よみがえれ! 豊葦原(とよあしはら)の鷹「チュウヒ」

チュウヒ写真:岡田宇司

肉食の猛禽類(もうきんるい)※は、その地の食物連鎖の頂点にたつ「王者」。
しかし、人間による自然環境の改変には無力であり、狩りや子育ての場所を次々と奪われ、多くの種が絶滅の危機に追いやられています。

日本で子育てをする猛禽類では、山岳森林地帯にすむイヌワシ・クマタカの危機的状況が知られていますが、葦(あし)原(ヨシ原)をはじめ湿地や原野にすむチュウヒは、その存在も絶滅の危機にあることも、ほとんど知られていません。

日本野鳥の会による全国調査では、日本で子育てをするチュウヒの数は、いまやイヌワシ・クマタカよりも少ないことが明らかになっているのです。

※肉食で、鋭いくちばしと爪をもつ、タカ目、ハヤブサ目、フクロウ目の鳥類の総称

チュウヒ<タカ目タカ科/絶滅危惧IB類(EN)>

写真:岡田宇司

翼をV字にして低く滑空し、地上の獲物を探す。やや平面的な顔は、フクロウ類のように集音効果が高い。春先にはらせん飛行や宙返り、空中でのエサの受け渡しなど多彩な求愛飛行をみせ、海外でチュウヒのなかまは「スカイダンサー」とも呼ばれる。

これ以上失えない、チュウヒが舞う湿地や原野

古来より「豊葦原の瑞穂の国」と呼ばれた日本――水辺に広がる豊かな葦原(ヨシ原)は、日本の原風景でした。その上を滑るように舞うチュウヒは、日本でただ1種、ヨシ原で繁殖する希少な猛禽類です。しかし、近年は減少が心配され、当会が実施した全国調査(2018~2020年)では、チュウヒの推定繁殖数は140つがいのみ。国内で繁殖するワシ・タカ類で最も数が少なく※1、絶滅の危機にあることが判明しました。

チュウヒの繁殖分布マップ

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その背景にあるのは、ヨシ原のような湿地の激減です。「不毛の地」と考えられていた湿地は、農地、宅地、工業用地にするため次々と埋め立てられ、この100年で全国的に6割も消失※2。チュウヒは、北海道に残った原野、埋立地に再生したヨシ原、農地開発をまぬがれたササ原など、わずかな場所をたよりに繁殖していました。ところが、この場所さえも、太陽光発電や風力発電の施設建設のため、奪われています。

風力発電とチュウヒ写真:岡本勇太

湿地や原野は、水質浄化や炭素固定など人にも有用な機能を持ち、野鳥をはじめ多くの生きものたちが息づく生物多様性の宝庫です。この環境の食物連鎖の頂点にいるチュウヒは「アンブレラ種」といわれ、チュウヒを守ることは、アンブレラ=傘を広げた下にいる無数の動植物と、それらを育む広大な湿地や原野を守ることにつながります。

当会は、これまで取り組んできたチュウヒの保護活動を加速させ、まずは北海道に残された重要な繁殖地の保全を推し進め、チュウヒがくらす湿地や原野と、その生物多様性がこれ以上失われないよう尽力していきます。湿地や原野にチュウヒが舞う、日本の原風景を未来に伝えるために、どうかご支援ください。

※1:亜種のぞく。イヌワシは推定150~200つがい、クマタカは推定約900つがい(レッドデータブック2014環境省編)
※2:国土地理院「湖沼湿原調査」(2000)

チュウヒが舞う湿地や原野を未来に伝えるために、
ご支援をお願いします

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当会の取り組み

1.今ある繁殖地を守る!~サロベツ原野の保全をめざして~

2016年の当会調査で、北海道・サロベツ原野がチュウヒの日本一の繁殖地だと判明してから、地元の認定NPO法人サロベツ・エコ・ネットワークと保護活動を進めてきました。

2018年からは、地域の協力を得るため住民向け勉強会や報告会を開催し、2020年からは、行政機関と繁殖状況を共有して開発行為を未然に防ぎ、繁殖成功率を向上させています。

今後はより強力な保全策として、当会独自のチュウヒのための野鳥保護区の設置も視野に入れて、地域の方々と、チュウヒが舞うサロベツ原野を守る活動を続けていきます。

チュウヒ報告会会場のようす第4回チュウヒ報告会(2021年、豊富(とよとみ)町)では当会理事長も登壇

2.繁殖に適した環境を増やす!~海外の先進事例に学ぶ~

北海道・勇払(ゆうふつ)原野には、チュウヒの繁殖に適したヨシ原が残り、毎年10~15つがいが巣作りしています。当会は、直営サンクチュアリを拠点に保全活動に取り組み、2014年に、このヨシ原を含む950haが工業の誘致対象から外れ※、保全に向けた大きな一歩となりました。

イギリスでは、世界的な鳥類保護団体RSPBが、ミンズミア地方の湿地を野鳥保護区にして、ヨーロッパチュウヒを、ミンズミアの1つがいから全英300つがいにまで回復させました。この事例に学び、環境改善による繁殖適地の拡大をめざしていきます。

※2014年に安平(あびら)川下流域を「河道内(かどうない)調整地」(遊水地)とする整備計画が正式決定された

ミンズミアRSPB Minsmere Nature Reserve(Suffolk, UK)

チュウヒが育つと、小鳥たちも育つ!

近年の研究で、チュウヒの繁殖成功率が高い湿地では、他の小鳥たちの繁殖成功率も高いことが報告されました※。チュウヒを守ることは、同じく湿地や原野で繁殖し、現在数が減りつつあるウズラ、アカモズ、シマクイナ、オオヨシゴイ、マキノセンニュウなど多くの野鳥を守る助けにもなると考え、当会や当会支部などの民間が国に働きかけました。その結果、2017年にチュウヒは国内希少野生動植物種に指定され、法的な保護の対象となりました。

※:Senzaki et al. 2015


シマクイナ(絶滅危惧ⅠB類)/写真:宮彰男

アカモズ(絶滅危惧ⅠB類)

マキノセンニュウ(準絶滅危惧)


チュウヒが舞う湿地や原野が、これ以上失われないように。
当会の自然保護活動に、ぜひご支援をお願いします。

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プラスチックの海鳥への影響を紹介する小冊子を発行

プラスチックの問題と海鳥への影響を多くの方に知ってもらうために、小冊子『海鳥を守るために 始めよう 脱プラスチック生活!』を発行しました。

この小冊子は、生活者である私たちが、海洋プラスチックごみの問題について理解を深め、プラスチックの利用の仕方を見直し、持続可能な社会に向けてライフスタイルを転換することをめざし、制作したもので、プラスチックの問題の背景や現状、海鳥についての解説と海鳥への影響、海鳥や海洋環境の保全のために、私たち一人ひとりができることについて紹介しています。

現在、全国各地のプラスチックの問題に関心のある団体、施設、自治体、教育機関(※中学生以上向け)など、冊子を活用いただける方に無償で配布しております。
このたび掲載情報のアップデートを行い、増刷しました。

ご希望の方は、以下の申し込みフォームからお申込みください。

お申し込みはこちら

※お申し込みは10部単位で受け付けております。また、配布予定数がなくなり次第終了します。

小冊子表紙

小冊子の内容の一部

小冊子の表紙と内容の一部

目次

内容の一部

小冊子の目次と内容の一部。全21ページ、18×10.5cm

クロツラヘラサギ世界一斉センサス集計結果(2023年)

2023年8月30日

2023年クロツラヘラサギ世界一斉センサスの集計結果

日本クロツラヘラサギネットワーク・(公財)日本野鳥の会

東アジアの各国と地域が協力して毎年1月に実施している「クロツラヘラサギ世界一斉センサス」(主催:香港バードウォッチング協会(HKBWS))の2023年の調査結果がまとまりましたのでお知らせいたします。

この調査は、絶滅が危惧されているクロツラヘラサギの越冬個体数と分布を把握するために日本、韓国、中国、台湾、香港、ベトナム、タイ、フィリピンなど東アジアの自然保護団体が参加し、毎年実施しています。2023年の調査は1月6日~8日にかけて行なわれました。

クロツラヘラサギの国内での越冬地は、九州や沖縄など西日本が中心です。2023年の調査は、日本クロツラヘラサギネットワーク、日本野鳥の会の会員を中心に1都11県60か所において、計77名の協力者を得て行なわれました。

1.2023年クロツラヘラサギ世界一斉センサス調査結果の概要

2023年クロツラヘラサギ世界一斉センサスは1月6日~8日にかけて行なわれ、各国の130地域からの報告に基づき、香港バードウォッチング協会(HKBWS)が取りまとめを行ないました。その結果、2023年の調査では、東アジア全体で前年より471羽増えて、6,633羽が確認されました(7.6%増)。

東アジア地域での主要な越冬地、台湾では4,228羽が観察され、全世界の個体数の約64%を占めています。
2023年に観察個体数が増加した地域は、台湾の4,228羽(10.6%増)を筆頭に、中国本土で1,307羽(15.1%増)、韓国の54羽(45.9%増)で、昨年観察されなかったフィリピンでは4羽が確認されました。

一方、減少傾向が見られたのは、日本640羽(6.3%減)、后海湾(香港、深セン)299羽(19.0%減)、ベトナム80羽(9.1%減)、マカオ21羽(4.5%減)で、特に大きく減少した后海湾では越冬環境が悪化しており、保全が急務となっています。日本では発見された死亡個体から高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAI)が検出されました。越冬地での伝染病の蔓延は生息地の消失と並んで大きな脅威となっています。この他、タイ、カンボジア、マレーシアでは一斉センサス期間中には生息が確認されませんでした。

クロツラヘラサギの全世界の観察個体数は、2019年に4,000羽、2021年に5,000羽、2022年には6,000羽を超え、約50年前の深刻な個体数の減少から回復しつつあるものの、2023年の一斉センサスでは、増加傾向にある地域と減少地域が分かれるという結果になっています。

(HKBWSによる2023年世界一斉センサスの集計をもとに作成)

表1.地域別のクロツラヘラサギの記録数
場所 2021年
調査
2022年
調査
2023年
調査
前年比
(2023年-2022年. 羽数)
前年比
(2023年/2022年. %)
台湾 3,132 3,824 4,228 404 +10.6
后海湾(香港、深セン) 336 369 299 -70 -19.0
中国本土 1,022 1,136 1307 171 +15.1
日本 570 683 640 -43 -6.3
ベトナム 82 88 80 -8 -9.1
マカオ 45 22 21 -1 -4.5
韓国 34 37 54 17 +45.9
タイ 0 1 0 -1
カンボジア 0 0 0 0
フィリピン 1 0 4 4 0
マレーシア 0 2 0 -2
合計 5,222 6,162 6,633 471 +7.6

(HKBWSの集計に基づく)

2.日本におけるクロツラヘラサギ一斉センサス調査の結果

日本クロツラヘラサギネットワーク・(公財)日本野鳥の会

2023年、国内では昨年より43羽少ない、計640羽が確認されました(6.3%減)。最も多かったのは熊本県で181羽が観察され、次いで、福岡県126羽、鹿児島県83羽、佐賀県79羽、沖縄県61羽、山口県45羽、宮崎県40羽、大分県17羽、長崎県1羽の順で観察されました。西日本以外では、静岡県3羽、滋賀県2羽、東京都2羽が観察されています。

図1.日本におけるクロツラヘラサギの記録数の推移
図1.日本におけるクロツラヘラサギの記録数の推移

図2.クロツラヘラサギの県別記録数の推移
図2.クロツラヘラサギの県別記録数の推移

表2.県別に見たクロツラヘラサギの記録数の推移
表2.県別に見たクロツラヘラサギの記録数の推移(画像クリックで拡大)

ツバメと生きものたちのにぎわいを、未来に伝えるために

飛ぶツバメ

(写真:佐藤信敏)
2000km以上の旅をして日本に訪れるツバメ。子育てには緑地や水辺などの環境がかかせない。

ツバメは古くから、人間の暮らしのそばで子育てをしてきました。建物に巣をかけ人の気配を利用することで、天敵が巣に近づけないようにしてきたのです。私たち人間も、軒先のツバメの巣を縁起物として受け入れてきました。ツバメが飛び交う風景は、人が自然と共にある日本の原風景です。ところが、十数年前から、身近な野鳥であるツバメが減ってきているという声が聞こえるようになりました。

日本野鳥の会は、ツバメの現状を明らかにするために2013年からの10年間に、市民参加型の「ツバメの子育て状況調査」を実施してきました。調査結果からは、ツバメと身近な生きものたちに迫る危機が見えてきました。

身近な生きものたちのにぎわいが失われつつあります

「ツバメの子育て状況調査」には、10年間でのべ6,443人から12,351巣もの観察情報が集まりました。このデータを分析すると「過疎化や人口減少の影響で、ツバメの営巣が減っている可能性がある」、「都市では多くのヒナを育てられない(図1)」、さらに「ツバメの子育て失敗要因のうち、人間による巣の撤去が1割を超える(図2)」ことがわかりました。

都市化するとツバメのヒナの数が減る

グラフ

大きな画像で見る

市街地のヒナの巣立ち数は、平均して3.86羽と4羽を下回り、都市の郊外と比較をすると約0.4羽分少なくなっています。巣立ちヒナ数が4羽を下回ると将来的にツバメの生息数が減少していくという試算があります※1。10年間少子化傾向に変化はなく、都市のツバメにとっては、苦しい状況が続いています。

共生していたはずの人間がツバメの脅威のひとつに

図2ツバメの子育ての失敗要因/人11.5%、天敵35.6%、巣が壊れる18.9%、放棄10.2%、ツバメ1.1%、不明22.4%、その他0.2%

子育ての失敗では、天敵に襲われ失敗した割合が35.6%と最も高く、糞が汚いなどの理由から人間が巣を落としたケースは11.5%を占めました。天敵を避けるために人の暮らしの中で命をつないできたツバメですが、人そのものが脅威となりつつあります。

ツバメが多くのヒナを育てられないのは、エサとなる虫がたくさんいる豊かな自然が都市部から減ってしまっていることを示し、人間が巣を撤去してしまうのは、自然や命とのふれあいが減り、生きものを受け入れる文化が廃れてきたからかもしれません。

人の近くで生きるツバメのような身近な野鳥は、人間活動の影響を受けやすく、別の調査ではスズメやコサギなど他の身近な野鳥の減少も報告されています※2。今、身近な生きものたちのにぎわいーー生物多様性が失われつつあるのです。

ツバメ

(写真:佐藤信敏)
巣立ったヒナにトンボを与える親ツバメ。多様な生きものたちのにぎわいが、ツバメの子育てを支えている

身近な野鳥たちを守るためには、彼らを支える植物、昆虫、動物など身近な生物多様性をまとめて保全する必要があります。しかし、保全の指標となる全国的な野鳥の生息情報は、圧倒的に不足しています。また、ツバメや身近な生きものと共存する心を育んでいくことも重要です。

当会は、市民参加型の野鳥観察記録データベース『eBird Japan』を活用し、日本のすべての野鳥を全国的に網羅したビッグデータを集め、身近な生物多様性の保全やネイチャーポジティブ※3に貢献するとともに、ツバメの子育てを見守る文化を絶やさぬ普及活動も続けていきます。

100年先にもツバメたちが私たちのそばにいる―――野鳥と共存する未来をめざす活動を、どうかご支援ください。

※1.野鳥 2016年7月号「日本のツバメのいま」

※2.全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう2016‐2021(2021)

※3.ネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失をとめて回復軌道に乗せることを意味する。2022年12月のモントリオール開催の生物多様性条約第15回締約国会議で世界目標となった。

ツバメの子育て状況調査

ツバメの子育ての様子を観察し、巣立ち数や失敗の原因などをインターネット上の専用サイトで広く情報を集めて、現状を詳しく知るための調査。昨年度末にeBird Japanに役割を引き継ぐ形で調査を終了しました。これまでのご協力ありがとうございました。

ツバメと生きものたちのにぎわいを、未来に伝えるためにご支援をお願いします

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当会の取り組み

1.ツバメとの関係をつむぎなおす取り組み

ツバメと人の良好な関係を広く普及するため、2019年度からツバメの子育てを温かく見守っている団体に感謝状を贈呈しています。また、ツバメの観察方法や見どころを紹介するパンフレット『ようこそツバメ』の無料配布や、ツバメの生態を知ってもらうために集団ねぐらの観察会なども行っています。

感謝状贈呈の様子
感謝状贈呈の様子
小冊子イメージ
(左)ようこそツバメ(右)ツバメのねぐらマップ


2.野鳥観察記録データベース「eBird」の活用

「eBird」はアメリカのコーネル大学鳥類学研究室が運営する世界的な市民参加型の野鳥観察記録データベースです。当会は、2021年に同研究室と協働で、日本語版「eBird Japan」を開設しました。eBirdには世界規模で年間1億件以上の野鳥目撃情報が登録されており、さまざまな鳥類保護や調査研究活動に活用されています。

「ebird Japan」ロゴ
「eBird Japan」のトップページ

「eBird Japan」のトップページ



身近な生物多様性を守り、ネイチャーポジティブの達成に一歩でも近づくために。
当会の自然保護活動に、ぜひご支援をお願いします。


(写真:佐藤信敏)
水田を飛翔するツバメは、日本の原風景の一つ

ツバメの知られざる生態を学ぶ「ねぐら観察会」の様子


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全国ツバメ繁殖状況調査(2013~2022年)報告

(2023年6月)

1.調査の状況

日本野鳥の会では2012年に会員向けのアンケート調査を行ないました。その結果多くの方が身の周りでツバメが減っているとの思いを持たれていることから、2013年ウェブサイト「ツバメの子育て状況調査」を公開し、2022年度までに4,199名の方に調査に参加登録をいただきました。この場をかりて御礼申し上げます。

当該サイトに巣の情報を寄せられた人数と観察記録が得られた巣の数を、表1に示します。ツバメのキャンペーンを行なっていた2014年前後をピークとして、どちらも徐々に減少していましたが、2020、2021年には若干回復していました。

表1 調査の状況
2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
観察者数(人) 674 923 971 829 693 526 388 510 531 398 6,443
観察された巣の数(巣) 1,314 1,937 1,835 1,696 1,439 1,015 687 802 886 740 12,351

2.ツバメの繁殖成績は年によって変動するか

ツバメは条件が良いと同じ年に2、3回繁殖することが知られていますが、サイトに寄せられた報告では2回目以降の繁殖を巣立ちまで報告いただいたものは少ないため、巣立ちヒナ数の報告が得られたのべ5,565巣のデータから、1回目の繁殖成績を用いて検討を行ないました。1巣あたりの巣立ちヒナ数は図1に示すように、1羽から9羽の幅がありましたが4羽を巣立たせた巣が最も多くなりました。1羽や2羽の例のほとんどは産卵数が少ないのではなく、巣から落ちるなどして最後に残ったヒナが巣立ったという報告が多くありました。

グラフ「1巣あたりの巣立ちヒナ数の割合」

平均巣立ち数(1番仔)の経年変化を図に示す。
平均巣立ちヒナ数の年ごとの差はなく平均4羽で変化は見られなかった。

グラフ「平均巣立ち数」

図1 一番仔の平均巣立ち数の推移(エラーバーは標準偏差)

3.営巣場所

ツバメは人の住む場所で子育てをすると言われています。10年間に報告のあった巣の88%が都市(都市計画法の対象地域)に位置し、更にその70%以上が市街化区域に位置していました。(図2参照)もちろん、サイトに報告いただいた方のお住まいの場所の偏りに依存していることも考えられますが、やはりツバメは人とともに暮らしている鳥と言えます。

区域区分 前期 後期 全期間
市街化区域 72.13% 73.42% 72.57%
市街化調整区域 12.81% 11.98% 12.53%
その他用途地域 5.91% 5.80% 5.87%
用途未定 9.16% 8.80% 9.03%

前期:2013~2017年
後期:2018~2022年

日本地図

図2 ツバメの巣が作られた場所と都市の重なり

ツバメの繁殖の報告が都市に集中している一方で、都市は農村部などと比較して食料となる飛翔性昆虫が少なかったり、巣の材料となる泥や植物質などを得ることが難しかったりすると考えられます。都市化の程度が巣立ちヒナ数に影響があるか、同じ都市部の中で、開発行為が抑制された市街化調整区域と、より都市化の進んだ市街化区域とで、一番仔の巣立ちの状況を比較しました。(図3)

10年間の平均で、市街地の巣では巣立ちヒナ数が3.86羽であるのに対して、それ以外の場所では、4.27羽となっており、市街化調整区域のほうが多くのヒナを巣立たせることができていました。(p<0.01)また、年による変動も市街化調整区域が大きくなっていました。

都市部でも過度な市街化を行なわず、適度に緑地や都市農地などが存在する都市とすることで、都市にも生物多様性を取り戻し、ツバメとの共存を続けることができると考えられます。

グラフ「巣立ちヒナ数」

図3 営巣場所による巣立ち数の経年変化

4.巣が見られなくなった場所

ツバメの営巣が調査期間で見られなくなった場所について検討を行ないました。繁殖の成否にかかわらず、巣が作られた場所を統計等に使われる2次メッシュ(10km四方のメッシュ)で検討しました。調査期間を前期(2013~2017年)、後期(2018~2022年)にわけ、それぞれの期間で1つでも巣が作られていれば「営巣あり」のメッシュとしました。もちろん報告の有無に基づくものであるため本当に繁殖しなくなったわけではなく、その地域で調査参加者が観察を取りやめた場合もあります。

前期に営巣の見られた815メッシュのうち41%にあたる348メッシュで営巣の確認がなくなった一方で、後半の営巣メッシュのうち26.5%のメッシュでは新規に営巣が確認され、全体の48.7%では前後期をとおして、営巣が確認されました。

表2 営巣確認メッシュの消長
営巣の有無 前期のみ 後期のみ 前後期
営巣メッシュ数 348 181 503
メッシュの各期における割合 40.9% 26.5% 48.7%

どのような場所で営巣が確認できなくなっているかを見るために、データの多い関東地方を例として地図表示をしてみると、都市中心部では前後期ともに営巣が継続しています。これに対して、その周辺部で後半の期間に営巣が確認できなくなったり、新たな繁殖メッシュが確認されたりして変動が大きく、巣立ち数も「3.営巣場所」で見たように変動が大きくなっていました。

地図「営巣が確認されたメッシュの位置」

図4 営巣が確認されたメッシュの位置

ツバメの繁殖は人の生活と密接なつながりがあり、山間の集落などで減少が進んでいることが指摘されています(藤田,2015,全国鳥類分布調査ニュースレター Vol.3)。そこでメッシュごとの人口の増減とツバメの繁殖が見られなくなったメッシュとの関連を見てみました。

1kmメッシュ別将来推計人口データ(H30国政局推計)より2015年の国勢調査および2020年の推計人口を2次メッシュに集計して用いました。

前期、後期と引き続き営巣の見られたメッシュのピークは、人口の変化とほぼ同様でしたが、営巣に変化の見られたメッシュは人口が4~5%減少している場所にピークがあり、都市周辺部で人口密度の変化とツバメの巣の消失が関連していると考えられます。

地図「営巣が確認されたメッシュの位置」

図5 営巣確認メッシュとそのメッシュにおける人口動態

5.失敗要因

調査では、何らかの要因で巣立ちに至らなかった例に加えて、一部の卵やヒナが失われた例も「繁殖失敗」として報告されています。報告ではコメントとしての状況報告と、わかるものについては失敗の要因を書き込んでもらいましたが、実際の失敗原因の特定は困難で、多くの推測が含まれています。「巣が壊れる」の中にも巣材の泥が少なかったり壁が新建材のためヒナがある程度大きくなった時点で巣が落ちたりした例や、カラスやネコによって巣が落とされた例を区別するのは困難で、観察者の主観によるものとなります。そうしたことを前提に失敗要因を集計すると、カラスやヘビなどの天敵によるものが約36%と最も多くなりました。その中でも60%がカラスによるものと疑われていました。次いで多かったのはスズメによる巣の乗っ取りで14%あり、ツバメとともに都市で生活する鳥でした。また、巣の撤去など人に起因する失敗例も12%見られました。

円グラフ「失敗要因」

図6 繁殖失敗の要因の割合図

6.最後

10年間多くの皆様のご協力を得て全国のツバメの繁殖状況の調査を行うことができました。その結果ツバメはやはり身近な野鳥であり、人の増減や都市の土地利用の変化を受けていることがわかりました。人の近くで子育てをすることで、巣材や食料などに苦労している様子も伺えました。昨年決まった昆明・モントリオール生物多様性枠組みのなかにも、都市部のターゲット12にも緑地や親水空間の確保や生物多様性に配慮した都市計画を進めるということが挙げられています。ツバメの住みやすい都市を作ることで私達にとっても住みやすい都市になること期待します。

Strix Vol.39

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目次
0.6MB
松原秀幸. 2023. 木曽谷のクマタカ―23年間の観察. Strix 39 1-12.
0.8MB
上出貴士. 2023. 和歌山県の河川中流域に生息するイソヒヨドリMonticola solitariusの食性. Strix 39 13-24.
1.3MB
大塚惠子・鈴木浩克・高槻成紀. 2023. 玉川上水の杉並区に敷設された大型道路が鳥類群集に与えた影響. Strix 39 25-48.
1MB
藤巻裕蔵. 2023. 北海道におけるノビタキの繁殖期の分布. Strix 39 49-58.
1MB
玉田克巳. 2023. 北海道渡島半島西部の鳥類1.落葉広葉樹林における繁殖期の鳥類相. Strix 39 59-74.
0.7MB
佐藤賢二・鈴木卓也. 2023. 宮城県におけるクロサギEgretta sacraの繁殖初記録. Strix 39 75-80.
2MB
黒田治男・渋田朗・林田博・吉谷将史・所崎聡・加藤銀次. 2023. 九州地方におけるコムシクイPhylloscopus borealisの渡り時期. Strix 39 81-99.
1MB
山口孝・御手洗望. 2023. 東京都におけるクマタカの繁殖成功率. Strix 39 101-107.
0.7MB
佐藤仁志・西海功・樋口亜紀・野津登美子・池淵康夫・伊藤勉・梅田由美子・関谷哲夫・福岡章・森下拓也. 2023. 宍道湖に渡来したトモエガモ個体群の採餌場所と糞分析. Strix 39 109-120.
2.2MB
荒井颯太・池田泰宏・宮本竜也・田谷昌仁. 2023. 宮城県におけるヤドリギツグミTurdus viscivorusの初確認. Strix 39 121-126.
1.3MB
籠島恵介. 2023. 徳島県におけるオオムシクイの秋期の渡り. Strix 39 127-132.
0.7MB
薮内喜人・大見智之. 2023. 滋賀県立大学キャンパスにおける造成直後の2003 年から2014 年にかけての鳥類相の変化. Strix 39 133-148.
1MB
井上賢三郎・矢次智浩・松下彩二. 2023. 秋に九州西部を南下するサシバ. Strix 39 149-156.
1.2MB
成田章・富田直樹. 2023. 青森県八戸市弁天島におけるウミネコの繁殖状況と今後の保護. Strix 39 157-160.
0.5MB
田尻浩伸・手嶋洋子・山本裕. 2023. カンムリウミスズメSynthliboramphus wumizusume繁殖地としての伊豆諸島恩馳島の重要性. Strix 39 161-170.
0.8MB
市原晨太郎・桐原佳介. 2023. 鳥取県におけるオオチドリCharadrius veredusの初記録. Strix 39 171-177.
1MB
平岡考・永井真理子・永井次郎. 2023. 日本におけるコシジロイソヒヨドリの写真を伴う3例目の記録で雌の初記録となる観察. Strix 39 179-186.
0.9MB
佐々木均・佐藤公生・加藤正敏. 2023. 日本野鳥の会秋田県支部による冬季におけるカモ科調査(1993年-2022年)の結果について. Strix 39 187–198.
1.3MB

「石垣リゾート&コミュニティ計画」に係る知事許可事項に対する要請を行ないました

沖縄県石垣島で進められている、総面積約127haの大規模ゴルフリゾート建設「石垣リゾート&コミュニティ計画」(以下「本件計画」)は、その建設予定地にラムサール条約湿地である名蔵アンパル及び名蔵湾の水源地並びに国の特別天然記念物カンムリワシの営巣地が含まれ、貴重な生きものの生育や自然環境への影響が強く懸念される内容となっています。

本件計画を推進する石垣市及び株式会社ユニマットプレシャス(以下「事業者」)並びに許認可権限を有する沖縄県及び関係省庁に対し、必要な環境配慮を求める要請を繰り返し実施しています。

今回、本件計画に係る農地法に基づく農地転用及び土地計画法に基づく開発許可の審査を行なっている沖縄県に対して、慎重な審査を求める要請を地元団体を含む16団体連名で行ないました。

2023年4月17日

沖縄県知事 玉城 康裕 殿

アンパルの自然を守る会 共同代表 島村 賢正 山崎 雅毅
石垣島エコツーリズム協会 会長 谷崎 樹生
一般社団法人JELF(日本環境法律家連盟) 理事長 弁護士 池田 直樹
一般社団法人日本魚類学会 会長 瀬能 宏
一般社団法人日本サンゴ礁学会 会長 山野 博哉
いのちと暮らしを守るオバーたちの会 代表 山里 節子
カンムリワシの里と森を守る会 共同代表 東山盛 敦子 山崎 雅毅
カンムリワシ・リサーチ 代表 小林 孝
公益財団法人世界自然保護基金(WWF)ジャパン 会長 末吉 竹二郎
公益財団法人日本自然保護協会 理事長 亀山 章
公益財団法人日本野鳥の会 理事長 遠藤 孝一
日本甲殻類学会 会長 朝倉 彰
日本湿地ネットワーク(JAWAN) 代表 牛野 くみ子
八重山ネイチャーエージェンシー 代表 高木 理恵
ラムサール・ネットワーク日本 共同代表 金井 裕・永井 光弘
我がーやいまの自然環境を考える会 会長 宮城 信博
(以上、五十音順。団体印省略。)

「石垣リゾート&コミュニティ計画」に係る知事許可事項に対する要請

沖縄県石垣島で進められている総面積約127haの大規模ゴルフリゾートを建設する「石垣リゾート&コミュニティ計画」(以下「本件計画」)は、その建設予定地にラムサール条約湿地である名蔵アンパル及び名蔵湾の水源地並びに国の特別天然記念物カンムリワシの営巣地が含まれ、貴重な生息・生育地や自然環境への影響が強く懸念される内容となっています。それゆえに、我々は、本件計画を推進する石垣市及び株式会社ユニマットプレシャス(以下「事業者」)並びに許認可権限を有する貴県及び関係省庁に対し、必要な環境配慮を求める要請を繰り返し実施して参りました。

特にカンムリワシの生息地や名蔵アンパル及び名蔵湾への影響に関する予測・調査及び環境保全策といった重要項目については、貴県条例に基づく環境影響評価手続きにおいて知事に必要な対応を求められた事項であるにもかかわらず、事業者が未だ対応していないことは、極めて問題ある状況といわざるを得ません。

しかし、事業者は、本件計画の着工に向けた各種法令に基づく許可申請を進めており、これを受けて、貴県では、本件計画に係る農地法に基づく農地転用及び土地計画法に基づく開発許可の審査が進行中です。これらは、いずれも知事の許可権限に属しており、万が一、必要な調査や対策が実施されていない現状のままこれらの事項が許可された場合、沖縄県及び石垣市が誇る貴重な自然環境や周辺地域の営農や暮らしに取り返しのつかない損失が生じることになります。

本来、本件計画のような大規模なゴルフリゾート建設のための農地転用は農地法により原則不許可となるところ、事業者による申請が可能となったのは、本件計画に関して「地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律」(以下「地域未来投資促進法」)に基づき事業者が作成した地域経済牽引事業計画を知事が承認したことによります。しかし、事業者の現在までの対応状況を考慮すれば、この地域経済牽引事業計画は、後述の通り地域未来投資促進法が適用される要件を欠くことが明らかとなっています。

以上の状況により、本件計画は昆明モントリオール生物多様性枠組として国際的に合意され日本の国家戦略とされたネイチャーポジティブに逆行するものであり、本件計画に係る知事許可事項の審査におかれては、国連の持続可能な開発計画を推進する自治体として「SDGs未来都市」に選定され、県内に複数のユネスコ世界自然遺産やラムサール条約湿地等の国際的に重要な自然環境を有する貴県として、慎重かつ賢明な判断をされるべく、下記の各項目について、連名して要望申し上げます。

1.カンムリワシの生息地保全に関して

本件計画に関する環境影響評価調査書(2021年10月)には、複数のカンムリワシのつがいが建設予定地内に生息していることが報告されています。また、この調査書では「発見には至っていない」と報告されたカンムリワシの営巣についても、事業者による2022年4月の調査の結果、本件計画の建設予定地内にて、カンムリワシの営巣が確認されました。

カンムリワシは、国の特別天然記念物で種の保存法に基づく国内希少野生動植物種であり、2012年3月に環境省が実施した調査によれば、石垣島に生息する個体数は110羽とされており、絶滅の危機に瀕しています。本件計画がこのまま実施されれば、石垣島のカンムリワシに残された貴重な生息地の一つが失われることになります。

都市計画法に基づく開発許可に係る貴県「ゴルフ場の開発事業に関する指導基準」では、申請事業に対し、天然記念物の「生息及び生育を妨げるものでないこと」、並びに開発市町村長との間で「文化財の保護及び自然環境の保全」「良好な地域環境の保全に必要な事項」について開発協定が締結されることを求めています。また、カンムリワシを頂点とする生態系の保全は、農地の多面的機能を重視する農地法に基づく農地転用申請手続きにおいて考慮されることが求められています。

しかし、事業者は、貴県条例に基づく環境影響評価手続きにおける知事の指摘にもかかわらず、カンムリワシ保全のために必要な調査や対策について十分に対応していません。
したがって、各法令に基づく許認可審査において、次の対応を貴県に求めます。

  • 1-1 事業者に対し、建設予定地全域及び周辺地域におけるカンムリワシの生息状況、及び年間を通じた繁殖を含むライフサイクルに係るカンムリワシの生態及び利用エリアに関する科学的調査を事前に実施することを求めること
  • 1-2 事業者に対し、(1)の調査結果並びにカンムリワシ及びその生息環境を保全するための対策を具体的に策定し、市民に公表することを求めること
  • 1-3 (1)(2)を実施・監修する専門家、地元住民、貴県、石垣市、環境省等の関連省庁、事業者らによるカンムリワシ保全のための協議体を設置し、対策及び影響について継続的に検討・実施・モニタリングできる体制を構築すること
2.ゴルフリゾート施設による大量の地下水汲み上げの影響に関して

本件計画では、ゴルフリゾートを運営するために1日約1000トンの水を消費し、その約7割を地下水で賄うとされています。かかる大量の地下水汲み上げは、下流のラムサール条約湿地である名蔵アンパルとその後背湿地を含む集水域全体の水量を減少させ、周辺水域における渇水化及び塩水化を招き、また周辺農地の水利用を妨げることが強く懸念されます。

名蔵アンパルは、日本最南端のラムサール条約湿地として、八重山民謡「あんぱるぬゆんた」にも登場する多種多様な甲殻類や魚類など水生生物の宝庫であり、カンムリワシをはじめとする鳥類の餌場となっています。また、干潟やマングローブ林は、地元の子どもたちや観光客の自然体験や環境教育の場として、石垣市民の長年にわたる不断の取り組みによってまもられてきました。ゴルフリゾート建設用地内の水源地から名蔵アンパルへ流れるウガドゥカーラ等の小河川には、石垣島の固有の新亜種で沖縄県希少野生動植物保護条例に基づく指定希少野生動植物種であるイシガキパイヌキバラヨシノボリやコンジキハゼ等の絶滅のおそれのある希少な淡水魚類も生息しています。

本件計画が実施されれば、名蔵アンパルは渇水化・塩水化により縮小改変されるおそれがあり、ラムサール条約湿地のうち「湿地の生態学的特徴が人為的要因によって著しく劣化・減少した場合」に記載される「湿地のレッドリスト」であるモントルーレコードに、日本国内の湿地として初めて登載される可能性があります。

都市計画法に基づく開発許可に係る貴県「ゴルフ場の開発事業に関する指導基準」は、申請事業に対し、「開発区域内又は隣接地域内の河川その他の水路については、原則として開発後においても従前の流量が安定的に維持され、水路及び下流の水利施設等の機能に支障がないよう措置すること」、及び「新たなボーリングによる地下水の取水を行う場合は、周辺地域の地下水源に影響が生じないように留意すること」を求めています。

しかし、事業者は、貴県条例に基づく環境影響評価手続きにおいて名蔵アンパルや名蔵湾への調査や予測を求めた知事の指摘にもかかわらず、地下水汲み上げによる周辺水系への影響について調査や予測を全く実施していません。
したがって、各法令に基づく許認可審査において、次の対応を貴県に求めます。

  • 2-1 事業者に対し、事業計画に基づく地下水汲み上げによる周辺水系及び名蔵アンパル汽水域の水質・水位等への影響について、科学的根拠に基づく予測と調査を実施することを求めること
  • 2-2 事業者に対し、(1)の調査結果及びその影響を軽減する具体的な対策について、市民に公表することを求めること
  • 2-3 上記2-1の調査の結果、地下水汲み上げによる影響が看過できず、十分な軽減策が困難な場合は、事業者に対し、地下水へ依存しない給水計画への変更を求めること
3.ゴルフ場で使用される農薬や赤土流出による汚染について

本件計画では、ネオニコチノイド系殺虫剤であるチアメトキサムを含む複数種類の農薬を継続して使用することによってゴルフ場を維持管理するとしており、また建設予定地である前勢岳北側斜面における大規模な建設工事及び施設共用に伴う赤土等の流出が見込まれ、これらの農薬や赤土の流出による、名蔵アンパル及び名蔵湾を含む自然環境及び周辺農地への影響が強く懸念されます。ネオニコチノイド系殺虫剤は、特に昆虫類や甲殻類への毒性が高いことが知られるため、本件計画地周辺域の陸域や陸水域に生息する希少種に多大な影響を及ぼす可能性が考えられます。また、計画予定地からの排水が流入する名蔵湾には、特有のカルスト地形による貴重なサンゴ礁が残されており、これらの汚染によるサンゴ礁生態系の損失も測り知れません。

加えて八重山地方で近年頻発している豪雨などの影響も考慮すれば、これらの汚染防止のためには、現地の実情を踏まえた具体的かつ実効性のある対策が求められます。

都市計画法に基づく開発許可に係る貴県「ゴルフ場の開発事業に関する指導基準」は、事業者に対し、「農薬を使用しない計画又は可能な限り農薬を節減した施設計画とする」ことを求めています。

しかし、事業者は、無農薬の計画については検討しておらず、名蔵アンパル及び名蔵湾を含む自然環境及び周辺農地への影響について現行の農薬使用や工事計画による影響に関する評価や予測を実施しておらず、また工事中止を含む計画変更に関する具体的な基準も示していません。
したがって、各法令に基づく許認可審査において、次の対応を貴県に求めます。

  • 3-1事業計画に基づくネオニコチノイド系殺虫剤を含む農薬使用による名蔵アンパル及び名蔵湾並びに周辺地域にそれぞれ生息する生物相への影響について、科学的根拠に基づく調査と予測を実施することを求めること
  • 3-2 事業者に対し、3-1の調査結果及びその影響を軽減する具体的な対策について、市民に公表することを求めるとともに、十分な軽減策が困難な場合は無農薬による事業計画を検討し、その結果を市民へ公表することを求めること
  • 3-3 工事中止を含む工事計画や事業計画を変更するための農薬及び赤土流出による汚染の具体的基準を作成し、市民に公表することを求めること
4.本件計画に係る地域未来投資促進法に基づく知事承認に関して

事業者が、本件計画に係る農地転用等の申請が可能となったのは、本件計画に関して地域未来投資促進法に基づき事業者が作成した地域経済牽引事業計画を知事が承諾したことによります。地域未来投資促進法が適用される要件として、地域経済牽引事業計画が同法に基づき作成された基本計画及び土地利用調整計画にそれぞれ適合していることが求められていますが、いずれも不適合であることが明らかとなっています。

すなわち、本件計画に関する基本計画には、「石垣市の魅力である自然環境や景観の保全に十分留意しつつ土地利用が行われる」こと、及び「対象区域の周辺である名蔵アンパル一帯・於茂登岳一帯をはじめ、優れた自然環境を形成している水面や森林等については、積極的に保全するとともに、市民の余暇活動や環境学習の場等としての有効利用を一層進める計画とする」こと、並びに「多様な野生動植物やサンゴ礁等の生息・生育地に対し、直接或いは間接的に影響を与えるおそれがある場合は、沖縄奄美自然環境事務所及び沖縄県の自然環境部局と十分調整を図りつつ、専門家の指導・助言を踏まえて、それらの保全が図られるように十分に配慮する」こと及び「地域経済牽引事業の実施等について、必要に応じてあらかじめ関係する地域住民に対して説明及び意見聴取を行い、地域住民の理解を得るための取組に努める」こと等の「環境の保全その他地域経済牽引事業の促進に際し配慮すべき事項」が定められ、かかる記載事項に基づいて国が基本計画に同意しています。しかし、事業者において、環境影響評価手続きで知事から指摘された事項を含む重要な環境課題への未対応な状況は、この基本計画で定められた内容に反しており、地域経済牽引事業計画が基本計画に適合していないことが明らかとなっています。

また本件計画に関する土地利用調整計画に記載された建設用地のうち、石垣市が所有する土地や市民の森に含まれる土地の提供等に対して住民訴訟が係属中であり、事業者は未だ対象の土地全部を取得・利用できる状況に至っていません。このことから、地域経済牽引事業計画が土地利用調整計画に適合していないことも明らかとなっています。
したがって、次の対応を貴県に求めます。

  • 4-1 本件計画に関して地域未来投資促進法に基づき事業者が作成した地域経済牽引事業計画が基本計画及び土地利用調整計画にそれぞれ適合しないことが明らかとなったことから、地域経済牽引事業計画に対する知事の承認を取り消すこと
5.本件計画が周辺地域へもたらす経済効果に関して

本件計画に関して石垣市が作成した調査書(2021年7月作成「石垣市土地利用調査書」)によれば、本件計画により年間「237.7~268.9億円」の経済効果があることが報告されており、これが石垣市長や石垣市農業委員会による「経済効果約250億円」という説明の根拠とされています。しかし、この経済効果の算定は、開発の費用(コスト)として周辺農地や自然環境への負荷や大量に消費する水の価値が一切考慮されておらず、汚染の原因となる主体(本件では事業者)が損失を補償する義務を負う汚染者負担原則に反している等の根本的な問題があり、また現地の実情を踏まえない過大な波及効果の試算に基づくもので、経済学的な裏付けや客観的根拠を欠く内容となっています。

2023年3月に策定された「沖縄観光推進ロードマップ」では、第6次沖縄県観光振興基本計画で定められた「目指すべき将来像」である「世界から選ばれる持続可能な観光地」の実現に向けて、「持続可能な観光地域づくりの追求」、すなわち「県民、観光客、観光業従事者が、自然、歴史、文化を尊重し、それぞれの満足度を高めるとともに、環境容量の範囲において観光産業の成長と維持を目指すことで、沖縄経済を最適に活性化させる」ことが県の「MISSION」として掲げられており、それに基づく施策を行うことが表明されています。しかし、本件計画は、事業者の対応状況と相まって、これとは程遠い内容と言わざるを得ません。

本件計画の経済効果については、上記の石垣市による算定の問題点を改善し、SDGsを推進する県の方針に適合するものとして、真に地域経済に付加価値をもたらす計画であるか否かについて、専門家の意見を踏まえて再検証する必要があります。

また地域未来投資促進法の適用要件としても一定基準の経済効果が求められているところ、本件計画に関する地域経済牽引事業計画のうち、その算定根拠を含む数値等について、情報公開請求及び一部開示決定に対する行政不服申立てにも関わらず、未だ非開示なままとなっています。これらの数値は本件計画に地域未来投資促進法が適用される要件として市民に開示するべき重要な情報であり、早急に開示される必要があります。
したがって、次の対応を貴県に求めます。

  • 5-1 本件計画の経済効果について、専門家の意見を踏まえて再検証し、その結果を踏まえて、各法令に基づく許認可審査を行うこと
  • 5-2 本件計画に関する地域経済牽引事業計画に記載された経済効果に関する数値を早急に開示すること

以上


本件に関する問い合わせ先:

(公財)日本野鳥の会 常務理事 葉山政治
電話:03-5436-2633 E-mail:[email protected]

(公財)世界自然保護基金ジャパン
自然保護室 野生生物グループ 小田倫子
電話:03-3769-1716 E-mail:[email protected]


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鳥インフルエンザの最近の動向

2022年から2023年にかけて、国内で鳥インフルエンザが猛威を振るっています。野鳥やその糞便等で28道県236件、家きんで26道県83件、飼養鳥で6都県10件のウイルス検出事例が発生しています。マスコミでも養鶏場での殺処分のニュースや鶏卵の価格高騰のニュースをしばしば目にします。(2023年4月7日現在)

令和7年度 国内における高病原性及び低病原性鳥インフルエンザ発生状況

出典:「令和7年度 国内における高病原性及び低病原性鳥インフルエンザ発生状況」(農林水産省)を加工して作成(2026年3月23日)

鳥インフルエンザウイルスは、鳥類に感染するA型インフルエンザの総称です。
一方、報道される高病原性鳥インフルエンザはOIE(国際獣疫事務局)の診断基準によるニワトリの致死率、ウイルスの表面のタンパク質によって分類される型であるH5またはH7の亜型のウイルスの特定部位のアミノ酸配列により決まります。高病原性鳥インフルエンザウイルスが見つかった場合、ウイルスの拡散を防ぐためにその農場の家きんは全て殺処分となります。

鳥インフルエンザは水鳥を自然宿主としており、水鳥(特にマガモ属)は高病原性のウイルスに罹患しても症状を示さない場合が多いです。ウイルスは古くから水鳥を中心に自然界に存在していましたが、家きん等の被害はまれであったと考えられます。では、ニワトリを死亡させる高病原性のウイルスはどうして発生したのでしょうか。野鳥が保有していたウイルスが養鶏場などに侵入すると、狭い鶏舎の中では容易に感染の連鎖がおこります。ニワトリ等の間で感染を繰り返すうちに変異し高病原性になると考えられます。

そうしたなか、2004年1月に国内では79年ぶりに高病原性鳥インフルエンザの発生が確認されていました。山口県、大分県、京都府の養鶏場で発生し、野鳥ではハシブトガラス9羽で確認されました。当時、韓国や中国、東南アジアでの発生がありましたが、国内で死亡した野鳥が留鳥であるハシブトガラスであることから、国内にウイルスが入ってきた経路は不明でした。

その後、2007年1月から2月にかけて、また2010年度に再び高病原性鳥インフルエンザの発生がありました。特に2010年度の発生では、9県で約183万羽が殺処分され、16道府県で15種60羽からウイルスが検出されています。2010年度に分離されたウイルスは2009年から2010年にかけてモンゴルや中央アジア、韓国で確認されたウイルスと近縁でしたが、2004年、2007年に国内で確認されたものとは異なっていました。また、2010年10月に北海道の稚内大沼で野鳥の糞便よりウイルスが確認されており、渡り鳥との関連が示唆されました。

野鳥で見ると国内で二桁以上の件数が確認された流行は、2003年~2004年、2010年~2011年、2014年~2015年と数年おきでした。それが2016年度、2017年度と2年続けて発生し、2023年の発生は2020年から3年続けての流行です。人のインフルエンザ発症の大流行が毎年ではなく数年おきに起きるのは、抗体を持つ人が一定の割合いるから【感染が起こっても大流行には至らないため】と考えられます。鳥インフルエンザも、数年おきの流行だったものが連続して起きているのは、ウイルスの変異が頻繁に起きているのか、海外の別の地域にあった別系統のウイルスが侵入して【抗原特異性を持つ抗体が反応しないためである】可能性があります。

また国内で見ると、高病原性鳥インフルエンザに感染した種にも変化が見られます。
過去の大規模発生を比較すると、2010年~2011年はオシドリやスズガモ属での感染確認が多かったのですが2020年~2023年ではスズガモ1例のみです。一方、ハシブトガラスは2022年、2023年と確認が相次いでおり、オジロワシでの確認も増えています。マガモ属は感染しても症状が現れず、確認数以上にウイルスを持った個体がいて、それを食べた猛禽類やカラス類が感染したものと考えられます。また、ナベヅルやマナヅルでの感染が多いのも2022年~2023年の特徴です。
確認される種類が変化していることからもウイルスの変異が起きていることが考えられます。

過去の野鳥の高病原性鳥インフルエンザ感染確認数との比較
過去の野鳥の高病原性鳥インフルエンザ感染確認数との比較(表)

出典:「2021年~2022年シーズンにおける高病原性鳥インフルエンザの発生に係る疫学調査報告書」(農林水産省)を加工して作成
注)2022年~2023年の数値は、令和5年4月7日現在 疑い事例3件を含む

最近、高病原性鳥インフルエンザの発生が、全世界的に起きています。野鳥でも2021年にイスラエルで約8,000羽のクロヅルが死亡しました。2022年には東欧で2,400羽以上のハイイロペリカンが、また2022年の繁殖期には北大西洋の海鳥コロニーでシロカツオドリ、サンドイッチアジサシ、アジサシ、キタオオトウゾクカモメが死亡しました。また。11月以降ペルーとチリでペルーペリカン約17,000羽を含む発生が起きています。

高病原性鳥インフルエンザの発生(2022年7月以降)

出典:「令和4年度 鳥インフルエンザに関する情報について」(農林水産省)

現在は、冬の間に発生した高病原性ウイルスを保持したままカモ類等が北の繁殖地に持ち込み、そこで遺伝子再集合が起こり変異が発生し、それが次のシーズンに国内に持ち込まれたり、別のフライウェイに侵入したりしていると考えられます。

世界各地で確認されている高病原性鳥インフルエンザウイルスにどのような関連があるかは、今後の解析や今シーズンの疫学調査報告書を待たなければわかりませんが、今や高病原性鳥インフルエンザは世界的な問題になりつつあります。今シーズンに他の地域で猛威を振るったウイルスが変異し、次のシーズンには国内に侵入することも考えられます。畜産業だけでなく絶滅危惧種も直面する問題にもなりつつあります。

'20~'21シーズンにおけるHPAI(H5N8亜型)のユーラシア全域における発生(経路等は推測を含む)
’20~’21シーズンにおけるHPAI(H5N8亜型)のユーラシア全域における発生(経路等は推測を含む)

出典:「令和2年度における高病原性鳥インフルエンザの発生に係る疫学調査報告書」(農林水産省)

世界のフライウェイ
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『State of the World’s Birds 2022』の日本語仮訳を掲載しました

『State of the World's Birds 2022』表紙

バードライフ・インターナショナルが4年ごとに発行するこのレポートは、自然の状態、自然に対する圧力、実施されている解決策、必要な解決策について、鳥が教えてくれることを要約したものです。

レポートでは、鳥類と生物多様性にとって最も重要な場所を効果的に保全、保護、管理することが最も重要な行動のひとつであると結論づけています。

2022年のバードライフ設立100周年を機に公表された今回のレポートを仮訳でお届けします。

State of the World’s Birds 2022
(PDF:12.9MB)