。
NGOが着手したシマアオジ保全の取り組みですが、本格的な保護政策の第一歩を踏み出すことができました。シマアオジが奇跡の復活を果たせるよう、継続して活動を続けていきます。
渡り鳥の回廊 イスラエルレポート
文=安藤康弘 会員室室長
野鳥写真提供= Jonathan Meyrav(SPNI)協力=イスラエル政府観光省

①オオフラミンゴ
南ヨーロッパ・アジア南部に分布し、一部は渡りをする。ヨーロッパフラミンゴともいう。
2017年3月、イスラエル訪問の機会を得た。この時期、イスラエルは猛禽類を中心に渡り鳥が多数通過することで知られ、これに合わせて、南部の町エイラットにて「エイラット・バードフェスティバル」(今年は3月19 日~ 26 日)が開催された。その模様を取材した。
多様な環境に540種の野鳥が生息
地中海を挟み、ヨーロッパ・ユーラシア大陸とアフリカ大陸の間には、三つの主要な鳥の渡りルートが知られており、そのうちの一つのルート上に、イスラエルは位置する(上図参照)。イスラエルでは約540種の野鳥が記録されているが、そのうちの約280種、半数以上が渡り鳥である。また環境は、海岸、河川、湿地、湖沼、砂漠、森林と多様であり、それ故に観察される野鳥も、海鳥から山野の鳥まで多種多様である。
バードフェスティバルで募金活動
エイラット・バードフェスティバルは、多くの人々に野鳥や自然に親しんでもらうことのほかに、違法な狩猟の問題に対する保護活動のための資金調達をすることも、目的の一つである。目玉イベントである「チャンピオンズ・オブ・フライウェイ」は、世界中から集まった野鳥観察のエキスパートたちによってチームが編成され、24 時間の内に何種類の野鳥が見られるかを競うとともに、各チームはスポンサーを募って募金を集める。今回は18 チームが参加し、募金はトルコの野鳥保護団体を対象に、同国での違法狩猟を抑制するための教育啓蒙活動支援として集められた。

②エイラット山麓
エジプト国境の近く、ネゲブ砂漠の一部である荒涼とした山岳砂漠地帯。ソウゲンワシ、ヨーロッパノスリ、ヒメクマタカの群れが、稜線の向こうエジプト側から上昇気流に乗って、途絶えることなく鷹柱になって現れる。群れの中には、エジプトハゲワシ、カラフトワシ、ヨーロッパチュウヒなども混在し、多様な猛禽類が一度に見られる様子は圧巻。 Photo: Dafna Tal
③エジプトハゲワシ
西アフリカから南アジアに分布し、イスラエルは越冬期に南方に渡る際の中継地となっている。
④ソウゲンワシ
エイラットでは渡りの時期に、多数を見ることができるが、他の地域では少ない。
⑤カラフトワシ
イスラエルには冬鳥として渡来するほか、渡りの時期に観察することができるが、数は少ない
地中海周辺諸国が抱える違法狩猟問題
種の絶滅が危ぶまれる、生物多様性喪失の危機は、世界的に深刻な問題である。日本では、開発などによる野生生物の生息環境の消失、後継者不足等による里山環境の衰退、外来種の移入などが主な危機要因である。一方、ヨーロッパ、アフリカ大陸では、違法な狩猟が最も大きな危機要因となっている。国際環境NGO・バードライフ・インターナショナルの調べでは、地中海周辺諸国でわかっているだけで毎年2千500万羽の野鳥が違法に狩猟されているとし、このままでは種の絶滅が加速すると警鐘を鳴らしている。国別で見ると、エジプト、イタリア、シリア、レバノン、キプロスなどでその数は多く、狩猟の目的は、食べるため、スポーツハンティング、ペットにするためなどである。
この背景には、シリアをはじめ戦争や紛争状態にある国で、人が十分な食物にありつけない状況もある。
国境を越え、野鳥保護でつながる人々
イスラエルの国土は、紀元前、旧約聖書の時代からの歴史ある土地である。広大なネゲブ砂漠に立てば、悠久なる時間と自然現象の千変万化が、筆舌に尽くしがたいスケールで迫ってくる。そんな多様な野鳥が暮らす広大かつ豊かな環境を有しながらも、ヨーロッパ、アフリカ大陸における違法な狩猟の問題は深刻である。
バードフェスティバルで印象的だったことがある。それは「チャンピオンズ・オブ・フライウェイ」参加チームの一つに、パレスチナ自治区の自然保護団体のメンバーと地元イスラエル自然保護協会(SPNI) のメンバーで構成されるチームが、目的を一つにして参加していたことであった。彼らの国は互いに外交関係はないが、野鳥保護の目的のもと情報交換をしつつ活動を進めている、とのことだ。
渡り鳥に国境はない。渡り鳥を守るためには、国や人種の対立を超えて、国や地域が連携して活動を進めていくことが必要である。
野鳥は、また平和のシンボルでもある。今回のイスラエル訪問で、野鳥保護を通じて「平和」を体現する姿を見ることもできた。

イスラエルは、大陸間を行き来する渡り鳥たちの重要な中継地
エイラット
紅海に面するリゾート地で、猛禽類の渡りで世界的に有名なバードウォッチングサイト。春と秋の年2 回の渡りの時期には、ヨーロッパハチクマ、ヨーロッパノスリ、ソウゲンワシ、レバントハイタカなど100万羽以上が渡る。塩田ではオオフラミンゴの群れも見ることができる。
小冊子『ゼロからわかる バードウォッチングBOOK』プレゼント!

バードウォッチングをしてみたいけれど、
「何を持っていったらいいの?」「どこへいったらいいの?」「なかなか鳥がみつけられなくて…」などと思うことはありませんか?
そんなお悩みにお答えする小冊子、『ゼロからわかるバードウォッチングBOOK』を発行しました。道具や服装、野鳥を見つける・見分けるポイント、双眼鏡の使い方などを、イラストでわかりやすくご説明します。
在庫がなくなりましたので、この冊子の配布は終了しました。
[オオジシギ保護調査プロジェクト] オオジシギの渡りルートの一部が解明
文=竹前朝子 保全プロジェクト推進室
オオジシギの現状を知るために

①オオジシギは、日本で確認されているタシギの仲間の中で、唯一日本で繁殖する種。繁殖地では、電柱や杭の先などにとまり、大きな声で鳴く姿が見られる。
(撮影:髙﨑成人)
②勇払原野の湿原でオオジシギ捕獲の準備をする。勇払原野は工業地帯にありながら、台地、湿地、海跡湖、砂丘など多様な環境が凝縮された豊かな自然を持つ。
③この個体がはるかニューギニアまで追跡できた「73」。送信機は約5gで、体重の4%以下におさまるように、一定の体重以上の成鳥に装着した。
春の草原で轟音(ごうおん)を立て求愛飛行する姿が特徴的なオオジシギは、別名「雷シギ」とも呼ばれる渡り鳥です。4~6月にかけて北海道とサハリン南部を中心に、一部が本州、九州などで繁殖し、その後、オーストラリア東部に渡り、越冬します。環境省のレッドリストでは、準絶滅危惧種(NT)に指定されています。
北海道苫小牧市にある勇払(ゆうふつ)原野は、オオジシギの重要な生息地の一つです。日本野鳥の会では、2000年から勇払原野の保全に取り組んでおり、その一環として、2016年春、オオジシギの調査と保護を目的としたプロジェクトを開始しました。
オオジシギは個体数の減少が心配されるものの、調査データが少なく、近年の生息数も不明です。また、渡りの途中のオオジシギは、本州やフィリピンなどでわずかな目撃例があるだけで、大きな中継地などは見つかっておらず、渡りのルートについては、本州沿いに渡るコース、太平洋を真っ直ぐ飛ぶコースなど、さまざまな説がありました。
この鳥の具体的な保全策を立てるには、生息地や渡りの中継地の現状を知る必要があります。そこで本プロジェクトでは、まず渡りルートの調査に着手しました。
7日間ノンストップで太平洋上を飛行

図①「73」の移動軌跡。本州やフィリピンなど陸地が続く方面に向かわず、洋上の最短距離をほぼ真っ直ぐに7日間で南下した。
図②渡りの開始を確認できた4羽の軌跡。どの個体もまっすぐ太平洋へと飛び出していった。また「75」は勇払原野から北上し石狩平野へ、「74」は東の十勝平野へと移動し、そこでしばらく滞在してから渡りを開始したことがわかった。
2016年7月、勇払原野で繁殖を終えて渡りを始める前のオオジシギを捕獲し、5羽に衛星追跡用の送信機を装着しました。送信機から送られるデータは人工衛星を介し、数キロの誤差でその位置がわかります。7月12日に送信機をつけた個体「73」は、しばらく勇払原野周辺を行動範囲としていました。しかし、約2か月経った9月11日、伊豆諸島・鳥島の東840㎞の外洋上で、渡りを開始した後の最初の電波が確認されました。速度から推定して9月8日に苫小牧を出たと考えられました。
その後、この「73」は1日に900㎞近くを飛び続け、13日にはグアム島の西を過ぎ、15日に赤道を越え、16日にニューギニア島北岸へ到着しました。東経140度から149度の間をまっすぐ南下、7日かけて約6000㎞を平均時速38㎞/hで飛んだのです。その間、一度も陸地には降りませんでした。
残念ながら、その後電波が途絶え、越冬地までの全ルートは確認できませんでした。しかし、今まで仮説はあったものの、実証されていなかった北海道から太平洋ノンストップという渡りルートが、世界で初めて証明されました。
本プロジェクトは5年の計画で進めており、次年度は勇払原野で繁殖個体数の調査を行なう予定です。活動の様子はフェイスブック(日本野鳥の会 オオジシギ で検索)でも紹介しています。
◎このプロジェクトは、故・越崎清司様からのご遺贈を元に実施されています。
Toriino(トリーノ)2017年の発行号
第42号 2017年3月発行号

表紙:石踊達哉「しだれ桜」1992年
- 彩の章
- 写真:西川 孟
- 憶の章‐往‐
- 写真: 澤田教一
- 憶の章‐還‐
- 写真:川田喜久治
- 流の章‐
- 写真・文:藤原新也
- 響の章
- 写真:星野道夫
- 野鳥保護レポート
- [オオジシギ保護調査プロジェクト]
オオジシギの渡りルートの一部が解明
文=竹前 朝子 保全プロジェクト推進室
春の草原で轟音(ごうおん)を立て求愛飛行する姿が特徴的なオオジシギは、別名「雷シギ」とも呼ばれる渡り鳥です。北海道苫小牧市にある勇払(ゆうふつ)原野は、オオジシギの重要な生息地の一つです。日本野鳥の会では、2000年から勇払原野の保全に取り組んでおり、その一環として、2016年春、オオジシギの調査と保護を目的としたプロジェクトを開始しました。
第43号 2017年6月発行号

表紙:石踊達哉
「青海波松林図」2011年
- 彩の章
- 写真:西川 孟
- 憶の章‐往‐
- 写真: 川田喜久治
- 憶の章‐還‐
- 写真:野町和嘉
- 流の章‐
- 写真・文:藤原新也
- 響の章
- 写真:星野道夫
- 野鳥保護レポート
- 渡り鳥の回廊 イスラエルレポート
文=安藤康弘 会員室室長
2017年3月19日から26日にイスラエルの南部の町エイラットで開催された、「エイラット・バードフェスティバル」を取材してきました。取材を通じて、地中海市周辺諸国が抱える違法狩猟の問題や、国境を越え、野鳥保護を通じてつながる人々の姿を見ることができました。
第44号 2017年9月発行号

表紙:石踊達哉
「錦秋」4曲1双屏風(部分)2012年
- 彩の章
- 写真:西川 孟
- 憶の章‐往‐
- 写真: 入江泰吉
- 憶の章‐還‐
- 写真:川田喜久治
- 流の章‐
- 写真・文:藤原新也
- 響の章
- 写真:星野道夫
- 野鳥保護レポート
- シマアオジを 絶滅の危機から守る
文=葉山政治 自然保護室
北海道の草原で繁殖する渡り鳥シマアオジは、現在、日本で繁殖する野鳥のなかで、最も国内絶滅の危機にある種の一つです。シマアオジが減少した要因の一つに、渡りの中継地である中国での捕獲が指摘されています。シマアオジは中国の稲の収穫期に群れで渡って来るため、古くから米を食べる害鳥として捕獲され、食料とされていました。
第45号 2017年12月発行号

表紙:田中一村
「アダンの海辺」
- 彩の章
- 写真:西川 孟
- 憶の章‐往‐
- 写真: 入江泰吉
- 憶の章‐還‐
- 写真:川田喜久治
- 流の章‐
- 写真・文:藤原新也
- 響の章
- 写真:星野道夫







